TOP PLAYER INTERVIEW #93

Xの日本マーケティングヘッド竹下洋平氏が語る「Xの現在地」 AI・ユーザー・開発チーム・全員でつくる「Everything App」

 

AIとユーザー協力で誤情報拡散をブロック


ーー 日本オフィスでは2024年に開発チームが設置されたそうですが、どのような背景があるのですか。

 日本は月間アクティブユーザー(MAU)が6700万人と、人口の半分が月1回以上Xを使っている超重要市場です。MAU数だけでも米国に次いで2位ですが、それ以上にヘビーユーザーが多いのが特徴で、2024年はポスト数、インプレッション数、検索数、利用秒数が世界1位でした。愛着があるユーザーが多いからこそ、改善リクエストもすごく多く、「こういう機能を追加してほしい」「ここが使いにくい」といったポストが日々投稿されます。

 昨年立ち上がった開発チームは、イーロン・マスクをCTOとするエンジニア組織の一員として、日本だけではなくグローバルの仕事をしていますが、そんな日本市場のニーズをダイレクトに聞いて反映させやすいように日本に設置されました。開発に関する要望やバグ報告のための専用コミュニティも立ち上げ、日常的にユーザーの声を聞く仕組みを整えています。すでに、ユーザー体験を改善する施策がいくつも実行されています。

ーー 具体的に、どんな改善が行われているのですか。

 たとえば下書き機能の強化です。下書きで太文字やインライン(斜体)が使えるようになり、ユーザーからの希望が多かったデバイス間の下書きの同期もできるようになりました。それから、検索時のユーザー名除外も、日本の開発チームが発案したことです。「イタリア」について調べたいのに、ユーザー名に「イタリア」が入っている人が検索結果に出てきてしまうと、目的になかなか辿り着けないですよね。そのような不便がないように、本文に「イタリア」が入っているポストだけが検索できるようになりました。

 また、日本ならではの実験的な施策として、昨年の勤労感謝の日に「勤労感謝」に関連するキーワードをポストすると、自動的に労いメッセージが表示されるようにしました。「毎日お疲れ様です。Xで息抜きしてくださいね。」など、特別な通知が表示されるようになっていて、ユーザーからは「Xってこんな気が使える子だったっけ」などと、好意的なポストやリプライが起こりました。数字的には「勤労感謝の日」関連ポストは前年比で56%増加。Xとしてもエンゲージメント向上に効果がありました。
  
2024年の勤労感謝の日に「労いメッセージ」が表示された人のポスト(X提供)

 日本独自のモーメントで、意図的にポストを増加させるのは労力がかかるものですが、日本で働く人の心情に寄り添い、プラスの影響を及ぼす意味で効果が大きかったと思います。

ーー そういった細やかな施策や改善は、マーケティング的にはどんな効果があるのでしょうか。また、竹下さん率いるマーケティングチームは開発チームとどのように連携しているんでしょうか。

 それはX全体のチャレンジとも関わるところです。2011年の東日本大震災でリアルタイムの情報入手・発信の重要性が見直され、Twitterはユーザー数が激増しました。だからこそ、Xに変わったときは「Twitterを壊した」といったネガティブな声やセンセーショナルな報道もありましたし、現在に至るまで、愛着のあったTwitterに戻してほしいという声が寄せられたり、「ツイート」という言葉が使われ続けたりしています。

 ただ「XがTwitterを壊した」というのは、我々からすると事実ではありません。フラットにリアルな情報を届けることは、Twitter時代から続く普遍的価値だと信じています。それに加えて、Xになってから実装された新しい機能や、マスク氏が強調する言論の自由、Everything Appとしての価値を日本のユーザーにも感じてほしい。グローバルの広報チームや各部署と連携しながら、X Corp. Japanの公式アカウントやイベントなどを通して対外的に発信するのが、私たちマーケティングチームの役割です。

 日本に開発チームが設置されてからは距離の近さもあって、アイデアディスカッションやユーザーアンケートのフィードバックを通して、ユーザーのニーズを開発に生かしてもらっています。たとえば先ほどお話した勤労感謝の日のメッセージでも、日本ユーザーの特徴を踏まえてマーケチームから文言を提案したりしました。機能をつくるのは開発チームですが、その価値をユーザー目線で伝えるのはマーケの仕事です。

 また、Xを通した海外企業による日本への発信、逆に日本企業による海外への発信の支援も強化しています。先日もAPAC諸国や中国・韓国の企業を招き、日本でのXの使われ方や効果的なメッセージについてセミナーを実施しました。また、日本企業を招いたイベントでは、海外におけるXの影響力から、たとえばラマダン(イスラム教の断食行事)中のX上のコミュニケーションといった海外ならではの事情を伝えました。こういったイベントの総合プロデュースもマーケチームの仕事です。チームの規模は非公表ですが、マーケティングはグローバルでより強化しようとしているところです。

 私個人の目標としては「Xファンをもっとつくりたい」という思いがあり、最近ようやく、実現され始めていると感じます。新機能や機能改善をリリースすると、「こんな神機能があったのか」「Xがいい仕事をしている」といった好意的なポストを目にする機会が増えました。
  

ーー フェイクニュースの拡散など、リスク管理は現在どのようにされていますか。

 Xのミッションは言論の自由(Freedom of Speech)を守ることです。けれどもちろん、どんな発言でも許されるわけではなく、厳格なポリシーにもとづき、生命を脅かすような意図を持った投稿は削除したり、アカウント凍結をしたりすることがあります。もちろん国によって関連する法律は違うので、グローバルの関連チームと連携しながら専門部署が慎重に行います。また、これらの投稿すべてをリアルタイムに人力でチェックするのは不可能なので、ここでもGrokが活躍しています。

 今年9月17日には、ポリシーにもとづき、テロ行為を未然に防ぐ観点から警察の協力要請に応じた対応について、警察庁公安課長から当社が感謝状をいただきました。グローバルと連携しての対応だったので、X Corp.全体として評価していただいたものと光栄に感じています。

 Grokでの監視に加えて、Twitter時代に登場し、Xになって強化した「コミュニティノート」という注釈機能があります。誤情報や、誤解を招く可能性がある投稿に対して、世界に100万人以上いる「協力者」と呼ばれるユーザーが協力して注釈(ノート)を追加できる機能 です。協力者になるために誰でも申請できますが、Xを適切に利用しているかどうかなど審査があり、ノートも勝手に付けられるわけではなく、協力者の間で妥当性が評価され、一定の支持が得られたら表示されます。

 ファクトチェックは専門家が行うイメージがあるかもしれませんが、専門家であってもバイアスからは逃れられませんし、費用や効果に制約があります。その点、さまざまな視点や知見を持つユーザーが協力してつくるコミュニティノートは、米ワシントン大などの研究チームが「ノートが付記された投稿は転載が4割減る」という研究成果を発表したように、言論の自由を維持しつつ、誤情報の拡散を抑制する効果を発揮しています。この機能はXが実装した後、Meta(Facebook、Instagramなど)やGoogle(YouTube)も導入しています。

 もともと人間の本能的な特性として、正しいこと、有益な情報をみんなに知ってほしいという願望があると思います。その特性を活用しているのがXというプラットフォームです。協力者には金銭的な御礼は一切お支払いしていないのですが、言論の場の安全を守るために、協力してくださっていると考えています。

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