TOP PLAYER INTERVIEW #93

Xの日本マーケティングヘッド竹下洋平氏が語る「Xの現在地」 AI・ユーザー・開発チーム・全員でつくる「Everything App」

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 2022年10月のイーロン・マスク氏による旧Twitterの電撃的な買収から3年。青い鳥から黒文字のロゴへとリブランディングしたXは、今年3月にxAIに統合されると、独自の生成AI「Grok」を中心としたAI駆動型ソーシャルサービスへと本格的に生まれ変わった。そのX独自の価値創造とユーザーのエンゲージメント向上を牽引するのが、米国に次ぐマーケットである日本のX Corp. Japanだ。

 アジェンダノートではX Corp. Japanのマーケティングヘッドを務める竹下洋平氏に取材。日進月歩の進化を続けるXの現在地や「世界一賢いAI」を標榜するGrokによるユーザー体験の変化、マーケティングの役割と他部門連携、そして旧Twitter時代から在籍し、劇的な変化を乗り越えながらキャリアを重ねてきた竹下氏自身の思いを聞いた。
 

すべての機能にGrok AI、広告ではハッシュタグが禁止に


ーー TwitterがXとなった当初、イーロン・マスク氏による大規模な人員整理や非上場化、社名変更といった経営上の改革は衝撃的でしたし、ユーザー視点でも青い鳥が消えて黒文字のXになったことには強烈な印象を受けました。Xというサービスは実際、どのように変わったのでしょうか。

 TwitterがXになったことで、会社としても私個人としてもさまざまなチャレンジに向き合うことになったのは確かです。根本的に最も意義があったのは「Everything App」を目指すようになったことです。一般ユーザーはもちろん、企業、マーケター、クリエイターなどあらゆる人にとって「世界で最も便利なインターネットサービス」になる目標を掲げ、それに向けてさまざまなことに取り組んでいます。そして、すべての取り組みの中核には「世界一賢いAI」をベンチマークとする「Grok AI」があります。

 たとえば、Twitter時代からの普遍的な価値である「情報収集・発信」機能の延長で、近年、グローバルで力を入れているのが動画コンテンツの配信です。Xになってから実装した機能として「ビデオタブ」という動画専用のタイムラインがあり、全画面でスワイプしながら動画を楽しむことができます。AIがユーザーの日々の投稿・閲覧などを綿密に読み取り、おすすめの動画を表示します。動画市場は伸び続けていて、日本でも2024年の動画視聴時間の伸び率は前年比+14%、X滞在中の動画視聴時間の割合は55%に達しました。
 
X Corp. Japan
Head of Marketing, Japan
竹下 洋平 氏

日本地域においてのXのマーケティング全般を統括。2009年から2014年まで広告代理店マッキャンエリクソンにてデジタルプラニング、コミュニケーションプランニングを担当。2014年にTwitter Japan入社後、広告営業、リサーチマネージャーとして多岐にわたる業種の業務を担当し現在に至る。ワインと家電に関する資格保有者。

ーー AIを活用した動画配信プラットフォームは他にもありますが、Xの優位性はなんでしょうか。

 ひとつは情報のバラエティ豊かさです。元来がテキストベースでの投稿プラットフォームだっただけに、政治から経済、テクノロジーといった硬派な話題から小さな悩みごとまで、「検索して出ないトピックはない」と思っています。動画でも同様に、バラエティに富んだ動画が投稿されています。

 もうひとつは、Xユーザーと親和性の高いプレミアムな限定コンテンツの配信です。グローバルコンテンツパートナーシップというチームがあり、日本独自の施策としてはホリプロさま、エイベックスさまと組んで「ホリプロボーカルスカウトキャラバン」という男性ボーカルに特化したリアリティーショーをX OriginalsというXのオリジナル番組として配信しています。リアリティーショー自体がトレンドですし、Xは「推し活」との相性がいいので、Xで見られるオーディション番組は受け入れられやすいと考えています。

ーー Twitter時代から収入源の大半は広告収入ですが、マスク氏による買収直後は2021年比で減少したと聞いています。その後、広告収入は回復基調とのことですが、広告に関してXになって変わったことはありますか。

 イーロン・マスク自身が広告主さま向けにXのイノベーションを語り、質問にも答える「Ask me anything(AMA)」という場を動画で配信する企画を設けるなど発信を強化しています。強調したいのは、広告主さまにとっても、広告を見るユーザーにとっても本質的に価値のある広告を出していくということです。

 具体的にはまず、Grok AIがフル統合したことで2025年から精密な自動ターゲティングが可能になりました。広告配信する際、これまではキーワードや、特定のテーマのフォロワーをターゲットとして指定する必要がありましたが、今後は広告クリエイティブの内容をGrokが自動的に読み取り、価値を感じる可能性が高いユーザーにマッチングして配信する機能が強化されていきます。

ーー 広告主にとって、Grokとうまく協業して広告効果を高めるために押さえるべきポイントはあるのでしょうか。

 たとえば、クリエイティブの工夫です。特に日本の広告はひとつのクリエイティブに複数の要素を詰め込む傾向がありますが、Grokのターゲティング効果を最大化するには要素を絞ったほうがいいです。たとえばセールの広告であれば、服・化粧品・日用品といった複数の要素ではなく、化粧品に特化したほうが読み取りやすくなります。

 それから、これは「ユーザーにとっても価値ある広告」とつながりますが、我々は最近、広告に関して「エステティックスコア」という基準を打ち出しました。広告の視覚的・デザイン的な品質をGrokが評価するための新しい指標で、スコアが高いと優位に配信されるようになります。

 「ミニマルで洗練されたもの」というイーロン・マスクのビジョンを反映させたもので、象徴的なのは今年6月からの広告におけるハッシュタグ完全禁止です。これまで広告ではあらゆる目的のためにハッシュタグを付けるのは常識でしたが、見た目の洗練度を損ねたり、ユーザーの注意が散漫になったりするなどの理由により、禁止になりました。ユーザー体験や広告としての洗練度を損ねるようなギミックや「釣り」広告は、自動的にGrokによって制限されるようになります。

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