TOP PLAYER INTERVIEW #100

サステナビリティ専門家がダノンジャパンで推進する「事業存続」と「売上」の両立

前回の記事:
「ALOBABY」「AMBiQUE」など急成長のSOLIA西口征郎社長に、Amazonで売るための極意を聞いた
 

サステナビリティはダノンの事業基盤そのもの


―― 佐々木さんは学生時代から環境学を学び、企業の環境報告書の作成支援等を経て、ブリヂストンにてサステナビリティ領域の企画や社内外のコミュニケーションに長く携わられました。2024年からダノンに参画した理由と現在の役割について教えてください。

 一貫して環境やCSR、サステナビリティに携わり、パーパスとサステナビリティの関係性を研究する中で、世界的な大企業でありながらサステナビリティを中核に据えているダノンの独自性には、以前から注目していました。

 ダノンは2015年から世界中の全子会社でB Corp認証(※1)を取得することを目標に掲げ、実行していました(2025年11月に達成)。2020年には、利益の追求に留まらない社会的・環境的なミッションを定款に記載し、フランスの会社法で規定される「使命を果たす会社」であることを、フランスの上場企業として初めて認められました。ダノンにおけるパーパスの追求が、自分のやりたいテーマ、実行したいことにマッチすると考え、入社を決めました。

(※1)B Corp認証:企業の社会的・環境的・ガバナンス的影響を評価する米国発の国際認証制度。厳格な審査基準で知られる。
 
ダノンジャパン コーポレートアフェアーズ本部 シニア パブリックアフェアーズ&サスティナビリティ マネジャー
佐々木 恭子 氏

農学部で環境保全型農業を学んだ後、修士課程で環境学を専攻。修了後、環境関連のベンチャー企業にて大手企業向けにコンサルティング、省庁・自治体向けに環境関連調査などを担当。2007年よりブリヂストンで環境、CSR、サステナビリティに関する企画や社内外コミュニケーション業務に携わった後、2020年より豪モナシュ大学に留学。パーパスと企業のサステナビリティに関する研究で2023年に博士号(社会科学)を取得。2024年にダノンジャパンに入社し、渉外・サステナビリティを担当。

―― ダノンジャパンも2020年に国内の大手消費財メーカー、食品業界では初めてB Corp認証を取得しました。こういった取り組みは、マーケティングを含む事業成長にとってどんな意味を持つのでしょうか。

 ダノンのサステナビリティへの取り組みは、初代CEOのアントワーヌ・リブーが1972年に行ったスピーチで提唱した「デュアル・プロジェクト」を核としています。企業の成長と社会の発展は両輪であるという考えです。マーケティングも当然、関わってきますが、それ以上に社会的・環境的影響を考えたサステナビリティは会社のコアになっています。

 事業成長とサステナビリティの関係性を考える上で、ポイントは大きく2つあります。ひとつめは、成長以前に、事業が存続するための基盤としてのサステナビリティという観点です。ダノンのミッションは「世界中のより多くの人々に、食を通じて健康をお届けする」であり、食を事業ドメインとしていますが、その根幹には農業があり、当然ですが自然資本に依存しています。気候変動や水、生態系の保全といった環境課題は、一見すると、一企業にとって壮大なテーマに思えますが、ダノンの事業規模から考えると、実は原材料の調達や事業の持続性に直結する課題です。

 2つめは、よりマーケティングに関わるテーマですが、消費者に対してどのような価値を提供できるかという観点です。時代の流れの中で、より健康的でサステナブルな製品へのニーズが高まっているのは間違いありませんが、それを価値として認めるかどうか、追加でお金を払うかどうかは、地域や世代、個人の嗜好などによって差があります。特に食品産業においては、消費者が重視する価値として「味や健康」がサステナビリティを上回ることが、種々の調査から明らかになっています。世界的なインフレもあり、「サステナブルだけでは売れない」のは日本もヨーロッパも同じです。

