国連難民高等弁務官事務所の広報日記 #05

難民はペットと一緒に逃げられる? 緒方貞子さんのひとこと【UNHCR 守屋由紀】

緒方貞子さんが、ペットも一緒に連れていくべきと主張

 ペットと難民について日本人として初めて国連難民高等弁務官になった緒方貞子さんに関するエピソードがあります。就任して間もないころの話と聞き及んでいます。

 タイに逃れていたカンボジア難民がいよいよふるさとに帰ることができると、準備を整えている中、「運ぶのは人間とわずかな荷物だけで犬や猫は連れていってはいけない」というルールがあった。

 これに対して緒方さんは、苦しい避難生活の中で「難民の皆さんは自分の食べ物さえも削って犬や猫を飼っているのです。単なるペットではなく家族の一員を連れて行けないなんて」と激怒。組織は、彼女に従わざるを得なかったと。

 最近では飼っていたペットと死別後、一緒にお墓に入りたいという方も多くいると聞いています。現代は「孤独の時代」です。そんな中でペットと人間の関係も変化してきているのでしょうね。



 「難民となったねこ クンクーシュ」の発売記念イベントで、本書を翻訳した中井はるのさんと対談する機会がありました。実話であり、猫との再会は欧米メディアでは大々的に報道されていたので、翻訳本に協力する過程で、UNHCR本部の広報に了解を取り付けようとしました。

 ところが、「うちは人の命を守る組織で、猫なんかに関わっていられない」とけんもほろろでした。ただ、翻訳者の中井さんや出版社の三輪さんの熱意に触れ、本の内容の背景を知れば知るほど、日本で知らせたいとの熱意を込めて、もう一度本部に掛け合いました。

 日本で猫ブームが起きている中、「難民」の本には見向きもしない人でも、猫を通して難民問題に触れてもらえるのでは、と確信し、再度本部を説得。完成した絵本を手に、拒絶された段階で諦めなくてよかったと実感しています。

 クンクーシュと難民の家族が再会を果たすために、たくさんの人が「善意」のバトンをつなぎました。それと同様に1冊の絵本が生まれることで、この物語に共感し、「難民のいま」を世界に伝え、この世界を変えていこうという「希望」のバトンがつながりました。

 このコラムを読んでくださっている皆さん、ぜひこの絵本を手にとって想像力の翼に乗せた「希望」のバトンをつないでくださいね。

 さて、最初に私が猫好きだというお話をしましたが、ウチで飼っている兄妹の猫の名前は「トラ」と「サクラ」といいます。どこかで聞いたことがありますよね?

 次回は、「トラ」と「サクラ」にも関係がある、私たちUNHCR駐日事務所に起きた奇跡についてお話しましょう。
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