米田恵美子琉 市場創造の「すすめ方」 #04

P&Gも実践する「Connecting The Dots」イノベーションを起こすための“新しい”つながり方【米田恵美子】

ロシアの「変なニュース」から考える

「日本人の長寿の秘密は、生の馬肉を食べることにあった」

 これはロシアのWebメディアで紹介された「宇宙人のような日本人」というニュースです。長寿の秘密が馬肉にあったことが事実であれば、まさにイノベーションです。不老長寿を熱望する世界中の人々に馬刺しを提供するビジネスが実現できるかもしれません。

 ところが「日本人の長寿の秘訣が生の馬肉だ」という話は、私たち日本人にとってはツッコミどころ満載で、一笑に付すような話です。

 この新説はどのようにして発見されたのでしょうか。おそらく「日本では生の馬肉がよく食べられている」「馬刺しは豚肉や牛肉よりも体によい(大腸菌がうつる恐れはほとんどなく、タンパク質を豊富にふくみながらカロリーも低い)」「日本人は世界一長寿である」という3つの事象を因果関係でつなげて生まれたのかもしれません。



 このロシアのニュースは笑い話にできますが、実は、実際のビジネスにおいてもこれと同じようなことが起きている可能性は多いにあるのです。ターゲットユーザーのインサイトは「これだ!」と当たりをつけて導き出した新説が当事者には全く響かないどころか、意味も分からなければツッコミどころ満載になってしまっているというケースは、よくあるからです。

 先ほどのロシアのネットニュースの新説が的を外してしまった理由は、いくつか考えられます。まずは、つなげるべき点(データ)の収集の間違いと、点と点をつなげてできた仮説(ストーリー)の検証に、当事者(日本人)を巻き込んでいなかったことが挙げられると思います。

 推測ですが、この記事を書いたロシア人は「日本人は馬の肉を生で食べる!」という事実にひどく驚いたのでしょう。そして、「馬の肉は、生で食べても大丈夫なのか?」と疑問を持って調べると、「馬肉は牛や豚よりも体にいいらしい」という情報を得たはずです。そのときに、「日本人の驚異的な平均寿命」を思いだし、これらの驚くべき3つのデータを因果関係でつなげたのでしょう。

 データ収集に関しては、このロシアのニュースの例に限らず、実は目的や課題に関係のない事象を重要データとして取り扱って因果関係や相関関係として説明付けてしまったがために、ターゲットにとっては全く「的を得ない」結論になることがよくあります。

 意味のあるインサイトを探ろうとしてデータ収集をする時に大切なのは、「目的に対して解決するべき課題をまず定める」ことです。何を解決すべきか不明確なまま、ユーザーをリサーチしたり、競合を研究をしたりしても無益にデータ量を増やしてしまい非効率です。 
 
 例えば、「今から情報収集・分析をする目的は、新しい不老長寿ビジネスのヒントとなる、日本人の長寿の秘密を探ることである」と、目的が関係者全員で明確に共有されていることが何より重要なのです。

 目的と課題が分かれば、どのような情報を収集すべきかが明確になります。長生きしている日本人とそうでない日本人の生活習慣を比較したり、インタビューやアンケートをとったりして、データを収集しようということになるかもしれません。そこで「長寿の日本人は、長寿ではない日本人に比べて、馬刺しを食べている率が高い」という事象(点)が発見できて初めて「馬刺し」がひとつの点として可能性を持つわけです。

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