CMO Frontline ―マーケティングトップの思考と挑戦に迫る― #01
【新CMO連載】ドミノ・ピザ ジャパン新CMO杉本美穂氏が取り組む、激戦市場で勝つための「戦略」と新たなブランド醸成
CMO(最高マーケティング責任者)――。経営層の一員として全社のマーケティングを統括し、事業成長を牽引する存在として注目を集める一方、急速なテクノロジーの進化をはじめとする外部環境の変化を背景に、その役割は拡張・分散しつつある。グローバルでは、CMOという役職のあり方そのものを問い直す動きも出てきている。
AGENDA Note.の新連載「CMO Frontline ―マーケティングトップの思考と挑戦に迫る―」は、まさにその過渡期に立つCMOたちの「最前線」を追う。彼らが描く戦略、組織を導くリーダーシップ、そして多彩なキャリアを通じて磨かれた鋭い洞察は、企業やマーケットに何をもたらすのか。最前線で指揮を執るその姿は、先行き不透明な時代を行くマーケターにも指針を与えてくれるに違いない。
第1回は、宅配ピザ国内トップシェアを誇るドミノ・ピザ ジャパンのCMOに2025年7月に着任した杉本美穂氏にインタビュー。米国と日本のグローバルブランドカンパニーで20年以上にわたって活躍し、消費財からファイナンスまで幅広い分野で事業成長とブランド価値向上を担ってきた杉本氏は、激戦化する日本のピザ市場に何を仕掛けるのか。その方針と背景を聞いた。
AGENDA Note.の新連載「CMO Frontline ―マーケティングトップの思考と挑戦に迫る―」は、まさにその過渡期に立つCMOたちの「最前線」を追う。彼らが描く戦略、組織を導くリーダーシップ、そして多彩なキャリアを通じて磨かれた鋭い洞察は、企業やマーケットに何をもたらすのか。最前線で指揮を執るその姿は、先行き不透明な時代を行くマーケターにも指針を与えてくれるに違いない。
第1回は、宅配ピザ国内トップシェアを誇るドミノ・ピザ ジャパンのCMOに2025年7月に着任した杉本美穂氏にインタビュー。米国と日本のグローバルブランドカンパニーで20年以上にわたって活躍し、消費財からファイナンスまで幅広い分野で事業成長とブランド価値向上を担ってきた杉本氏は、激戦化する日本のピザ市場に何を仕掛けるのか。その方針と背景を聞いた。
コロナ禍後の変化に課題感
―― ドミノ・ピザジャパンのCMO就任の背景にもつながる、杉本さんのマーケティングにおける「強み」とは何でしょうか。
強みかどうか分かりませんが、私にとって「核」となるのは人間や社会に対する興味ですね。「ブラックボックス」と呼んでいますが、何か働きかけると何か出てくる、その仕掛けを解き明かすと、どうしたら生活者に特定の行動をとってもらえるかが予想できます。それがマーケティングの基礎だと考えているので、人間や社会のブラックボックスを理解する、解き明かしていくのがとても好きです。
その上で、私がマーケティングにおいて最も重要かつ最も面白いと思っているのが「戦略」の構築です。大切なのはターゲットを見極め、どこで戦って、どうやって勝つかということ。「どこで」というのは当然ながら出店場所でなく、カテゴリーやニーズのことです。戦略は施策にあたる「戦術」と混同しがちですが、戦術から始めてしまうと一時的に勝っても長続きしません。上流のコンセプチュアルな部分の戦略をキャプテンとしてどう組み立てるか。その点で力になれると思い、ドミノ・ピザ ジャパンのメンバーとして新しいキャリアを開きました。
ドミノ・ピザ ジャパン マーケティング執行役員 CMO
杉本 美穂 氏
コカ・コーラ本社、スターバックス本社、キンバリークラーク本社でグローバルブランドマネジメント、新事業ディレクターを務め、ダノン、ケイトスペード、アメリカンエキスプレスインターナショナル個人事業部副社⾧を経て現職。北米と日本を軸に五大陸25ヵ国の業務経験がある。ヴァージニア大学コルゲート・ダーデン経営大学院修士。WSETワインスペシャリスト。
杉本 美穂 氏
コカ・コーラ本社、スターバックス本社、キンバリークラーク本社でグローバルブランドマネジメント、新事業ディレクターを務め、ダノン、ケイトスペード、アメリカンエキスプレスインターナショナル個人事業部副社⾧を経て現職。北米と日本を軸に五大陸25ヵ国の業務経験がある。ヴァージニア大学コルゲート・ダーデン経営大学院修士。WSETワインスペシャリスト。
