顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #07
TDRとUSJ変革をCSI(顧客満足度)から読み解く 「平等なユートピア」から「価値を認める者のためのプレミアム」へ【青学・小野譲司】
「顧客満足度」の再定義:感動と失望の感情起伏
この戦略的シフトの成否をデータから分析すると、現在の成功が薄氷の上に成り立っている様子が見えてくる。USJやTDRの最新データによれば、2024年度に感動指数が上昇した一方で、2025年度にはそれが急落し、逆に失望指数が顕著に上昇(USJで+2.5ポイントなど)している。 テーマパーク体験には、観劇とは決定的に異なる感情構造がある。観劇は、チケットさえあれば不確定要素が少なく、ポジティブな感情体験が中心となる。それに対してテーマパークは、新アトラクションへの「驚きや没入」という快感情と、混雑や不慣れなアプリ操作による「イライラ、不安、憤り」といった不快感情が常に背中合わせの体験だ。
図2と図3に示したように、2021年度から2025年度の感動指数と失望指数のデータ(ともに3年間移動平均)は、大型投資によって提供されたプラスの資産(感動)が、それを享受するために強いられる不快なプロセス(負債)によって相殺され、マイナスに転じ始めたことを示している。どれほど強力なコンテンツであっても、体験に至るまでの「イライラ」をコントロールできなければ、B/S上の顧客資産は健康を維持できない。
さらに、テーマパークは来園者が園内でどう過ごすかについての自由度が高い。だが、アトラクションを選び、アクセスし、並んで乗る、という一連のプロセスをその都度、経験することになる。昨今のパークではスマホアプリを介してそのプロセスを通過することが求められる。全体のオペレーションで見れば効率化の効果が期待できるが、デジタル操作に抵抗感のある人々にとっては、不快感情を生む新たなペインポイントになりうる。

「将来の資産」の減退
この構造改革には、無視できない中長期的な負の側面が存在する。 ひとつは、高価格を厭わない層やインバウンド客の急増だ。これは、これまで日本のパークが維持してきた独特の秩序や情緒を毀損させるリスクがある。 もうひとつは、ブランドの高齢化リスクである。高校生がお小遣いで行けた場所に行けなくなることは、将来のリピートの芽を摘むことになる。子供の頃に体験した「魔法」の記憶こそが、大人になってからの高額支出の基盤となる。その入り口を閉ざすことは、B/S上の将来の資産を今、切り崩していることになる。
延命か進化か
人を介して提供されるサービスで、オンライン対応、モバイルアプリ、AIやロボットによる自動化など非接触の顧客接点が広がり、あらゆるサービスのあり方が、現実として変化したが、これはテーマパークにも及んでいる。現在の変革は、「すべての人々にとって一律の平等」というモデルでは、もはや物理的制約とコスト増に耐えられないという現実に対する、経営の意志である。
東西の二大テーマパークが、デジタル化とプレミアム化に舵を切ったことで、デジタルで枠を確保し、効率を管理するという市場のフロンティアが開かれた。すでに他業界あるいは海外のテーマパークでは進んでいたデジタル変革は、地方をはじめとした他のパークにとっても避けて通れない経営課題である。一方、アナログな直感性を守り抜くパークの価値も、それを支持する顧客層によって浮きぼりになるかもしれない。
現在の満足度低下は、デジタルという強力な武器がもたらす利便性と、来園者側に課される操作的負担が衝突している摩擦を伴う過渡期なのかもしれない。デジタル操作が日常的なインフラとして定着し、操作のストレスが軽減されていくにつれ、パーソナライズされた体験という本来の果実がより鮮明になっていくはずだ。
多角的な「健康診断」としての顧客満足度
本稿で考察してきたテーマパークの長期的変化は、ひとつの事例に過ぎないが、いみじくもマーケティングにおける複眼的な思考の重要性を改めて示唆している。P/L上の売上や利益が企業の現在の「体温」を示すデータだとしたら、顧客満足度(CS)は目に見えない「顧客資産の健康状態」を映し出すバイタルデータと言える。体温が高い(=利益が出ている)ことは健全な経営の証だが、同時に満足度という指標を通じて「血管(=ビジネスの持続性)」に不公平感や疲弊という毒素が溜まっていないかを、複眼的にチェックし続ける必要がある。
ここでいう顧客満足度は、本稿で紹介したような満足度だけでなく、品質やコストパフォーマンスに対する顧客の主観的な評価、ロイヤルティ(再来園意図)、他者への推奨や紹介の意図といった、顧客からのフィードバックに基づいた指標が含まれる。こうした顧客資産の健康状態を測る指標には、唯一の絶対的に優れた指標はないことは、いくつかの先行研究で示されている。それゆえ、自社の顧客資産の状態を把握するのに最も適した指標を把握することが技術的な優先事項である。
顧客満足の探求とは、単に「すべての人々を笑顔にする」という理想を追うことではない。それは、ブランドの持続可能性を預かる立場として、「どの顧客にどのような体験を提供し、どの価値を次世代に引き継ぐか」という戦略的なリソース配分を、多角的な視点から再定義し続けるプロセスなのではないだろうか。
「誰もが平等なユートピア」から「価値を認める者のためのプレミアム」へ。このパラダイムシフトにおいて、私たちが持つべきマインドセットは、単一の指標に依存しない割り切りと、相反する指標を同時に見渡す複眼的な思考力、そしてバランス感覚なのかもしれない。
※サムネイル・下画像の出典は123RF

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