日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #66

サントリー・クラフトボスが投げかける「真実か、フェイクか。」 重苦しい世の中の関心事を軽やかに取り入れて注目を集める手練れの技

 

トランプ大統領の“暴挙”に一矢報いた、テカテビール「The Gulf of Mexico Bar」


 さて、この「重苦しい世の中の関心事を軽々と取り入れた」事例は、カンヌライオンズ2025の話題作の中にも見られました。メキシコのテカテビールによる「The Gulf of Mexico Bar」です。この事例は、アウトドア部門ゴールド他を受賞しました。

 カンヌライオンズの優秀事例に、社会課題を扱ったものが多いと言われて久しいわけですが、今日われわれを取り巻く世界は、社会課題とも呼べないような困った「難題」で溢れかえっています。

 例えば、メキシコの人々にとって「メキシコ湾がアメリカ湾に改名された」という問題などは、その典型でしょう。アメリカのトランプ大統領が突然そう発表し、そうした「暴挙」に異を唱えそうなグーグル社までもが追随し、Googleマップ上の当該地域の名称が「アメリカ湾」に変更されてしまいました。その重苦しい「暴挙」に対して、軽やかに一矢報いたのが、この事例です。
 

テカテビール「The Gulf of Mexico Bar」

 テカテビールはいったい何をしたのでしょうか?アメリカ湾と呼ばれている洋上に船を出し、そこに「The Gulf of Mexico(メキシコ湾)」という名のバーを開店したのです。そして、バーの開店をGoogleマップに申請しました。Googleマップでは、店の営業を申請すると半自動的にマップ上に店名が掲載されるようになっていて、アメリカ湾(The Gulf of America)の表示のすぐそばに、「The Gulf of Mexico」の名前が堂々と表示されることとなりました。

 メキシコの人々は、テカテビールを飲みながら、大喜びしました。ところが、混乱を招くという理由からか、Googleマップ上から「The Gulf of Mexico」という表示(Pin)は削除されてしまいます。それでも、テカテビールはめげません。またすぐに「The Gulf of Mexico」の営業をGoogleマップに申請しました。表示されては削除され、削除されては申請して…を繰り返したというのです。

 もちろんこの施策で、何かが解決されたわけではありません。しかし、世界情勢から言えば、メキシコの人々にとっては暴挙とも感じられるであろうトランプ大統領のこの行為に対して、撤回させることはもちろん、正面から異を唱えることさえ難しいのが現実です。そうした重苦しい「難題」に対して、少なくとも一矢報いることはできました。そのことに対してメキシコの人々は喝采を送り、テカテビールへの好意度も大きく上がったのです。

 今の世の中は、人々の関心を集める重苦しい話題に溢れています。もちろんセンスが必要なのですが、その話題を上手に取り上げることができれば、コミュニケーションのパワーは増します。ご自身が担当する商品・サービスのコミュニケーションについても、一考してみてはいかがでしょうか。
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