CATCH THE RISING STAR #38
ANAの体育会系若手マーケターが目指す、「迷わせない」顧客体験
2026/03/30
- 人材育成,
多部署をつなぎ顧客体験の向上目指す
―― 全体の顧客体験を向上させるために調整役を担っているとのことですが、専門性の高い各部署をつなぐために、どのような姿勢で取り組んでいますか。
正直、試行錯誤しながら向き合っているところです。たとえば、機内Wi-Fiの接続に必要なバウチャーコードをどのようにお客さまにお渡しするか、といった細かい課題に対しても意見が分かれることがあります。客室側としては手配りの負担を減らしたい一方で、デジタルだけで完結させようとすると、技術的・運用的に難しい部分もある。このように部署ごとに意見や温度感が異なる議題は大小たくさんあり、いきなりゴールを目指すのではなく、中長期的にステップを踏んで取り組まなければならないケースもあります。
また、「何が価値になるか」も、お客さまによって異なります。「飛行機に乗ること」そのものを大切に思い、ノートなどに記録したいという方もいらっしゃり、その思いに可能な限り応えることは「おもてなし」として大切です。一方で、現場には安全や定時運航を最優先する役割があり、慎重な対応が必要な場合もあります(※)。ANAらしい温かみや特別感を、どのような形で楽しんでいただけるか。バランスを探りながら、最適な体験のあり方を模索しています。
※編集部注※一例として、映画『スター・ウォーズ』のキャラクターを描いた特別塗装機「C -3PO ANA JET」が2026年1月9日に運航終了するにあたり、ANAは前日8日、航空保安上の観点から乗務員によるサインや「ログ帳」への記入対応を控える異例の告知を出し、ネットニュースなどで話題になった。
調整役を担う上で大切にしているのは、現場への理解です。最初の3年間に経験した空港での業務は、今でも立ち返るべき原点です。一方で、客室やシステムなど自分が経験していない領域については、簡単に分かったつもりにならず、実際に話を聞きに行くなどして理解に努めています。専門性の高い現場に対して若手が踏み込んでいいのか悩むこともありますが、お互いの意見を理解して最適な顧客体験につなげようとする、その姿勢を示すことが大切だと思い、日々向き合っています。
異なる意見が出て判断に迷う場面で、最終的に私たちが立ち戻るのはお客さまの声です。「お客さまにとって一番よい顧客体験は何か」を常に軸に置くようにしています。特に近年は大規模な調査をしたため、現在はその分析結果を実際に施策に落とし込むフェーズです。
―― 課題と感じていることはありますか。
海外を含めてANAの認知度には、まだ伸び代があります。実は最近、マーケティング組織の改編があり、中長期的なマーケティング戦略を担う部署と、比較的短期で顧客体験を改善する部署とが統合し、CX戦略部全体の視座が上がったと感じています。安全性や規定、燃料費の高騰、国際情勢など多くの制約がある中でも、「お客さまにとって何が最善か」を考え続ける。それが今の自分にとって最も大切なことだと思っています。
また、よりよい顧客体験の設計には、マーケティング業務で活用するシステムについてもきちんと理解する必要があると感じていて、自主的にマーケティングオートメーションツールの研修に参加し、資格を取得したりしています。実際にコードを書いたり実装したりするのは外部のパートナー企業ですが、仕組みや制約を理解した上で施策のイメージを伝えることで、設計の質を高められればと思っています。
―― 今後の目標を教えてください。
今、お話したことと関連しますが、短期的な目標としては、これまで積み重ねてきた経験を、体系的な知識と結びつけたいと考えています。現場で手を動かしながら学んできた部分を裏付ける理論やフレームワークを身につけることで、自信を持って意思決定できるマーケターになりたいです。自分にとっても他者にとっても、より納得感のある判断ができるようになるのが目下の目標です。
また将来的には、ひとつの事業や領域をより深く掘り下げ、事業性や収益性といった視点も持てるようになりたいと思っています。たとえば、運賃設計や収益最大化を担うレベニューマネジメントのような領域や、機内食やシートといった目に見える価値を形にする商品企画の部署などにも関心があります。
私の強みは「せっかち」と「負けず嫌い」です。課題を抱えたまま立ち止まるよりも、まず一歩進めてみることを重視します。負けず嫌いについては、周囲に優秀なマーケターや刺激を受ける仲間が多い環境だからこそ、自然と芽生えていると思っています。悔しいと感じることも多いですが、その分、向上心につながっているところが「体育会系」かもしれませんね。
―― 最後に、仕事に生きる趣味や心がけていることはありますか?
最近はパーソナルトレーナーについてもらって筋トレをしています。ベンチプレスやデッドリフトなど、器具を使って重量を上げていくトレーニングが純粋に楽しいです。筋トレをして実感するのが、努力がきちんと返ってくることです。すぐに成果が出なくても粘り強く向き合い続けることで少しずつ状況を改善していくのは、中長期的な視点で異なる意見を調整し、顧客体験を改善していく業務にも通じるかもしれません。
―― 本日はありがとうございました。
【上司の視点】持ち前の探究心と信頼をもとに価値創造を
全日本空輸 CX戦略部CXデザインチーム リーダー
真後 広子 氏
真後 広子 氏
廣岡さんは、常にあらゆる物事の背後にある構造や本質を深く探求する姿勢を持っています。特に、お客さまからのフィードバックや潜在的なニーズに対し、丁寧に耳を傾け、それをもとにより良い顧客体験をつくっていこうという熱い思いを持っています。
航空会社という専門性の高い部門が多岐にわたる組織では、部門間の協働なくしては、ひとつの顧客体験をつくり上げることはできません。彼女は部門への深い理解や積極的なコミュニケーションを通じて、関連部門から厚い信頼を寄せられています。
今後、さらなる成長を遂げるためには、世の中の技術革新や消費者動向などの外部環境に対し、より一層アンテナを高くすることが求められます。同時に、得られたインサイトを単なるアイデアにとどめず、変化に迅速に対応し、実装へと結びつける実行力と実現力が極めて重要になります。この実行力をさらに磨き、持ち前の探求心と信頼をもとに新たな価値創造のサイクルを生み出すことで、組織全体の変革を牽引してくれることを強く期待しています。
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