―― 国内ピザ市場はスーパーやコンビニも参入するなど競合が増えています。一方、ドミノ・ピザはコロナ禍で店舗数が1000店舗を超えましたが現在は削減。個食向けの「ピザBENTO」を発売するなど新機軸を模索しているように見えます。貴社においてマーケティングに期待されている役割はどのようなものですか。
今、当社のマーケティングで一番大切なのは、まさに「戦略」です。今年日本上陸40年を迎えましたが、色々な世の中の変化に直面してきました。最大の転換期であるコロナ禍には、価値観、働き方、社会的な行動がガラリと変わり、それは飲食業界にも大きな影響を及ぼしました。当社は「巣ごもり需要」でデリバリーを多く利用していただき、店舗数が増加しましたが、コロナが明けると以前とは違った方向に世の中や価値観が変化しました。当社はこの変化に追いつくのがやや遅かったと私は考えています。
コロナ禍で苦労を強いられた飲食企業は、その時期にオペレーションやサプライチェーン、メニューなどの「足腰」を鍛え上げ、それが今になって花開いています。一方で、私たちはコロナ禍に忙しすぎて、着実に日々のサービスをお届けすることにエネルギーを注いだために、今になって他の企業より一歩二歩遅れている。今はQSR(クイックサービスレストラン:短時間で提供されるファストフード店)も伸長していますし、食い込む必要があります。社会や価値観が変化した世界で経営資源をどのように配分し、どんな価値を提供していくか。自社の存在意義を再定義する意味での「戦略」が重要です。
――日本のピザ市場の特徴をどう見ていますか。
グローバルで見ると、日本におけるピザのカテゴリーは他国と違います。北米では、ピザが日本の「おにぎり」のような位置づけで日常的に食べられており、ランチや間食、休日の家族の食事といった感じで来店や購入の頻度が高いです。ヨーロッパでは、「本場のピッツァ」のお店がたくさんあるにもかかわらず「米国のピザ」カテゴリーも確立していて、購入回数も多いです。一方、日本ではピザ自体は浸透していますが、日常的に購入する方は少ないのが現状です。このギャップを考えると、まだまだ私たちが提案できることがあるはずです。
――日本では、ピザはパーティなど特別な時に食べるイメージですね。
「みんなで分け合って食べる」というシーンに引っ張られてカテゴリーのイメージが出来上がっているために、ハレの日にオーダーされることが多いですが、食材や製法としては特別である理由はないはずです。カテゴリーは戦略的に変えることができます。たとえばお寿司も昔は特別食でしたが、回転寿司ができて気軽に食べに行けるものになりました。フライドチキンも以前はクリスマスのイメージが強かったですが、コンビニが参入したことで身近になりました。ピザもそのように日常食に変えられると考えています。
――ドミノ・ピザ ジャパンは、2016年に配達状況を顧客が追跡できるGPSトラッカーを導入するなど、宅配業界のテクノロジー分野で先駆けてきました。マーケティングはテクノロジーにどのように関与するのでしょうか。
もちろん、マーケティングとテクノロジーが協業しないことはあり得ません。お客さまに対する場面では、どうしたら美味しい状態で商品を届けられるか、差別化につながる付加価値を付けられるかといった点で消費者インサイトを活用し、技術面での改善を提案していくこともあると思います。
現時点で特に力を入れたいのはパーソナライゼーションです。私は顧客データを直接入手することが難しい消費財メーカーに長くいたので、それに比べると、Webやアプリ、店頭で購買データを入手できるのは当社の強みだと思います。購買データに基づきオファーやレコメンドを出し分けるCRMはすでに行なっており、今後、さらにお客さまの意思決定をスムーズにしたり、有益な情報をお伝えしたりできるよう、AIを含むテクノロジーを積極的に活用していければと考えています。




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