新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #27

Netflix『イクサガミ』エグゼクティブプロデューサーが目指す「時代劇のアップデート」とは?「挑戦」がつないだ数奇な縁

 

Netflixがもたらす映像業界のダイナミズム


徳力 一方で、少しネガティブな話になりますが、Netflixの10周年記念イベントにおいて俳優の山田孝之さんが、俳優のギャランティーに関して「安い」と発言し、話題になりました。こうした状況で、日本のクリエイターはNetflixをどのように活用していくべきだとお考えでしょうか。
 
note noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏

NTTやアジャイルメディア・ネットワーク等を経て、現在はnoteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートを行っている。個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。

髙橋 労働環境や休暇、ギャランティー、さらにはインティマシーコーディネーター(性的なシーンで出演者の同意を得ながら作品づくりを支援する専門家)の導入といった点も含めて、日本の映像業界全体がより良い方向に向かっていくことが大切だと思っています。その上で条件面だけでなく、新しい映像表現への挑戦の意欲、クリエイティブビジョンを共有できることを含め、「またNetflixで仕事をしたい」と思ってもらえる存在でありたい、という思いは常にあります。

冒頭でもお伝えしましたが、私は、日本のクリエイターの才能や制作システムは世界有数のレベルだと信じています。ポテンシャルのある作品もたくさんありました。これまでは言語や商慣習、販路といったハードルがあって、なかなか海外に出るのが難しかったと思いますが、そういったハード面の課題は今、Netflixという場を通じて解消できる部分が多いと感じています。だからこそ、私たちを活用してもらい、日本のクリエイターの作品が自然と世界に届いていく環境をつくれたらいいと思っています。

そうすると、たとえば、今度は海外のスタジオから「一緒に新しいチャレンジをしないか」と声がかかったりしてくるんです。もちろん、Netflixで再び仕事をしていただけたら嬉しいですが、キャリアの1ステップと捉えてもらってもいいと思っています。そうした動きが生まれること自体が、これまでになかったダイナミズムを業界にもたらすのではないかと期待しています。
 

「挑戦」が結びつける才能たち


徳力 今回、『イクサガミ』に関してもうひとつ新しい潮流を感じたのが、原作者である今村翔吾さんが「Netflixでのドラマ化を想定して小説を書いた」とおっしゃっていたことです。しかも岡田さんを主役に想定していたというので、「うまくつながりすぎ」と疑ってしまいそうなほどです。前半のお話だと、髙橋さんが新しい企画を探す中でたまたま原作小説に出会ったということでしたが、本当に、そんなことがあるんでしょうか。

髙橋 そうですよね。私も後から聞いて驚きました。今村先生がおっしゃるには、コロナ禍の前後に勢いを増したNetflixの韓国作品のストーリーテリングやスピード感などの手法が、世界的にヒットしている状況に可能性を感じて、それらを小説というメディアに落とし込むとどうなるかを徹底的に研究された、ということでした。そういうクリエイティブのアプローチもあるのかと、興味深く思いましたね。

徳力 私からすると、Netflixで日本の作品が世界的に成功しているのにびっくりしていたのに、今や一周回って、原作者がそれを狙うようになっていることに、ここ数年のNetflixの存在感の変化を実感して驚いているところです。
 

画像出典:講談社『イクサガミ』特設サイト

髙橋 クリエイティブにはさまざまなアプローチがありますが、今村先生にも、岡田さんにも共通して感じるのは、「時代小説や時代劇の裾野をどれだけ広げられるか」に強いモチベーションを持って取り組まれていることです。今村先生の場合、韓国ドラマの躍進を見て、そのパワーを自分の作品にどう生かせるかチャレンジされたわけで、そこに私はすごく共感します。岡田さんもそうですが、そういった各自のチャレンジする姿勢が、知らず知らずのうちに結びついて、後から見れば「相思相愛」になったのではないかと思いました。

徳力 外から見ると信じられない偶然に思えるけれど、「新しいチャレンジをしたい」というクリエイターの意識が、Netflixを媒介として必然的につながったのかもしれませんね。

最後に、そんなNetflixでのグローバルなチャレンジを考えるクリエイターは、どんな点を意識して企画を考えるといいでしょうか。将来、髙橋さんのような立場を目指したい方にも含めて、アドバイスをいただけますか。

髙橋 私自身が強く意識しているのは、描いている物語が2~3年後に世に出た時に「これは、まさに今の物語だ」と感じてもらえるかどうかです。制作と公開のタイムラグも含めて「何を描くべきか」という点は、すべての制作者・クリエイターが向き合っているテーマだと思いますし、私自身もとても大切にしています。

また、これは映画出身者だからこそ強く感じますが、Netflixで作品を観てもらうことは、ある種、劇場に足を運んでいただく以上にハードルがあると考えています。登録すればすぐに観られる利便性の一方で、やはり有料の配信サービスを使ったことのない方からすれば馴染みの薄い体験ですから。

そんな中で「Netflixでしか観られない」ことに、どれだけの魅力を感じてもらえるかが常に問われています。さらに、Netflixの視聴者であり続けてもらうには「見たことのない物語」をどれだけ継続して提示できるかも重要です。1~2作見て「あ、もう同じ感じの作品でプレミア感がないな」と思われたらおしまいです。

私たちは、今の時代に「ここでしか観られない物語やテーマは何なのか」を、徹底的に考え抜いて企画しています。そうした問いに強い関心を持ち、一緒に考えてくれるクリエイターの方と、ぜひ作品をつくっていきたいと思っています。

徳力 本日はありがとうございました。
 

対談後記


 10年前に「10年後に日本の制作会社がつくった、日本の俳優が日本語で演じる日本の実写作品が、世界中で視聴される未来が来る」と予言したら、日本で何人が信じてくれたでしょうか? 5年前ですら、「日本の映像作品はハリウッドはおろか、韓国にも勝てない」という意見が多かったことを考えると、ほとんど誰も信じてくれなかったのではないかと思います。

 そんな中、髙橋さんのように「日本の技術やクリエイティブのレベルは世界に負けていない」と信じていた人たちが、Netflixという新たな活躍の場を得たことで、『シティーハンター』や『イクサガミ』のような世界中で視聴される作品が日本から次々に生み出されるようになったことは、本当に素晴らしい変化だと感じます。

 髙橋さんがお話されていたように、引き続き、さまざまな日本の才能がNetflixをステップのひとつとしてうまく活用し、世界に羽ばたいていくことを期待したいと思います。(徳力基彦)
   ※編集部注:サムネイル画像はドラマシリーズ『イクサガミ』(Netflix提供)
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