CMO Frontline ―マーケティングトップの思考と挑戦に迫る― #01
【新CMO連載】ドミノ・ピザ ジャパン新CMO杉本美穂氏が取り組む、激戦市場で勝つための「戦略」と新たなブランド醸成
「価値観」で新ターゲット層見出す
――CMOとして特に取り組みたいと考えていることを教えてください。
3つあります。1つ目は商品で、ピザをより美味しくしたいと思っています。現状でも美味しいですが、私たちの競合はピザだけではありません。私が以前勤めていたスターバックスではコーヒーだけではなく、ケーキやアイスクリーム、あるいは「趣味」も競合になり得ると考えていました。ピザもやはり、さまざまなカテゴリーと競合していて、ランチだけでもお弁当、レストラン、コンビニ、自炊と競合だらけです。その中で選んでいただくには商品力をさらに上げていく必要があります。
2つ目はカスタマージャーニーです。日本人は1日で平均6000~7000の広告を目にして、記憶に残るのは1~2つとされています。メール、電車、道を歩いていても、膨大な広告に取り巻かれる中で、何を買うかを選択していくのは大変です。だからこそ、いかに早く簡単に、好きなものを見つけて決済できるかがとても重要なバリューになります。せっかく「いいな」と思っていただけたなら、そこからちょいちょいと決済してあとは20分の配達を待つだけ、という状態にしたい。カスタマージャーニーをいかにシンプルにして、かつリピートにつなげるかということに尽力します。

3つ目はブランドです。私はブランドビジネスの威力を、最初に勤めたコカ・コーラで思い知りました。同じ商品であってもブランドとそうでないものでは価値が違い、前者は少々高額でも選ばれます。それはブランドがもたらす「体験」に価値があるからです。スターバックスであればロゴ入りのカップを持ってホッと一息つく、その時間や体験を買っていると考えられます。
ブランドはそうした付加価値をつくることができます。これによってトップラインを伸ばすことができ、ブランドへの再投資を促し、さらにブランドが他社と差別化され、容易に切り崩せないものになるのです。ブランドビジネスの戦い方は、敵が入ってこられない「深い堀」を築くことにあります。コストを切り詰めるバリューエンジニアリングを軸とするコモデティビジネスとは、根本的に違うのです。
ドミノ・ピザは日本でも高い認知があるにもかかわらず、「どんなブランドか」と聞かれるとあまりクリアではないと思います。逆に言えば、醸成する余地があるということですから、いろいろなデータを見て取り組みたいです。
―― 商品そのものにも積極的に関与するということですが、それもブランドビジネスの経験から重要と考えていらっしゃるのですか。
商品はブランドの大事な一部です。私は「レバー」と呼んでいますが、たとえば価格、パッケージ、広告、プロモーション、パートナー、供給先、流通など、売上と利益、ブランド価値を最大化していくためにブランドマネージャーが組み合わせるあらゆる打ち手の中で、大きく動かせるのが商品です。しかも嗜好や食材のトレンドは変わるので、時代に合わせないと古臭い味になってしまいます。もちろんレシピ開発は専門家が行いますが、世の中の変化に取り残されないよう、真剣に改善に向き合っています。
同じことはパッケージやロゴでも言えます。コカ・コーラはレシピ以外の部分をどんどん変えていますし、スターバックスもロゴを少しずつ何度も変更しています。このように「本質」の部分は残し、消費者に合わせて少しずつでも変化するのは、ブランド醸成において欠かせません。
――ドミノ・ピザは「お持ち帰り半額」などの積極的な割引や、インパクトのある新商品のイメージが強いです。杉本さんがCMOになったことで施策も変化するのでしょうか。
今は戦略を立て直しているところなので、それに従って店舗や価格、メニューといった戦術も変化すると思います。ただ、すべて変えるのではなく、戦い方や武器の選択肢を増やしていくと思います。また、相手によって効く戦術も変わるので、リーチできる人を増やしていくことも重要です。
先ほどの「戦略」の中でも一番に挙げましたが、最も重要なのは「ターゲットは誰か」です。顧客接点が多様化しネットで情報が瞬時に共有される今、世帯収入やデモグラフィで割り出すのは限界があると感じていて、過去携わったブランドでの成功体験をベースとして「価値観」でセグメントを出します。じつは最近、そのためのひとつの調査を終えたところです。当社と相思相愛になれそうな価値観を持つ新たなセグメントが見えてきて、とてもワクワクしています。
まだ具体的にお話しできませんが、これから当社が発する商品やメッセージを見て、「こういう人に訴えかけているんだ」と分かるようにしたいと頑張っています。楽しみにしていただきたいですね。
――マーケティング組織や人材の育成についてもお考えを聞かせてください。
先日、社員とのビジョン設定のミーティングで話したのは、今は仕事が高度に専門化した時代だということです。特にマネージャーレベルは高い専門性が必要とされるのと同時に、異なる専門性を持った他者との連携力が問われます。
現代の有機的組織論では、昔のようなトップダウン式の軍隊のような組織ではなく、お互いに連絡し合って動く組織体制が最もパフォーマンスが高いと言われており、私もそう思っています。だからバラバラに動くのではなく、オーケストラのように個々が強さを磨きながら有機的に連携し、全体として高いパフォーマンスを発揮できるようCMOが「指揮者」となる必要があります。そんなチームをつくっていきたいです。
―― 最後に少し個人的な部分をお伺いします。杉本さんがグローバルブランド企業でキャリアを築く上で、苦労したことや支えになったこと、座右の銘のようなものはありますか?
最も苦労したのはロジックですね。先に結論を立てて立証し、相手を納得させるためには何が必要か。それを組み立てるのがロジックなのですが、日本育ちの私は調べたことを積み上げて、「だからこんな結論になるのではないか」と考える逆の発想を基盤としていました。米国の大学で小論文を出すたびにバツで返され、泣きながらボランティアの大学院生に添削してもらったり、弁護士志願者と同じ試験対策の勉強をしたりしながら身に付けたロジックの力は、その後に通ったビジネススクールでも、企業のプレゼンテーションや予算獲得、プロジェクトを推進する際にも、非常に役立ちました。
また、支えという面では、ある意味日本的ですが「最後は人」だと強く感じています。もちろん政治的な意図で動く人もいますが、私が困っている時に、自分にはまるでメリットがないのに「正しいことだから」「面白いから」という理由で助けてくれた人が本当にたくさんいました。だから私も困っている人がいたら積極的に話を聞いたり、助けたりすることを心がけています。
座右の銘は「Hope is not a strategy.」です。祈りや願望は戦略ではありません。戦略はどこかから湧いて出るのではなく、自らつくらなければならないと、常に胸に刻んでいます。
―― 本日はありがとうございました。

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