TOP PLAYER INTERVIEW #96

ジャングリア沖縄が証明する「テーマパークは多様なマーケティング人材が育つ場所」ジャパンエンターテイメント加藤CEO 1万字インタビュー

企画構想段階で見えてきた、現代人の「解放されたい」というインサイト


— ジャングリア沖縄のコンセプトは、既存の人気テーマパークとは大きく異なる印象があります。企画構想に入る前段階で行ったリサーチから見出した消費者のインサイトや市場の課題、そしてテーマパークが抱える構造的な問題について教えてください。

 まず前提として、都市型テーマパークとジャングリア沖縄では、意思決定の文脈が大きく異なります。都市型テーマパークは「週末レジャーの行き先」として選ばれる場所です。一方、私たちのパークは「旅先での体験の一部」として選ばれます。つまり「お客さまがこの週末に行く理由を提供する」のではなく、「お客さまが旅先で実現したいことを叶える」必要があり、その点で提供価値が大きく違うと考えています。

 企画構想段階では、複数の候補地を検討しながら、さまざまな体験コンセプト案を提示し、グループインタビューを重ねて消費者の反応を検証しました。属性別にフォーカスグループインタビューを実施する中で見えてきたのは、消費者が口では語らない“隠れた欲求”です。

 現代はスマートフォンさえあれば予約も決済もすべて完結する、非常に便利で効率的な時代です。しかし「旅」の話になると、人々は不思議とその便利さから解放されたいという欲求を抱いていることがわかりました。システム化された日常から離れ、大自然の中に身を投じ、思い切りさらけ出し、興奮や贅沢感を味わいたい――そんな心の動きが見えてきたのです。その一方で「汚れるのは嫌」「不便すぎるのは困る」という本音もある。この相反する欲求こそ、私たちが見出したインサイトでした。

 これを踏まえて、沖縄北部のやんばるの自然が持つ圧倒的な自然資源を活かし、地元産品や事業者の方々と連携しながら、こうした欲求をどう満たすかを考え抜きました。その結果導き出したのが、「ここでの体験を通じて、私の沖縄の旅が最高になる」という、ジャングリア沖縄の価値です。その価値を形づくる要素として、贅沢感、興奮、そしてそこから生まれる解放感があり、これらを「Power Vacance!!(パワーバカンス)」と定義し、パークのコアコンセプトとしました。

 そして提供方法としては、この地域にしかない価値をふんだんに活かすことを重視しました。旅先では「その土地でしか体験できない唯一性」が強く求められますから、「沖縄という旅先で、そのタイミングで行く意味」を具現化することが不可欠です。そうでなければ旅先での満足は得られないし、「私の沖縄の旅が最高になる」という体験価値にも到達できない―― これが、私たちがジャングリア沖縄の構想段階でたどり着いた答えです。

 特にジャングリア沖縄の開業にあたっては、食と物販に非常に力を注ぎました。地元産品の活用や地域事業者との共創を徹底し、旅行者が旅先で求める「その土地ならではの体験」を体現できるよう取り組んできました。その結果、食や物販の売上は当初想定を大きく上回り、好調に推移しています。こうした取り組みを含めた全体の体験設計によって、ジャングリア沖縄は「パワーバカンス」というコンセプト、「私の沖縄の旅が最高になる」という価値により近づけていると感じています。

— 「私の沖縄の旅が最高になる」というのが最も重要な価値であり、それを実現できればジャングリアとして成功だということはわかりました。「最高」の解像度をもう少し上げるために、ジャングリア沖縄が提供する顧客価値とは具体的に何なのか、もう少し踏み込んで教えてください。

 沖縄旅行者を対象に調査したところ、沖縄を訪れた方の多くが、旅を通じて「元気になれた」と強く感じており、その割合は他地域と比べて優位に高い結果でした。その背景を紐解くと、たとえば沖縄の文化に触れることもそうですし、何より「人」との触れ合いが大きく影響していることがわかります。私たちの従業員の約7割は沖縄出身ですが、彼らと話す中で感じるのは、おもてなしへの情熱の強さ、改善や前進への前向きな姿勢です。そうした温かさやエネルギーが、旅行者が旅の随所で触れる“元気の源”になっているのだと思います。

