顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #07
TDRとUSJ変革をCSI(顧客満足度)から読み解く 「平等なユートピア」から「価値を認める者のためのプレミアム」へ【青学・小野譲司】
マーケティングにおいて「顧客満足」が重視されるようになって久しい。顧客ニーズの複雑化と商品サービスの均質化に呼応するように多様化するデータ、戦略があふれかえるマーケティングの森から、企業やマーケターは目指すべき顧客満足をどう探し当て、推進すればいいのか。
青山学院大学経営学部の小野譲司教授が、顧客満足度を業界横断的・継続的に調査するJCSI(日本版顧客満足度指数)調査のデータやさまざまな事例から顧客満足を学術的に紐解き、マーケターに科学的な視座と知見を提示する本連載。今回はデジタル化や料金改定の波が押し寄せるテーマパーク市場にフォーカスする。JCSIの変動から、二大テーマパークの構造改革に隠れた真意を読み解き、顧客満足を追求するマーケターに求められる視点とマインドセットを考察する。
青山学院大学経営学部の小野譲司教授が、顧客満足度を業界横断的・継続的に調査するJCSI(日本版顧客満足度指数)調査のデータやさまざまな事例から顧客満足を学術的に紐解き、マーケターに科学的な視座と知見を提示する本連載。今回はデジタル化や料金改定の波が押し寄せるテーマパーク市場にフォーカスする。JCSIの変動から、二大テーマパークの構造改革に隠れた真意を読み解き、顧客満足を追求するマーケターに求められる視点とマインドセットを考察する。
量から質へ、歴史的転換の正体
日本のテーマパーク市場は、コロナ禍という未曾有の停滞期を経て、歴史的な転換期を迎えた。 2023年以降、主要パークの売上高は過去最高を更新し続けている。だが、その内実を注視すると、入場者数は2019年比で約9割程度に留まっている。この「客数は減っているが、利益は増えている」という一見矛盾した現象こそが、今回の変革の本質を物語っている。
かつてのテーマパーク経営は、入場者数を最大化し、規模の経済を効かせる装置産業の典型であった。しかし現在、そのモデルは、体験価値を最大化し、顧客あたりの将来キャッシュフローを最適化するモデルへと変革しようとしている。 この「誰にでも平等なユートピア」から「価値を認める者のためのプレミアム」への変容は、万人が魔法にかかることができた「聖域」の喪失を意味する。それは将来的なブランド毀損のリスクを孕んだ、極めて戦略的かつ痛みを伴う構造改革として読み解くことができる。
CSI(顧客満足度指数)で読み解く長期トレンド
JCSIの推移を長期的な視点で観察すると、日本国内の主要なテーマパークの顧客経験がどのように推移してきたかを鳥瞰できる(図1を参照)。この調査データでは、2年間で2回以上の利用経験があることを回答者のスクリーニング条件にしており、一度だけ利用した人は除外されている。満足度の測定方法には、目的に応じていくつかのバリエーションがあるが、この指標は、今回の来園体験についての満足度ではなく、過去の利用経験を振り返って当該施設にどの程度満足しているか、という累積的満足度で測定している。短期的なノイズを排除して、より安定した評価を測定することで、テーマパークの健康状態を診断するためである。
2020年から2022年にかけての動きは注意して見る必要がある。この期間、多くの業界でCSIが上昇したが、これはコロナ禍の行動制限により、物理的な「混雑」という最大の不満足要因が排除されたこと、行動制限がある中でもあえて来店ないし来園した人々による回答結果を反映する特異な期間であったからである。
2023年以降、世間一般の需要が回復し、CSIがコロナ前の水準に回帰していくのは自然なトレンドであり、業界横断で追跡しているJCSI調査でもフードサービスや各種小売業態で同様の傾向が見られた。しかし、二大パーク(TDR、USJ)の動向はこれとは一線を画す。コロナ禍での「特異な期間」を除外すると、両社のCSIは概ね横ばいで推移してきたが、2025年度には、ともに2ポイント以上下落している。CSIスコアの2ポイントの変動は標準誤差の範囲を超えており、そこには何らかの構造的要因が潜んでいると見るべきだ。
この2023年から2025年にかけての下降は、2021年から2022年にかけて断行されたパーク体験のルール変更、すなわち、デジタル化の徹底とプレミアムパスの導入が、来園者(ゲスト)に行動的および心理的な疲労を与えたのではないかとも考えられる。
娯楽業の明暗:値上げと満足度
この点について、娯楽業界全体の満足度推移を俯瞰すると、興味深い動向が見える。一般的に、物価高騰下でのチケット価格改定は顧客満足度を押し下げる要因となりやすい。実際、劇団四季(2023年にチケット、2024年に年会費の改定)や宝塚歌劇団(2025年に座席料の改定)の推移を見ると、値上げ後にCSIがかつての水準を下回り、停滞する傾向が確認できる。
なお、宝塚歌劇団の2024年度における急落は、劇団内でのパワハラ問題という突発的なブランド毀損に起因する側面が強く、注意を要する。しかし、不祥事の影響を脱したと思われる2025年短年でも、CSIは劇団四季と並ぶ水準に留まっている。これは、2023年度以前に比べ5ポイント近く低い水準だ。チケットさえ入手できれば一定の品質が保証される観劇ビジネスにおいて、価格上昇はダイレクトにコストパフォーマンスの評価を下げる要因となった。
これに対し、二大テーマパークは対照的である。USJは、2010年代の段階的な値上げ局面において、むしろ満足度を維持、あるいは上昇させてきた。これは単なるコスト増の転嫁ではなく、新エリアや新アトラクションといったパークの魅力度を高める巨額投資を伴う形で値上げを断行した結果であった。顧客は、値段は高くなったが、それ以上の体験価値がある、と認め続けてきた。だが、その成功体験は、2021年以降の新エリアの開業をもってしても、それを相殺する何らかの要因によって天井を打ったのかもしれない。これには、次のような要因が考えられる。
- 期待値の高止まり: 長年の巨額投資により、顧客の事前期待が極限まで高まった結果、新施設をつくるだけでは維持すら困難なフェーズに突入した。
- デジタル疲れ: 快適さを生むはずのデジタルツールが、操作の煩雑さや常にスマホを見るというプレッシャーを生み、非日常の解放感を奪っている。
後者は、チケットや飲食物販の値上げ、プレミアムパスをはじめとしたプライシングとともに、主要テーマパークの大きな方針転換として一部では話題になった。
こうした顧客離れを招きかねない改革を、なぜパーク運営会社は断行するのか。各社それぞれの事情があるだろうが、これを単なる収益改善策(P/L施策)ではなく、「顧客資産の最適化(B/S経営)」として読み解くと、その合理的な経営判断が見えてくる。




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