TOP PLAYER INTERVIEW #93

Xの日本マーケティングヘッド竹下洋平氏が語る「Xの現在地」 AI・ユーザー・開発チーム・全員でつくる「Everything App」

 

XのリアルタイムデータをGrokに統合


ーー 先ほどから出ているGrokについて、あらためて教えてください。ChatGPTなどと比べると、知名度は低い気がしますが、優位性はなんでしょうか。どのように使ったらいいんでしょうか。

 Grokは2023年11月にX内の機能としてリリースされてまだ2年に満たないですが、2025年1月から独立したアプリが登場し、アプリストアでも上位にランクインし続けています。

 特徴は抜群の賢さとXのデータが唯一フルに使えるということです。ChatGPTやGeminiなど、他のAIツールよりも推論能力が高く賢いというベンチマークテストの結果が複数出ています。世界的な影響力のある人や各方面での専門家の利用も多い世界5億5千万人のXユーザーのデータを、リアルタイムで統合・反映できるAIはGrokだけです。この分野は「追いつけ追い越せ」で開発競争が激しいですが、世界中の人々の声や行動を即時に取り込み、学習して反映するための投資を惜しんでいません。米国メンフィスに巨大なデータセンターがあり、NVIDIAのチップを20万台搭載しています。

 現在Grok4までリリースしており、イーロン・マスクは年内にも「5を出す」と言っています。先ほどお話した動画レコメンドや広告ターゲティング、誤情報のキャッチ、さらには各メディアのヘッドラインを瞬時にまとめる最新ニュースなど、Everything AppとしてのXのあらゆる機能の中核にGrokがあります。

 Xユーザーの方にも、Grokの独立アプリをダウンロードして何でも相談してみることをおすすめします。アプリにはX内やWeb版にはない機能がたくさんあり、たとえば「Grok Imagine」はプロンプトを入れると自動で画像・動画を生成してくれます。もちろん日本語に対応しています。「ローマ帝国にいる侍」と指示すると、すぐにそれらしい画像が生成され、声を出したり、ピザを食べたり、刀を振るったりという好みの調整もできます。

 また、擬人化された「Grok コンパニオン」は、一部で「忖度しないAI」と呼ばれるGrokの知能を反映しているだけに、リアリティある回答をしてくれます。子ども向けには「Good Rudi」というコンパニオンもいて、ユーザーやニーズによって使い分けが可能です。
  
「壁打ち相手」として活用できる「Grokコンパニオン」(X提供)

ーー Xで流れるリアルタイムの情報やトレンドを即時に学習してGrokが答えてくれるというのは、マーケティングにも生かせますか。

 もちろんです。たとえばですが「東京でペット用の服を販売するために、ペット愛好家のインサイトやトレンドを加味して、どんな効果的な広告キャンペーンを打てばいいか」と打ったとします。ペット関連の投稿から学習して、かなり信頼性の高い回答を出してくれますよ。

 ソースとなっている投稿やサイトを示すのも特徴です。先日、韓国旅行に行った際、好きなシャツのイメージを写真付きでGrokにアップし、「これと似た韓国ブランドの服を売っているソウル市内のお店を教えて」と相談すると、お店の公式サイトをピックアップしてくれました。実際に行ってみるとドンピシャな服を見つけて、買ってしまいましたね。

ーー Grokの万能ぶりが印象付けられますが、マーケティングチームとして課題はどのように認識していますか?

 やりがいでもありますが、進化がものすごく早いことです。開発に対するXの文化として、圧倒的なスピード感があり、「いい」と判断すればティザーを打つことなく即リリースすることが多いです。出ると決まれば今日の公式アカウントでどうポストするか、明日のイベントでどう発信するか。関係各所から正確な情報を集め、それがユーザーにとってどんな意味があるのか意義付けし、慎重さとスピード感を持ってリリースします。その際は、それこそ、Grokに相談することもあります。「こうポストしようと思うけれど、炎上しないかな」など。

ーー 最後になりましたが、竹下さんご自身はどのような経緯で現在の立場になられたのですか。マーケティングにおいて大切にしていることはなんですか。

 Twitter時代の2014年に入社したので、グローバルでも長く在籍しているほうです。

 元々は米国の特にコミュニケーション分野で評価を得ている、シラキュース大学・ニューハウススクールで広告クリエイティブを専攻し、外資系広告会社のマッキャンエリクソンの日本オフィスに新卒入社しました。メディアプランニング、コミュニケーションプランニングを担い、広告のデジタル活用を考える中で、企業のコミュニケーション活動におけるTwitter活用の重要性と、ユーザーの反応をダイレクトに得られることに魅力を感じ、Twitterに転職しました。

 Twitterでは、最初は広告営業を3年ほどやり、Twitterという媒体自体に大きな価値を感じたため、プラットフォームとしてのTwitterを研究、発信したいという思いから異動を希望しました。まずリサーチ部署に異動し、広告主さまがTwitterを使う価値をデータを中心に証明する仕事に6年ほど従事し、その間に買収されてXになりました。私がいたリサーチ部門もマーケティングチームも人員削減されましたが、プラットフォームの価値を発信したいという思いは変わらず、社内外公募で手をあげて2024年春にマーケティングに異動しました。

 いろいろ変遷しているように見えるかもしれませんが、自分の中でやりたいことはずっと変わっていません。本当にいいと思うものを広く世に伝える仕事をしたいと、広告、デジタル、Twitter、Xと、コミュニケーションで効果的に伝える手法を探求してきました。結果的に、今はこれまでの経験すべてを組み合わせて、総合格闘技的にやりたい仕事をやれている楽しさがあります。日本の各部署はもちろん、グローバルチームとも連携して、マーケティングを通してXの価値を今後もより発信したいと思っています。

 マーケティングチームは営業やエンジニア、法務、オフィスマネジメント、人事など、いろいろな人と関わります。私は個人的に音楽が好きで、自分でもバンドをやっているんですが、みんなが連携して気持ちよく仕事が回る時は、ジャズのアドリブセッションをしているような気がします。全員で高め合っていくような、そんな面白さがあるからこそ、スピードが求められるスリリングな仕事でも、前向きに仕事ができるんだと思っています。

ーー スピーディーな連携が仕事の生産性・効率性はもちろん、やりがいにもつながっているんですね。本日はありがとうございました。
  
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