顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #06
Netflix、DAZN…激化するSVOD(動画配信)市場で「顧客満足」をつくる要因とは? JCSI(日本版顧客満足度指数)初調査を読み解く【青学・小野譲司】
2025/12/01
戦略的な示唆:LTV最大化のための戦術
最後に、戦略レベルでのコンテンツ投資と補完的価値、そして、戦術レベルでのロイヤルティ構築の課題を整理する。この分析が示唆するのは、SVOD事業者が目指すべきは、いかにユーザーの総視聴時間を増やし、複数サービスの契約を躊躇させないユニークな強みを打ち出せるかにある。そのために、どの領域に資源を戦略的に投入するのか、そして、自社の強みとする領域をテコにして顧客のロイヤルティを構築するための戦術を講じるかである。そうした戦略レベルと戦術レベルの課題解決をより効果的に行う上で、顧客基盤の状態を見極めることが重要となる。
・コンテンツ投資のROI測定の強化
巨額を投じるオリジナル作品や独占放映権が、優良顧客(LTVの高い層)の満足度、継続率、そして頻度シェアにどの程度貢献しているかを厳密に測定し、コンテンツ戦略の収益性を分析することが課題となる。
ディズニープラスやDAZNのように特定ジャンルに特化する場合、ユーザーは「これしかない」という理由で選んでいると考えられる。この熱量の高い顧客層が求めるコアコンテンツの品質維持にリソースを集中投下し、周辺機能への投資を抑える「戦略的な割り切り」も有効である。
・競合サービス間での「補完的価値」の活用
マルチホーミング顧客は、複数のサービスを組み合わせて満足度を最大化しているため、一部の競合は自社の弱みを補完してくれる市場のパートナーと捉えることができる。自社のユニークな強み(ディズニープラスのIPなど)を明確に打ち出し、顧客に組み合わせる上での核として選んでもらいやすくなるよう、エコシステム内での価値創造の可能性を探るべきことが示唆される。顧客シェア100%は、必ずしも目指すべき目標とは限らない。
・ロイヤルティ構築における「多角的利用」の活性化
動画視聴に関心が高いと思われるマルチホーミングユーザーが、単一サービス内でも多くのジャンルを跨いで利用している(Netflix、U-NEXTの例)事実は、プロダクトの多角的利用がエンゲージメントを深める可能性を示唆する。それゆえ、メインの利用目的を起点に関連機能への導線を設計し、ユーザーに「ついでにこれも使おう」という行動を促すことで、解約のハードル(スイッチングコスト)を高められるかどうかも課題である。
ライトユーザーをミドルユーザーへ引き上げる分岐点は、契約後の最初の数週間でいかに利用習慣を確立させるかにかかっていると考えられる。そのため、UI/UXの改善やパーソナライズを強化し、コンテンツを探す手間や起動の遅さといった小さなペインポイントを徹底的に取り除くことが課題となる。また、動画配信以外のサービスを提供している業者であれば、Amazonプライムのように他のサービス(ECなど)と抱き合わせることで、「ついで利用」を促し、顧客接点を広げることも有効な戦術のひとつである。
自社の顧客基盤がどのようなユーザーで構成されているかという観点から顧客行動を分析することは、SVOD市場にとどまらず、多様な業界において顧客理解を深める有益な方法である。
たとえば、小商圏の小売市場では、中小商店やスーパーに加え、弁当・惣菜や冷凍食品を品揃えするコンビニ、食品を取り扱うドラッグストア、さらには食材の宅配サービスなどが、顧客シェアを競い合っている。消費者は、ひとつのスーパーだけで日常の買い物を完結させる人もいれば、生鮮品をスーパーで、加工食品をディスカウントストアや通販で買うといった賢い使い分けをする人もいる。また、金融業界においても、メガバンクとオンライン専業銀行に複数の口座をもち、クレジットカードをはじめ複数のキャッシュレス決済を利用することも一般的に見られる。
このように、顧客が複数サービスをどのように組み合わせて使い分けているかという顧客行動のパターンを含めた顧客基盤の分析は、従来のRFM分析と並び、顧客理解を深めるためのもうひとつの重要な道筋となるだろう。
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