日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #65

AI時代にこそ際立つ「生身の人間の心の機微」 三井住友銀行 Oliveの「皆がなんとなく思っていること」を巧みに描いたCM

前回の記事:
初恋の相手が犬に。広瀬すず主演 マネードクターのCMに見る「意味不明」のパワー
 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第65回です。
 

ダイアンの津田篤宏さん扮する「通帳の人」 変化に抵抗する中年を熱演


 今回取り上げるテレビCMは、田舎の一軒家に親戚一同が集まっているシーンで始まります。主人公(お笑いコンビ・ダイアンの津田篤宏さん)は、通帳を手に持ち、皆からの視線の先に一人座って、一種つるし上げのような状況になっています。

 年配の親戚「で、いつまで続けるつもりだ?」
 津田「誰にも迷惑はかけていません」
 親戚の女子高生「スマホで見ればいいのに」
 津田「(通帳を手に)パッと開いて見やすいんです、こっちの方が」
 年配の女性「(スマホを手に)パッと開いて見やすいわよ」
 津田「(感情のこもった語りで)通帳はね、僕の人生が染み込んでます(中略)、ぜんぶ僕の思い出なんです」 別の女性「何回か失くしたわよね」
 津田「その時はちゃんと再発行して・・・」
 ビールを注ごうとしている女性「(不審そうに)思い出を、再発行・・・?」

 追い打ちをかけるように他の親戚たちから「手数料はかかる。かさばる」の声。そして、最後に白髪の親戚から「もう潮時じゃないか」と、とどめの一言が。最後にナレーションで、「スマホの口座、オリーブが便利です」と締めます。
 

三井住友銀行 Olive「通帳の人①」編
 

三井住友銀行 Olive「通帳の人②」編

 この60秒間(30秒バージョンもある)、役者さんのセリフ回しも表情も重々しい雰囲気で、音楽もかなりエモーショナル。いつか映画やテレビドラマで見た、人情もののワンシーンを思わせるつくりとなっています。「通帳か?スマホの口座か?」を話し合っているようにはとても見えず、無謀な独立や海外への移住など、津田さんの「人生の一大事」を親戚一同で話し合っている風情です。

 しかし会話のやり取りは、ずっと「通帳か?スマホの口座か?」という内容で展開されていて、「今どき通帳なんて、やっぱり不便なのかな?」という「皆がなんとなく思っていること」をみごとに描き切ります。さらに、最後の画面には「通帳をお持ちの皆さま、スマホの口座、オリーブ(Olive)・・・便利です」と、ストレートな商品メッセージが映し出されて終わります。

 かくいう筆者も、三井住友銀行の口座を「通帳で」持っている、まさに「通帳の人」なので、このテレビCMで繰り広げられる「通帳否定」は身につまされます。

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