国連難民高等弁務官事務所の広報日記 #05

難民はペットと一緒に逃げられる? 緒方貞子さんのひとこと【UNHCR 守屋由紀】

前回の記事:
ノーベル平和賞から見えてきた「携帯電話」と「難民」の切っても切れない関係【UNHCR 守屋由紀】

「難民と猫」をテーマにした絵本が翻訳出版

 このコラムを読んでくださっている、あなたへの質問です。「犬」と「猫」は、どちらが好きですか。「両方とも好き」「どららも嫌い」「ヘビなど爬虫類の方がいい」という人もいるでしょう。

 私は、「猫好き」です。

 現在、都内のマンション暮らしですが、猫を2匹飼っています。オスの茶トラと灰色の毛をしたメス猫です。2匹とも友人の家から、いただきました。自由に外とウチを出入りして、あまり人に懐かない「半野良」の母猫から生まれた2匹は、父親違いの兄妹といったところでしょうか。

 過去にも猫を飼っていて悲しい死別も経験しましたが、飼うことをやめることはできません。大切な家族の一員として、私たちの心を癒やしてくれる存在だからです。

 ですが、実は私、猫アレルギーなんです。猫に長い間、触れていたり、甘噛みされると湿疹が出たり赤く腫れたりします。そんな肉体的ハンデを差し引いても、やっぱり猫は可愛いですね。

 現在、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のスタッフは世界中137カ国に1万人以上。「猫好き」か「犬好き」か、全員にアンケートをとったわけではありませんが、スタッフの性格的な傾向は「犬的」な人がほとんどだと思います。

 「自由」で「マイペース」でわがままな猫に比べて、犬は飼い主に「忠実」で訓練されればそれに従い、集団で行動できます。

 現在、世界中に7000万人以上の難民・避難民がいます。世界の総人口の約1%で100人に1人の難民がいまこの瞬間、家を追われ命の危険にさらされています。そんな人たちを助けることが私たちの仕事。そのためには本部の方針に従いながら、チームワークを大切にし、規律に従った行動が常に求められるのです。だから猫よりも、私たちは仕事では犬的な性格にならざるを得ないのです。
 
 だから逆に、猫のような生き方がうらやましいから、私は猫好きなのかもしれませんね。

 最近、日本で「難民と猫」をテーマにした絵本が翻訳出版されました。『難民となったねこ クンクーシュ』(マイン・ベンチューラ 文、ベティ・グオ 絵、中井はるの 翻訳、かもがわ出版)です。
 
『難民になったねこ クンクーシュ』(マイン ヴェンチューラ・著、ヤズミン サイキア・監修、ベディ グオ・イラスト、中井 はるの・翻訳、かもがわ出版)
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 実話に基づいた話で、とっても素敵な絵本です。UNHCRとしてお手伝いさせていただきました。簡単に内容をご紹介しましょうね。

 2015年、イスラム過激派の激しい戦闘が続いていたイラクのモスルから命からがら逃れてきた母親と5人の子どもたち。トルコを経由してゴムボートで地中海を渡り、たどりついたのはギリシアのレスボス島。家族は無事に上陸できたのですが、カゴに入れて連れてきた白い毛の猫「クンクーシュ」が混乱に紛れて逃げ出してしまいます。

 犬は口笛を吹いたり、呼んだりすれば戻ってきますが、逃げ出した猫はなかなか捕まえることはできません。家族は猫を探すのを諦めて泣く泣くノルウェーへと逃れていきます。

 ところが、そこで奇跡がおきます。様々な人の手を経て、クンクーシュは4カ月間5000キロもの長い旅の末に家族と再会することができたのです。

 まさに奇跡です。難民を生みだし、苦境に追い込んでいるのも人間の仕業ですが、1匹の猫を家族のもとに返すために手を尽くすことを厭わないのも人間です。これを読んで人間って素晴らしい、と改めて思いました。ぜひ手にとって読んでいただきたいので、内容の紹介はこれくらいにしておきますね。

 私もUNHCRの広報官として、この絵本発売に関連するイベントに呼んでいただき、お話をしました。人は好きこのんで「難民」になるわけではありません。ある日、突然、難民になり家を追われるのです。

 命からがら、着の身着のままで逃げるのです。そして外国へと逃れる場合、正規ルートで行けるとは限りません。密航です。密航を専門に請け負う業者に多額のお金を払い陸路を伝い、海を渡る。そこには命の保証はありません。

 そんな状況にもかかわらず、「ペットを同伴するなんてどうなの?」と思われる方もいるでしょう。

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