顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #07

TDRとUSJ変革をCSI(顧客満足度)から読み解く 「平等なユートピア」から「価値を認める者のためのプレミアム」へ【青学・小野譲司】

 

B/S経営の冷徹な合理性とマーケターの意識


 多くの実務家はLTV(顧客生涯価値)を売上ベースの累積値として捉えがちだが、本来のLTVとは、その顧客を維持するために必要なコストを差し引いた純利益の現在価値だ。粗利の低い客単価や獲得維持コストが高いマーケティング活動は、LTVでみれば将来のキャッシュフローが期待できないことになる。 B/S的視点に立てば、過剰な混雑も、ブランド資産を食いつぶす負債になりかねない。頻繁に来場し、飲食やグッズなどへの追加支出が限定的な来園者がパークを埋め尽くすと、物理的なキャパシティが逼迫する。すると、記念日に高額を支払って来園する人たちの体験価値を台無しにしてしまう。これは将来のキャッシュフローを損ない、ブランド資産を減衰させる行為である。
 

なぜ、マーケターはB/Sを意識すべきなのか


 あるブランドのマーケターが行ったキャンペーンで獲得した「1万人の新規客」は、P/L(損益計算書)では売上として計上される。しかし、その1万人が押し寄せたことで、10年来のコアなファンが「もう二度と来たくない」と感じたなら、それは、顧客ロイヤルティという目に見えない資産の強制的な減損を意味しており、将来のキャッシュフローを減らすことにつながる。
 
 マーケターは、P/L上の「体温(今期の利益)」には敏感だが、B/S上の「血管の健康(顧客資産の持続性)」には無頓着になりがちだ。それに対して、主要テーマパークの値上げを伴うプライシングは、この「血管の目詰まり(過剰な混雑)」を解消し、将来にわたって高いマージンを生み出し続けるための、資産をメンテナンスする舵取りと考えられる。

 たとえば、複数の戦略オプションからひとつの施策を選ぶ際、P/L上のインパクトに加え、ブランド資産への影響を評価軸に加えるとする。
 
  • プレミアム化の判断: 一律の値上げは、P/L上の業績達成には効くが、B/S(顧客構成)を歪める可能性がある。一方、「プレミアムパス」のようなオプション設定は、高い対価を払う層という優良資産を特定し、その客層の満足度を底上げすることで、B/Sの総資産価値を高める意思決定となる。
  • リスク評価: 「混雑による不満(失望指数)」を、将来の来園意向を毀損する潜在的な負債としてカウントする。それによって、短期の入園料収入よりも、中長期的な資産防衛を優先する判断基準とする。
 

PDCAサイクルへの組み込み


 PDCAサイクルに、P/L的な数値(売上、客単価)と対をなす形で、B/S的な非財務指標を組み込むことで、財務的指標とあわせた判断と振り返りの拠り所になりうる。
 
  • CSIと失望指数のモニタリング: 業績が低下している時期だけでなく、売上が好調な時期こそ、満足度(CSI)の推移を資産の健康診断として追跡する。特に感動指数が上がりつつ失望指数も上がっている状態は、体験の質に何らかのムラがあり、資産が不安定化しているアラームとして読み取る。
  • 振り返りの視点: 「目標売上は達成したが、顧客満足という資産に傷がついていないか?」という問いを定例の評価プロセスに組み込む。これによって、現場の「P/L一辺倒」な価値判断とプロセスを、マネジメントがコントロールする拠り所とする。
 

顧客ポートフォリオの入れ替え


 このようにB/S視点でみると、入場制限やチケットの高価格化は単なる混雑対策ではない。限られた資源を、高い対価を払ってでも質の高い体験を求める層へ優先的に割り当てる。それにより単位面積あたりの収益性を極大化させるのは、「少ない人数で、効率よく、高い満足度を生む」という、資産効率を最大化させるための資源配分の変更と読み替えることができる。 この戦略において、従来型のボリューム重視の客層は、経営上、優先順位を下げられることになる。これは聖域の放棄であるが、パーク全体の資産価値(ブランド)を守るための苦渋の選択ともいえる。

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