 さらに、沖縄にはパワースポットと呼ばれる場所や、世界自然遺産に登録された大自然など、“エネルギーを感じる環境”が豊富にあります。これらも「元気になれる」という感覚を後押ししていると思われます。

 もう一つの重要な側面が、南国リゾートならではの贅沢感・ラグジュアリー感です。沖縄は日本唯一の本格的リゾート地であり、旅行者の多くが「非日常の贅沢な気分を味わいたい」という潜在的な欲求を持っています。その欲求は、これまでの沖縄旅でもすでに一定以上満たされているものの、「もっと味わいたい」というニーズが根強いことも調査で明らかになっています。

 そこで私たちは、「元気になれる」= Power(パワー)、「憧れの休日を過ごす」= Vacance(バカンス)の2つを核となる価値に据え、双方を増幅する体験づくりを進めています。つまり、ジャングリア沖縄が提供したい顧客価値とは、 沖縄ならではのエネルギーと贅沢感を掛け合わせ、訪れた人が心から元気になり、旅そのものの質が一段階上がる体験であり、これこそが「私の沖縄旅が最高になる」状態をつくる中核だと考えています。

— 「パワーバカンス」というコンセプトには、たくさんの要素が凝縮されていますよね。恐竜と遭遇する大冒険のワクワク感もあれば、素敵なレストランやラグジュアリーなスパもあり、「誰向けの施設なのか?」を単純化できない面があると感じます。

 おっしゃる通りだと思います。繰り返しになりますが、ジャングリアは「旅先で体験する価値」を前提に設計しています。都市型テーマパークでは「1日に何個アトラクションに乗れたか」が価値指標になりがちですが、私たちはそこを重視していません。数日間の旅の中で、「この時間に、この価値を体験したい」という気持ちに寄り添うことが重要だと考えています。

 その意味で、気球に乗って大自然を空から見下ろす体験や、スリルのあるサファリツアー、贅沢な気分を味わえるスパや食事など、旅の目的に応じて選べる体験を用意しています。もちろん施設である以上、一定の待ち時間が発生することは避けられませんが、私たちが目指しているのは、あくせく歩き回ったり、長い行列に並んだりせず、旅で叶えたい価値をゆったり体験いただけるパークです。

 そのコンセプトに合わせ、朝から入場できる一日券に加え、特別な体験を付加した午後入場のパスも積極的に販売しています。つまり、どの時間帯に訪れても旅程の中でしっかりと「パワーバカンス」を感じていただけるように設計しているということです。パークが位置するやんばるの雄大な自然の中で、お客さまそれぞれが旅で叶えたい価値に合った体験を自由に選び取っていただきたいのです。旅行者の沖縄滞在のうち平均半日強ほどをジャングリア沖縄で過ごしていただくことを通じて、沖縄の旅全体の質を高めることを目指したいですね。

— ジャングリア沖縄を訪れた方が得る体験や感触は、お客さまによって大きく異なる可能性があるのですね。その「余白」、つまり「これを体験してください」と決めつけすぎず、お客さまが自分に合う体験を自由に選べるような設計を、強く意識されているのですね。

 はい。実際、お客さまの動きはパークを開けてみなければわからず、各アトラクションやパーク全体に対する反応も同様です。ですから、開業後は来園時間、滞在時間、体験したアトラクションの数・種類などをすべてデータで把握しながら分析しています。そうしたデータと、沖縄旅行全体の過ごし方を照らし合わせると、お客さまはより「ゆったりと」「自分のペース・タイミングで」体験したいという傾向がはっきり見えてきました。私たちもその方向性に合わせ、パークを進化させていく必要があると考えています。

 たとえば、一日パスと午後パスを用意していますが、「午後パスだから価値が薄い」というつくり方はしていません。どの時間帯に訪れても、その瞬間から魅力的な体験に参加できる設計にしています。午後パスには人気の「ダイナソー サファリ」の夜限定バージョンをはじめ、昼とは異なる迫力ある演出の体験をご用意しています。また、夕日が非常に美しい時間帯にドリンクを楽しんでいただけるようにしたり、夜の食事を贅沢に味わえるバンケットメニューを用意したりと、時間ごとに異なる価値をつくり、どの時間を切り取っても良い体験をご提供できるよう努めています。

— 先ほど、沖縄は旅行者の「元気になれた」という声が他地域よりも優位に多いというお話がありました。癒しよりももう一段ポジティブな「元気」への渇望というか、現代人が「パワーが欲しい」と感じている傾向は、テーマパーク以外でも感じますか?

