新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #26
Netflixは日本の映像業界の何を変えたのか?『シティーハンター』 『地面師たち』『イクサガミ』のプロデューサーが語る「挑戦への覚悟」
2026/02/24
日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考をnoteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。
今回、徳力氏が訪れたのは2025年に日本上陸10周年を迎えた世界最大級の動画配信サービスNetflix。2024年前期には会員世帯数が国内で1000万を超え、日本の視聴習慣に着実に浸透してきた同サービスだが、配信だけでなく日本発のオリジナル作品の制作でも世界的な存在感を示している。
実写版『シティーハンター』や『地面師たち』といったヒット作を数多く手がけ、2025年11月に配信スタートした同社初の時代劇作品『イクサガミ』が話題沸騰中(シーズン2の制作を発表済み)の髙橋信一プロデューサーに、Netflixが目指す作品づくりと日本の映像業界に与える影響について、前後編にわたって深掘りした。
今回、徳力氏が訪れたのは2025年に日本上陸10周年を迎えた世界最大級の動画配信サービスNetflix。2024年前期には会員世帯数が国内で1000万を超え、日本の視聴習慣に着実に浸透してきた同サービスだが、配信だけでなく日本発のオリジナル作品の制作でも世界的な存在感を示している。
実写版『シティーハンター』や『地面師たち』といったヒット作を数多く手がけ、2025年11月に配信スタートした同社初の時代劇作品『イクサガミ』が話題沸騰中(シーズン2の制作を発表済み)の髙橋信一プロデューサーに、Netflixが目指す作品づくりと日本の映像業界に与える影響について、前後編にわたって深掘りした。
『全裸監督』が見せた新しい可能性
徳力 ドラマシリーズ『イクサガミ』(岡田准一主演)は本当に素晴らしい作品で、私も夢中になって観ました。髙橋さんの集大成のひとつともいえる作品になったのではないでしょうか。まずは、Netflixに入社された経緯を教えていただけますか?
髙橋 集大成はちょっと大袈裟ですが(笑)、本当に新しい、大きな挑戦であったことは確かですね。
Netflixに入社したのは、2019年にシーズン1が配信された『全裸監督』(山田孝之主演)がきっかけです。当時、私は日活のプロデューサーで映画『ひとよ』に携わっていたのですが、その撮影現場で、キャスト・スタッフ問わず『全裸監督』の話題で持ちきりだったのです。

Netflix コンテンツ部門 ディレクター
髙橋 信一 氏
2020年Netflix入社。東京オフィスを拠点に日本発の実写作品の制作及び編成を担当する。
主なプロデュース作品に、『浅草キッド』 『シティーハンター』などのNetflix映画、 『地面師たち』『極悪女王』、Netflix初の日米韓チーム共同プロデュースを行なった『ONE PIECE』などのドラマシリーズ、 『トークサバイバー』シリーズなどがある。
髙橋 信一 氏
2020年Netflix入社。東京オフィスを拠点に日本発の実写作品の制作及び編成を担当する。
主なプロデュース作品に、『浅草キッド』 『シティーハンター』などのNetflix映画、 『地面師たち』『極悪女王』、Netflix初の日米韓チーム共同プロデュースを行なった『ONE PIECE』などのドラマシリーズ、 『トークサバイバー』シリーズなどがある。
ああいった(AVという)斬り込んだテーマを、高いクオリティを担保しながら制作するのは、それまでの日本ではとても難しいことでした。仮に同じテーマで映画を製作することは可能だとしても、どうしてもニッチに捉えられ、小規模な映画館で上映されるのが実情でした。
徳力 タイトルの印象から「エロだからNetflixじゃないとできなかったんだろう」と語られることがありましたが、プロの目から見ると、凄いのは作品のクオリティそのものだったんですね。
ドラマシリーズ『全裸監督』(画像提供:Netflix)髙橋 そうです。テーマが尖っているだけではなく、キャラクタードラマとして「この強烈なキャラクターが描きたかった」というのが伝わってくる、物語の強度に感銘を受けました。そして、そういった題材の作品を多くの視聴者が楽しんだということも衝撃でした。『全裸監督』をプロデュースし、当時、同じ東映スタジオで『今際の国のアリス』を撮影していた坂本和隆(Netflix コンテンツ部門 バイス・プレジデント)と知り合ってますます興味を持ち、2020年6月に縁あってNetflixに入社しました。
徳力 素人の私からすると、プロデューサーの仕事はどこに所属してもあまり変わらないのではないかと想像しますが、Netflixに入って最も変わったことは何ですか?
