CATCH THE RISING STAR #39

シャープの新スローガン策定に携わった若手マーケターが挑む再始動のブランディング

前回の記事:
ANAの体育会系若手マーケターが目指す、「迷わせない」顧客体験
 企業におけるマーケティングの役割と重要性が増す一方、「マーケターの仕事はAIに奪われるのでは」とも囁かれる昨今。そんな変革期にマーケティング領域で働く若者は何を考え、どう行動しているのか。

 次世代を担う「ライジングスター」にフォーカスし、彼らの多彩な思考や行動を探ることでマーケティングの近未来を照射するAGENDA Note.の本連載。39回目となる今回はシャープの新コーポレートスローガン策定に携わったブランド戦略本部の若手マーケター・河内駿佑氏に取材。日本人経営陣を主軸とした経営体制に移行し、再始動を図るシャープのコーポレートブランディングに深く携わる河内氏の奮闘と目指すものとは。
 

ボトムアップで実現したスローガン策定


―― 河内さんは2021年にシャープに転職されてきたと伺いました。これまでや現在の業務内容を教えてください。

前職は繊維の専門商社でブランドライセンスを扱う部門にいました。経理から商標管理、イベントの企画運営、営業など幅広く担い、転職を考えたタイミングでシャープのブランド管理関係の求人を見つけ、経験が役に立つと思い入社しました。

現在は組織改編されていますが、私が入社した当時のブランド戦略推進部にはいくつかのグループがあり、私は前職からの流れで、まずは商標管理などを担う管理系グループに配属されました。次いで、イベントやSNSなどの施策を実行する実行系グループ所属となり、2024年に新たに立ち上がった、ブランドの方向性や中長期のブランディング戦略を考える戦略立案のグループに移りました。管理、実行、戦略と順に関わってきたことで、ブランドを「動かす側」と「考える側」の両方の視点を持てたと感じます。
 
シャープ ブランド戦略本部 ブランド戦略推進部 主任
河内 駿佑 氏

2025年12月には、それまで別々だったブランド戦略推進部や総合デザインセンターが新たに発足したブランド戦略本部に統合されました。より一気通貫でブランド戦略の立案・実行を進められる体制になり、私は引き続き、ブランド戦略推進部の戦略立案のグループでコーポレートブランディングを担っています。

大きな取り組みのひとつが、2025年9月に発表した新しいコーポレートスローガン「ひとの願いの、半歩先。」の策定に深く携わったことです。このスローガンはBtoC、BtoB問わず顧客や取引先企業、社員、そして社会全体といった、あらゆるステークホルダーに向けた「シャープとして提供したい価値」を示す宣言となっています。

―― シャープと言えば1990~2009年のスローガン「目の付けどころが、シャープでしょ。」が有名です。新しいスローガン策定には、どのような経緯があったのでしょうか。

シャープはこの10年で経営体制が大きく変化しました。2016年に台湾の鴻海精密工業グループの傘下に入り事業構造や収益体質の再構築を進め、2024年にはシャープ生え抜きの日本人経営陣へと体制が移行し、組織改編も行われました。そのタイミングで、「シャープらしさを取り戻す」を合言葉に、戦略的なコーポレートブランディングにも力を入れることになり、立ち上がったのが私のいる戦略立案のグループです。

グループでは当初から「コーポレートスローガンをつくりたい」という会話はしていました。ただ、中期経営計画を策定中の段階であり、今後の事業方針についてなかなか明確化されない中で、スローガン策定だけが先走るわけにはいかず、時期についての見極めが必要でした。一方で、私も個人的に、「現場の社員や取引先企業にとって分かりやすい言葉で事業方針を伝えるメッセージは絶対にあった方がいい」と考えていたので、経営陣がどのような考えを持っているか、社内で情報収集を進めていました。

結果的には、中期経営計画で定めた方向性に基づいたコーポレートスローガンの策定をグループから提案し、推進することになりました。著名なコピーライターである岡本欣也さんにご協力いただき、シャープならではのコピーを、時間をかけて紡ぎ出していただきました。私たちも妥協せず、「策定に携わる全員が納得できるものをつくろう」と岡本さんとやりとりをさせていただき、最終的に複数の候補から経営陣が議論して決めました。

――変化の激しい世の中で、「常に二歩三歩先を行かねば」という声もありますが、なぜ「半歩先」なのですか。

技術は何歩先まで進んでもよいのですが、大事なのはお客さまとの距離感、価値提供の姿勢です。こちらが良いと思うものを独りよがりに提示するのではなく、お客さまの期待や願いを丁寧に読み取り、「少し先」に必要となる体験や価値を、寄り添う形でご提案したい。その姿勢を「一歩先」ではなく、あえて「半歩先」という言葉で表現しました。「これが欲しかったんだ」と喜んで受け取っていただける商品やサービスの提供を積み重ねることで、「シャープらしさ」を体現していきたい。そんな思いが込められています。

―― 河内さん自身はどのようにして「シャープらしさ」を理解し、スローガン策定という業務に落とし込んでいたのですか。

私は4人で構成されているグループの中で、社歴が最も短く、年齢も圧倒的に低かったため、シャープに長年勤めている他のメンバーに比べて、自社への理解は十分とは言えなかったと思います。だからこそ、自分から情報を取りに行く姿勢を大切にしていました。自分の部署だけでなく、経営企画部門など、経営に近い他部署と連携し、鮮度の高い情報を取りに行き、自分なりに咀嚼する。その積み重ねによって、判断の軸や発言の根拠をつくっていきました。

また、若手の自分にはベテラン社員や経営層とは異なる視点も期待されていると考え、遠慮するよりも自分なりの視点を出し切ることを意識しました。「この言葉は現場ではこのように受け取られると思います」「この表現だと伝わりにくいかもしれません」といった意見を率直に伝え、ときには議論をリードすることもありました。

私は子どもの頃を、海外で過ごしました。思春期に帰国したこともあり、自己主張することが当たり前の海外と、控えめを美徳とする日本との間にギャップも感じましたが、相手の気持ちを慮り、情報を集めながら、いざという時は遠慮なく意見を述べるスタンスは、この経験から培われたのかもしれません。

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