「迷ったら、削る」グローバル戦略の描き方 #07

海外売上比率4割の南部鉄瓶メーカー 岩鋳 「変えないこと」と「変えること」を見極める創業123年のグローバルブランド哲学

前回の記事:
シンガポール大学の経営学者に聞く、日本企業がアジア進出で見落としがちな3つの視点
 ユニクロのAIチャットボット 「UNIQLO IQ」や世界中の着こなし・コーディネート情報を検索できる「StyleHint」のコンセプト・開発・UXデザイン、P&G パンテーンのキャンペーン「#この髪どうしてダメですか」などを手掛けてきた高宮範有氏。

 I&COの東京オフィスを2019年の開設時からリードし、2024年4月にI&CO APACの代表に就任した高宮氏が、I&CO創業から10年で培った実績と、アジア各国のスタートアップ約250社と情報交換する中で見えてきた国境を越えるブランディングに大切なことを解き明かしていく本連載。

 第7回となる今回からは、海外展開の先例となる企業と高宮氏の対談を通して、海外展開を成功させている企業に共通する要素を紐解いていく。(本稿は、I&CO 高宮氏と岩鋳 高橋潔充氏の対談をもとに再構成した)
 

南部鉄瓶メーカー・岩鋳に学ぶ、海外展開を成功させる実践知


「現地に合わせることと、ブランドの核を守ること」の最適なバランスとは? —— 日本ブランドの海外展開を支援していると、この問いに繰り返し直面します。

 どこまでローカライズするか。何を変えてはいけないか。この問いに対する答えは、実際に海外市場で長年積み上げてきた企業の事例から学ぶのが一番だと思っています。

 今回取り上げるのは、1902年創業の南部鉄瓶メーカー・岩鋳(いわちゅう)です。現在、売上全体の約4割を海外が占めるまでに成長した岩鋳は、約30年前に海外展開を本格化させて以来、独自の判断軸を持ちながら市場を広げてきました。同社の高橋潔充氏へのインタビューをもとに、その実践知を整理しました。
   
南部鉄瓶(提供:岩鋳)
 

海外展開の起点——現地の声に3年かけて応える


 岩鋳が海外展開を本格化させたきっかけは、平成初期のヨーロッパ見本市でした。出発点となったのは、その見本市で出会ったフランスの紅茶メーカーからの「フランスの生活様式に合うカラフルな製品を作ってほしい」という要望です。

 当時、黒や茶の伝統色しか手がけていなかった岩鋳にとって、カラフルな急須の製造はまったく新しい挑戦でした。開発は容易ではなく、鉄の表面に鮮やかな色を安定して出す技術の確立に約3年を要したといいます。
    
急須 カラーラインナップ(提供:岩鋳)

 さらに、当時はまだオンラインで色見本を共有できる環境も整っておらず、完成に向けては国際便で現物を送り合うやり取りが必要でした。この粘り強さが、岩鋳のグローバル展開における最初の大きな転機となりました。

 現地のニーズに向き合うこの姿勢は、その後の市場開拓においても一貫しています。そのためにはまず、ニーズそのものを丁寧に把握する必要があります。たとえば色の好みであれば、フランスでは落ち着いた「くすみカラー」、ドイツでは黒が人気です。サイズでも、日本では小ぶりものが主流になっていく中、中国では中華鍋のような大きなサイズがブームになった時期がありました。

 こうした情報の源泉は、現地の代理店や小売店との継続的な関係です。岩鋳は展示会での対話や代理店との相互訪問を通じて、「距離は離れていても関係は非常に密」な状態を維持しています。特に、中国ではコロナ禍以降、現地の代理店が毎日7~8時間ライブコマースで岩鋳の商品を紹介するという、日本では見られない販売スタイルも生まれています。
   
ドイツでの展示会の様子(提供:岩鋳)
 

【実践ポイント】

  • 展示会や見本市での取引先からの具体的な要望が、海外展開の入口になり得る
  • 色・サイズ・用途の好みは国ごとに異なり、現地との継続的な関係がニーズ把握の主要な情報源になっている

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