新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #28
『チェンソーマン』手がけるMAPPAが、激変するアニメ業界の中で選択した「戦い方」
2026/04/23
劇場版公開に先立つ「総集篇」の配信で感じた、Netflixの影響力
徳力 「レゼ篇」の公開に先立つ9月11日に、TVシリーズ第1期の「総集篇」がNetflixでも配信されましたね。
大塚 はい。長いあいだNetflixの国内週間TOP10の1位を獲得することができました。
徳力 おそらく、総集篇の配信を通じて『チェンソーマン』が再評価されたことも、劇場版のヒットの一因ですよね。大塚さんとしても、Netflixの価値やパワーを改めて認識されたのではないでしょうか。
大塚 ずっとNetflixのランキングは見ていましたし、たとえば総集篇を劇場公開するという選択肢もあった中で、『チェンソーマン』のシリーズを見たことがない人にとって一番見やすいチャネルは何かと熟考した末の意思決定でもありました。だからこそ、Netflixの視聴者が支持してくださったことには、本当に感謝しています。なんというか、「出来すぎている」という印象でしたね。
徳力 僕から見ると、狙いどおりに物事が運んでいるのだろうなと思っていたのですが、想像以上に上手くいった、という感覚ですか。
大塚 新作ではなく総集篇ですから、少しでも良い結果になれば、とか、どんなリスクがあり得るだろうか、といったことを考えながら進めていました。心のどこかでは理想的な結果を思い描きつつ、戦略としては、あくまで一人でも多くの方に見てもらえるように、という目線で取り組んでいました

米津玄師による主題歌が象徴する、「ファンが喜ぶこと」の追求
徳力 今回の「レゼ篇」において欠かすことのできない要素のひとつが、米津玄師さんによる主題歌『IRIS OUT』だと思います。同楽曲は、2025年末の紅白歌合戦でも披露され、YouTubeでのMV再生回数も圧倒的で、2025年を代表する一曲になったと言えるでしょう。楽曲のヒットも、計画的なものだったのでしょうか。
大塚 他でもない米津さんですから、ある程度ヒットする可能性は高いだろうとは思っていました。ただ、何よりも大きかったのは、米津さんの作品理解と、この作品に対する情熱への信頼でした。
米津玄師による、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』主題歌「IRIS OUT」。Billboard Global 200で5位にランクインするなど世界的ヒットを記録した。
徳力 米津さんの起用は、TVシリーズのオープニング・テーマから続く既定路線ですよね。劇場版では、主題歌のアーティストを変えるケースも多いと思うのですが。
大塚 そこは変えずに、「今回もぜひお願いしたい」ということで、打ち合わせ自体は比較的シンプルでした。あとは、上がってきたものを受け取る形です。もちろん、どういう形でかけたいか、どのタイミングで使いたいか、といった相談はしましたが、「こういう音楽をください」といった踏み込み方はしないようにしました。米津さんのフィールドを侵害せず、存分に“暴れて”いただけるような進め方を意識していましたね。
徳力 「IRIS OUT」について驚いたのは、映画のセリフがサンプリング(編集部注:既存の楽曲や歌声、自然音などの一部を抜き出し、加工・再構築して新しい楽曲を制作する音楽制作手法)されていることです。
あれは、先に出来上がっていた楽曲に、後から映画のセリフを組み込むという、いわば“手戻り”のようなことが発生しているということですよね。アニメの主題歌としては、異例のことですよね。アーティストから楽曲が送られてきたら、あとはMVをつくって終わり、という一方向の流れが普通だと思うので…。
大塚 MVでそういう演出を試してみたところ、米津さんが楽曲自体に取り入れたいとおっしゃって。そういう連携というか、作品に対するチームワークのようなものは、もしかすると、MAPPAが100%出資でやっていることで生まれた距離感によって、実現できたのかもしれません。
徳力 まさにMAPPAらしいところとも言えますね。普通ならやらないことも、米津さんが「やりたい」とおっしゃったら、喜んでそれを受け入れる。作品を最高の形で世に送り出すために、できることは全部やる。
あのサンプリングは本当に最高ですし、あれによって楽曲の中毒性が増していると感じます。米津さんご自身がパフォーマンスの場でも、あの要素をとても大事にされていることが伝わってきますよね。
大塚 お客さんにどうすれば最も届くのか、どうすれば最も喜んでいただけるのかを、高い純度で考え、そのまま実現できる。それは、100%単独出資であることの大きな意味のひとつなのではないかと思います。
アニメの音源というのは、ともすると数字を上げるためのアイテムとして、自社の領域に囲い込んでしまいがちです。でも、米津さんの楽曲としてアニメの素材が世の中に出ていったほうが、より多くの方に知っていただけるし、楽しんでいただけるのではないか、と考えました。
100%単独出資であれば、原作元の集英社にさえOKをいただけたら、僕らが最善だと思う選択肢を自分たちで選ぶことができる。そういう土壌をつくれたことは、本当に良かったと思っています。
後編に続く
- 他の連載記事:
-
新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ の記事一覧

- 1
- 2




メルマガ登録