 そのため、ダノンでは事業の根幹であるサステナビリティを、製品価値や消費者価値とどう結びつけるかが、重大なテーマになっています。サステナビリティ担当だけでなくマーケティング、調達、研究開発などが組織横断的に取り組み、地域の嗜好や市場の成熟度に応じてアプローチを調整しています。
 

営業部に「サステナビリティ専任人材」を配置


―― ダノンジャパンはグローバルの方針をどのようにローカライズしているのでしょうか。日本市場の特徴や工夫されている点について教えてください。

 一般に、日本の消費者はヨーロッパに比べてサステナビリティに対する意識が高くないと言われますが、さまざまな調査でヨーロッパの人が「サステナブル商品を買う」と答えていても、実際には買っていないケースも多いという実態があります。特に食品市場におけるサステナビリティの位置付けは、日本とヨーロッパでそれほど実態に違いはないのではないか、と考えています。

 その上で、日本市場においては特に「食品ロス」への関心が高いことが分かっており、それをひとつの切り口としてPDCAを回しているところです。たとえば昨年10月にはイオン主催の「えらぼう。未来につながる今を」フェアに、「食品ロス削減」をテーマに参加し、店頭では、「ダノン オイコス」を通じて、賞味期限が長い製品が食品ロス削減に貢献できることを広く訴求しました。ダノンのヨーグルト製品は独自技術によって42日間という長い賞味期限を実現しています。そこで「まとめ買い」を提案することで、商品価値と食品ロス削減という価値の両方を、実感しやすい形で伝えたところ、多くの消費者の方に受け入れられました。

 この施策は営業部のサステナビリティ担当が中心となって進めました。このポストは2025年に新設されたもので、フルタイムで「カスタマーサステナビリティ」を担う専任人材です。売上を上げるという営業としてのミッションを持ちながら、小売店など社内外のさまざまなステークホルダーと協議し、サステナビリティと売上を両立・推進しています。

―― 営業部内に専従のサステナビリティ担当を置くのは、他国のダノンでも同じですか?

 そうですね。私も入社して驚いたのですが、グローバル本社や大きめの子会社では、独立したサステナビリティ部門があるだけでなく、ファイナンス、営業、調達、オペレーションズ、事業部など、多部門にサステナビリティ専属の人材やチームがいます。日本ではこれまで、通常業務と並行しながらサステナビリティを担当する人は各部署にいましたが、このほど営業部に100%サステナビリティ専任人材が設けられたということです。

―― 事業の根幹としてサステナビリティを推進していることが体制からも分かります。一方で、理念と事業成長を両立させるのは簡単ではありません。実現のポイントを教えてください。

 それはどの業界でも、サステナビリティ担当者に共通する悩みです。ポイントはまず、「時間軸」の捉え方です。今期の売上や利益の目標だけでなく、3年、5年、10年先へと視野を広げていくと、事業存続と成長という企業の目的に影響を与える要因に「サステナビリティ」は必ず入ってきます。たとえば世界経済フォーラムが毎年発行する「グローバルリスクレポート」では、短期(2年)と長期(10年)では、ビジネスにおいて顕在化するリスクに大きな違いがあります。短期では地政学的対立や武力闘争、社会の分断といった項目が目立ちますが、長期になると気候変動や生態系の崩壊など、環境的な課題が増えます。時間軸を伸ばすだけで、サステナビリティが企業の存続にとって不可欠であることが分かります。早めにリスクを認識して戦略的に取り組むことが、生き残るためのオポチュニティにもなります。

 一方で、やはり消費者にとって重要なのは10年後の世界よりも、今日明日の自分たちの生活です。長期的でグローバルな視点と、短期的な個人の視点。このギャップを埋めるのが一番難しいですが、そこで重要になるのがマーケティングだと思います。消費者を最も理解する専門家であるマーケターが事業の基盤であるサステナビリティと、消費者のニーズ、製品・サービスの価値をどう戦略的につないでいくか、部門横断の議論をリードしていくことが期待されます。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録