 多くの方が「元気になりたい」という感覚を抱いていると思います。日常とは異なる環境に身を置き、何らかの方法で「力」を蓄えたい。それは旅行に限らず、これまで手がけてきたさまざまなプロジェクトでも共通して捉えてきた根源的な欲求です。

 これは具体的な調査というより、私自身の実感ですが、リアルな体験の価値が非常に高まっていると感じます。ジャングリア沖縄には、パーク全体を見渡せる場所があり、眼前180度に連なる山々、大空へ上がる気球、沈む夕日——その美しさは圧巻です。この素晴らしい風景を誰かに見せたいなと思ってスマホで撮影しても、その写真からは実物の力強さや奥行きがまったく伝わりません。雲の影が山肌に移り、それがゆっくりこちらへ寄ってくる。それらがつくる立体感は、現地でしか味わえないものです。

 こうした、リアルに触れた時の感動や興奮が、人にエネルギーを与えるのだと思います。元気が足りないから補いたいというより、感動体験・興奮体験によって得られるエネルギーそのものが、人間にとって根源的な喜びなのだと感じます。社内でもよく「本能に刺さる体験」と表現しますが、まさにそれで、自然の中でこそ感じられるリアルな体験への欲求が、多くの方のインサイトとして読み取れます。
  


— 「パワーバカンス」というコンセプトに沿って、顧客価値を今後どのように強化していきますか。

 開業以来、日々お客さまの動きやご指摘を丁寧に確認し、口コミや日々取得している社内調査、ナビゲーターがいただいた生のお声など複数のタッチポイントで明らかになった課題を一つひとつ改善していく——まずはこの「日々の改善」がベースにあります。

 体験価値を大きく捉える視点としては、やはり「私の沖縄の旅が最高になる」という核心的な価値を、パークという自然空間の中で、一日の時間軸に沿ってどうつくり上げるか。この大きな方向性は今後も変わりません。

 そのうえで、構成要素としてまず挙げられるのが、アトラクション体験の強化です。たとえば、2026年ゴールデンウィーク頃には、絶叫系大型アトラクション「やんばるトルネード」を導入予定です。既存のジップラインなどに代表される、ハーネスを着用する必要があるアトラクションより乗りやすく、小さなお子さまでも楽しめる設計です。

 収容人数が多いため、既存アトラクションの待ち時間平準化にも寄与し、ひとつのアトラクション追加でパーク全体の動きを大きく変化させる狙いがあります。アトラクションを増やす際も、単に数を増やすのではなく、パーク全体の動線や時間帯ごとの混雑を平準化し、誰もが体験しやすい構造を意識して設計していきます。
   2026年ゴールデンウィーク頃に導入する新たな絶叫系大型アトラクション「やんばるトルネード」。2人一組で乗るとアトラクションが回転。最大高度約20メートルで体が逆さまになり「竜巻に飛び込んだよう」な感覚を楽しめる。


 また、飲食や物販についても、新しい商品開発を次々と進めています。10月には地元で大規模な商談会を開催し、300社・約400人の事業者の方々にご参加いただきました。

 その場では、こちらから「こんな商品をつくりませんか?」と提案するのではなく、「パワーバカンスという価値を一緒につくるために、皆さんの技術や商品でどのように関わっていただけそうでしょうか」と問いかける形で、新たな協働のアイデアを募りました。こうした取り組みを通じ、地元にある価値がより魅力的な形で消費者に届くよう、地域連携の幅をさらに広げていく予定です。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録