髙橋 おっしゃるように、作品の企画、キャスティング、撮影のクリエイティブ管理、宣伝から公開までの責任者であるエグゼクティブプロデューサーの役割は基本的には変わりません。ただNetflixには、各役割に特化したプロフェッショナルがいます。たとえば、撮影期間中は制作が円滑に進み、目指すクリエイティブのレベルや内容を実現できるように、制作会社の皆さんと連動するプロダクションマネジメントチームが責任を持って担当します。そういった役割分担をしながら、個というよりもチームとして良いものをつくれる環境があると感じています。
Netflixの「ローカルファースト」は従来の「日本向け」と何が違うのか
徳力 お恥ずかしい話ですが、私はNetflixの実写作品はハリウッドあたりから来た外国人チームがつくっていると誤解していました。一時期、日本の映像作品はハリウッドはおろか、韓国にも勝てないという論調を聞いていたので、実はROBOTさんなど日本チームが制作していると知った時は驚きました。
髙橋さんはNetflix映画『浅草キッド』『シティーハンター』やドラマシリーズ『地面師たち』など、日本発のオリジナル実写作品のど真ん中を担当されてきましたが、以前の日本の実写作品に足りなかったものはなんだと思いますか?
髙橋 私は、日本の技術やクリエイティブのレベル、制作システムも、他国に比べて全く負けていないと思っています。
その上で、私もバックグラウンドとしている映画においては日本独特の製作委員会方式という商習慣があります。委員会方式はリスクを分散できるなどメリットも多々ありますが、意思決定のスピードはどうしても遅くなりがちです。
また、日本には約1億2000万人という一定の市場があり、国内だけでもビジネスが成立してきた背景があります。映画において良い作品をつくるのに「グローバルに向けてつくる意識」が必要かどうか、私にはわかりません。ただ、そういった要因が合わさって「日本向け」になっていた面はあるかもしれません。
徳力 興味深いことに、Netflixも「ローカルファースト」を謳っています。これまでの日本作品の「日本向け」と、Netflix作品の「ローカルファースト」、言葉としてはほぼ同じに聞こえますが、全然違う結果になっているのが興味深いです。Netflixの場合、ローカルファーストだけどグローバルも想定している、というのが従来の日本向け作品との違いでしょうか。
髙橋 私たちも当然、まずは日本のお客さまにエンターテインメントとして楽しんでいただくことを第一に考えています。その上で重要なポイントは2点あり、ひとつは、私たちは「ベストインクラス」と呼んでいますが、そのジャンルで最高のクオリティを追求することを目指しています。
日本で生まれた新しい物語は、そこに日本独自の文化や観点が入っていることで、海外から見ても、より「見たことのない新しい物語」になる可能性があります。その中で「ベストインクラス」を追求することにより、日本のクリエイター、スタッフの力と、グローバルなプラットフォームで制作・配信する環境があれば、絶対に日本はもちろん、世界にも届くはずだという、強い信念に支えられています。
徳力 従来の日本の映像制作は、ポテンシャルとしては十分だったけれど、日本市場である程度満足してしまって、気合が一歩足りなかったのかもしれないですね。以前、坂本和隆さんにも同じ質問をした時、決して批判的な言い方はされませんが、「プロデューサーの覚悟」のようなものが必要、と強調されていたのが印象的でした。
「Netflixは無限に予算があるから良い作品をつくれる」という言説をたまに聞きますが、外資系企業ならではの予算管理は非常にシビアだそうですね。『全裸監督』をはじめとしてひとつずつ成功を積み重ねていって、いわば「掛け金」を増やしてきたから、大きな作品をつくれるようになったという説明をしてくださいました。重要なのは、「刺さるはずだ」「届くはずだ」というプロデューサーの気概なのだと感じます。
髙橋 2つ目のポイントは、作品へのアクセス環境です。私も国際映画祭で賞をいただいた作品に携わったことがありますが、そういった作品であっても世界での公開範囲で言えば20カ国程度の上映に終わることが多かったです。海外の映画館という一種のインフラに対して、日本作品が進出するにはまだハードルがあるのが現状だと思います。
その点、Netflixは吹き替え・字幕などを用意した上で全世界に配信しますから、「観よう」と思ったお客さまに同時にアクセスできます。「世界中どこでも観ることができる」という環境は、作品とクリエイターの思いを届ける上で、大きなアドバンテージだと思います。




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