顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #06
Netflix、DAZN…激化するSVOD(動画配信)市場で「顧客満足」をつくる要因とは? JCSI(日本版顧客満足度指数)初調査を読み解く【青学・小野譲司】
2025/12/01
顧客基盤を読み解く2つの視点
顧客基盤を分析する上では、以下の2つの視点がある。
- 定量的な顧客体験の評価: 顧客満足度や感動指数などの指標で、サービスの品質を測定し、顧客体験を可視化する。
- 顧客層の構成: ユーザーがどのような層(契約パターン、利用頻度など)で構成されているかを分析する。CRMで用いられるRFM分析やLTV推定に加え、ここではSVOD市場特有の指標に着目する。
サービスの「財布シェア」と「頻度シェア」
顧客基盤の構成を見る有効な指標として、「財布シェア(Share of Wallet)」と「頻度シェア」が挙げられる。これは、動画視聴カテゴリー全体に費やしている金額や総時間のうち、特定のサービスが占める割合であり、「顧客シェア」とも呼ばれる。
たとえば、有料契約をしていなくとも、日常的にYouTubeのショート動画を観る時間が長ければ、そのサービスに対する頻度シェアは高いと言える。SVODのカテゴリー利用頻度と顧客シェアという二軸で顧客基盤を特定するなどして、各サービスの顧客満足度がどのようなユーザー層によって形づくられているかを考察することが、重要な分析視点となる。
契約パターンから見る顧客基盤の構造
図表2 契約パターンで見る顧客基盤:シングルホーミングとマルチホーミング
図表2のベン図は、SVOD市場の3社(A、B、C社)の顧客基盤を、シングルホーミング(単一サービスのみ契約)とマルチホーミング(2つ以上のサービスを契約)という契約パターンで示している。シングルホーマーは動画配信の顧客シェアが100%のユーザーであり、マルチホーマーは顧客シェアがより低く、競合サービスを使い分けているユーザーである。
- シングルホーマー: 比較的最近SVODの利用を開始した利用経験が浅い新規ユーザーや、コストパフォーマンスを厳しく見る顧客が主体である。利用の習慣化をいかに促すかが優先事項となる。
- マルチホーマー: 2つ以上のサービスを同時に利用する経験豊富なユーザーで占められる。利用経験が豊富で、自分自身の多様なニーズを把握しており、それを満たすために複数のサービスを組み合わせて利用している。各サービスのコア価値を深く理解している顧客層でもある。
この図表から、各社の顧客基盤の特性が浮き彫りになる。例えば、B社はマルチホーマーが8割を占めており、シングルホーマーは少数派である。これは、B社が特定のジャンルに強みを持つ反面、品揃えが限定的であるため、ユーザーが他サービスと同時に利用し、コンテンツを使い分けている傾向を示している。
マルチホーマーは、複数のサービスと契約することで、各サービスのコンテンツの強みと、欠けている部分を相互に補い合い、多様なニーズを満たそうとしている。A社のマルチホーマーは、他にBもしくはCを契約するか、BもCも契約しているユーザーが存在する。市場全体の構成比は限定的であるが、4つ以上を契約するユーザーもいる。
コンテンツの視聴ジャンルと顧客の関心
図表3 SVODサービスで主に視聴しているジャンル(n=1,949)
※データ出所:JCSI調査2025年度(サービス産業生産性協議会)サブスクリプション方式のサービスにおける理想的な顧客基盤は、顧客シェア100%のシングルホーマーがほとんどを占めている状況がイメージされるかもしれない。しかしながら、少なくともSVODに関しては、さらに分析を進めることで、顧客理解を深めることができる。図表3は、各SVODサービスのユーザーが、主にそのサービスで視聴している動画ジャンルを示している。あくまでも調査結果に基づいたものであり、実態を正確に表しているとは言い切れないが、各サービスは、概ね次のような特徴を持っている。
- Netflix、Hulu、U-NEXT: 映画、ドラマ、アニメそれぞれに回答が分散しており、幅広いユーザーニーズに対応。
- DAZN: スポーツへの関心が高いユーザーが大半を占めており、特定分野に特化したビジネスモデルを示している。
- ディズニープラス: ディズニー作品、スター・ウォーズ、マーベルといった強力なIP(知的財産)への関心が集中しており、コアなコンテンツの強さが明確。
ユーザーは、自分の興味・関心に合うサービスを複数組み合わせることで、ニーズを満たすことができるが、その対価として、契約料の総額が増える。このコスト負担と利用実態のバランスが、解約行動に結びつく。特に、SVOD市場において特有な解約行動として、シリーズ全話を短期間で一気に観て解約(Binge and Bail)するユーザーの存在があり、コンテンツの配信方法や長期的な顧客維持(LTVの最大化)について、顧客解約の予測モデルや顧客維持の観点から学術研究も行われている。特にマルチホーマーとしては、複数のサービスの中から、契約を続けるものと、特定ジャンルのコンテンツを視聴し、用途が済んだら解約することで、コスト総額をコントロールしつつ満足度を最大化するのは合理的である。
利用頻度が顧客満足度と深く関わる
図表4 SVODの顧客基盤:契約パターン×月間視聴時間
※Netflixの「マルチ(他に2以上)」はサンプルサイズが少ないため参考値
図表4は、契約パターンと月間視聴時間の組み合わせによって、顧客満足度がどう変化するかを示している。3つのサービスに共通して、顧客満足度は視聴時間が長くなるほど高い傾向がある。特に注目すべきは、以下の2つのユーザー層である。
・低満足度のライトユーザー層
月間10時間以下のライトユーザーは、3社とも構成比の半数近くを占めているにもかかわらず、満足度がミドル以上と比べて有意に低い層である。サービス利用時間が短いために、「見たいコンテンツがない」「時間が取れない」といった理由で、支払っている料金に見合う価値(コストパフォーマンス)を感じにくい状態にあり、「チャーン(解約)予備軍」である、と考えられる。この層の満足度を改善し、利用の習慣化を促し、ミドル層へと転換させる施策が、顧客維持の鍵となる。
・高満足度のヘビーマルチホーミング層
月間20時間を超えるヘビーユーザーは、非常に高い満足度を示している。この中でも、マルチホーミング(2社以上契約)をしている層、特に「ディズニープラス以外に2社以上」を契約している層は、満足度に加えて感動指数も高い傾向がある。
これは、複数のサービスを契約することで、「見たいものがない」という最大のペインポイントをほぼ回避できる視聴環境が構築できているのかもしれない。これらのマルチホーミング層のヘビーユーザーは、コストを投じることで、単なるニーズ充足を超えた発見の喜びや熱狂的な没入体験(ハマる)という期待を超える感情的なリターンを得ている、と考えられる。




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