日本の広告費
日本の広告費2025から“今さら聞けない” 広告産業の四半世紀を振り返る【中央大学 名誉教授 田中 洋】
2026/04/07
インターネット広告の伸長
図4では、インターネット広告がその統計の取り始めから現在に至るまでどのように伸長してきたか、前年対比の伸長率を片側対数グラフで示している。
対数目盛りはひとつの目盛りごとに数が10倍ずつ増える。この場合、タテのY軸を対数としている。片側対数グラフを用いた理由は、急速に伸びてきたインターネット広告の場合、対数グラフで表現することでその急速な成長ぶりを直線で表現することができるからである。
インターネット広告が日本の広告費統計に登場したのは1996年であったが、この年のインターネット広告費はわずか160億であった。それが30年経って4兆円を超える規模にまで成長してきた。これは250倍の成長であり、驚異的な成長であったと言わなければならない。
図4インターネット広告費の前年対比伸び率(片側対数表示) ※筆者作成このように見てみると、インターネット広告が一本調子で現在まで伸びてきた様子がわかる。ことにインターネット広告が登場した初期、2000年より前の時代(1996-2000)には驚くべき速さで伸長してきた。
2005年を越した時点で、その伸びはいったん落ち着いたようにも見えるが、それでも前年対比20%以上の伸びを続けてきた。この間、2008年のリーマンショックや2020年以降のコロナ禍による景気の後退があったものの、インターネット広告はその急速な伸長率を保ちながら現在に至っている。
高い伸長率の背景としては、広告の受け手がマス媒体からインターネットにシフトしてきた流れがあるのはもちろんであるが、インターネット自体もこの間刻々とその様相を変化させてきたことも大きい。
初期にはテレビや新聞のような「枠売り」であったインターネット広告販売が「運用型」中心に変化したこと、また、インターネット上でもプラットフォームが台頭して、SNSを通じた広告販売が増加してきたことが挙げられる。テレビや新聞には時間・スペースの限界があるのに比して、その媒体のありようが大きく変化してきたのである。
2025年の注意すべき変化
今回、プロモーション広告費自体は、伸び率が102.0%であり、伸び率としてはさほど大きくなかった。しかし注目すべきは「イベント・展示・映像ほか」が4,748 億円であり、111.2%と大きく増加した点である。
電通の解説によれば「2025 年は大阪・関西万博やJapan Mobility Show 2025、東京2025 世界陸上などの大型イベントがこの伸びに寄与した」とある。こうした大型イベントの貢献はもちろんであるが、インターネット広告との連動によって、ポップアップイベントなどの「リアル」なイベントの価値が増加したこともその要因として挙げられるだろう。
また、シネアド(映画館での広告)も『国宝』などの大ヒット映画の登場によって注目されたが、広告の受け手から「拒否されない」広告として、デジタルシネアドが注目されるようになった側面も指摘しておきたい。インターネット広告がユーザーによってすぐに消されようとし、それを防ごうとする媒体側の工夫との闘いはよく語られるところであるが、シネアドのような「拒否されない」広告メディアは今後いっそう注目されるだろう。
本稿のまとめと2つの実務的示唆
ここまで見てきたことをまとめてみたい。
- 日本の総広告費が8 兆623 億円(前年比105.1%)となり、4 年連続で過去最高を更新したこと。特にインターネット広告費が4兆円を超えて、その伸びに大きく寄与した。
- 日本の広告費とGDPの国際比較では、日本はそのGDPの1.13%であり、英米よりは低く、フランス・ドイツよりは高いという中間的な性格を示している。
- 2000-2025年の四半世紀における日本の広告費のGDPにおける比率を眺め渡すと、1.2%前後を行き来しており、ある意味で驚くほど安定的である。逆に言えば、GDPの規模に規定されて広告費が決まってきたことにもなる。
- 2000-2025年の四半世紀で、インターネット広告の伸長がマス媒体広告とプロモ―ションメディア広告費を凌駕して一本調子で伸長してきた。言い換えれば、インターネット広告費が他の広告費を吸収してきたとも言える。
- プロモーション広告費の中で「イベント・展示・映像ほか」の増加(111.2%)が注目される。
これらを踏まえて、実務的インプリケーション(示唆)としては、次の2点を提案したい。
- インターネット広告が広告活動の中心になっていることは疑いがないが、インターネット広告と他の媒体との連動や、他のアドバタイザーが使っていないユニークな広告媒体を開発することが望まれる。例えば、東京の西八王子にある「きぬた歯科」は、以前インターネット広告を主に用いていたが、高速道路などのアウトドア広告にその重点をシフトすることで広告効果を大きく効率化させた例がある。
- インターネット広告の最大の問題は、アドフラウド(不正なWebサイトへの掲載)などの倫理的問題や、ユーザーの広告拒否問題である。こうしたユーザーからのネガティブな反応を少しでも減らすために、CTR偏重の広告管理ではなく、良質な媒体への掲出や、拒否されないクリエイティブ表現開発などの課題に取り組む必要がある。
日本の広告費は、今後も過去と同様に伸び続けることが想像できるが、問題はその中身の健全性である。広告関係者にはいっそう健全な広告活動を期待したい。
注1 2026/3/22 ChatGPTによってデータ収集と作図を行った。ただし他の生成AI(Gemini)も用いて数値の妥当性を検証している。
注2 2026/3/22 海外データの情報源は次のとおり。米国はWARCの2025年市場予測、英国はAdvertising Association/WARC Expenditure Report、ドイツはZAWの2025年予測。GDPは米国がBEA系列を収録したFRED年次値、英国がONSの current price GDP series、ドイツがDestatis、日本が内閣府国民経済計算による。
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