「迷ったら、削る」グローバル戦略の描き方 #07
海外売上比率4割の南部鉄瓶メーカー 岩鋳 「変えないこと」と「変えること」を見極める創業123年のグローバルブランド哲学
独自性を守りながら、現地に根ざす
こうした柔軟性を持ちながら、岩鋳は「現地のデザインに寄せすぎるとかえって埋もれてしまう」という考えのもと、南部鉄瓶ならではのフォルムを守っています。高橋さんが「日本でしか作れない商品の佇まい」と表現するこの独自性こそが、海外市場での岩鋳の評価を支える根拠です。
一方で、独自性を守るだけでは市場は広がりません。現地との密な関係があってこそ、製品は思わぬ形で進化することがあります。たとえば、日本では需要が消えつつあった灰皿について、海外の代理店から「現地ではお香立てとして人気がある」という声が届いたケースがありました。
岩鋳はその報告をもとに新しい色のバリエーションを展開し、同製品は今では人気商品のひとつに育っています。作り手の意図を超えて製品が新たな価値を獲得できるのは、現場の声が本社に届く関係性があってこそです。
こうした独自性と現地との関係性を支える土台として、品質への一貫した姿勢があります。安価な類似品が存在する海外市場においても、岩鋳は製造工程や細部へのこだわりを顧客に丁寧に説明し、岩鋳製品の価値への理解を積み重ねてきました。「長年にわたって品質を守り続けてきた実績こそが、何よりの差別化になっている」と高橋さんは語ります。

南部鉄瓶の製造の様子(提供:岩鋳)
【実践ポイント】
- 日本市場で需要が落ちた商品が、別の市場で新たなニーズを持つ可能性がある
- 現地との密なやりとりが、意図しなかった製品用途の発見と新展開を可能にする
- 製造工程や品質へのこだわりそのものが、模倣品との差別化に有効に働く
急成長より安定供給——持続可能な拡大の作法
岩鋳は、売上の約4割が海外という現状でも、その海外比率を無理に高めようとは考えていないといいます。どこかの市場でブームが起きても、既存顧客への供給を確実に守ることを最優先にしているからです。「簡単に増産できない」という業界ならではの制約を受け入れ、拡大の速度よりも品質を守り続けることを選んでいます。
今後の展開候補として中東・インド・アフリカが視野に入っているといいますが、高橋さんは「これらのエリアが、お茶文化や鉄器文化にどれだけ馴染むかはまだ分からない」と慎重な姿勢を崩しません。
特定の市場や販売チャネルへの過度な依存を避け、既存の関係を大切にしながら着実に広げていく。その積み重ねが、30年にわたるグローバル展開の持続性を生んでいます。
【実践ポイント】
- 「安定供給」を優先する姿勢が、長期的な信頼構築につながる
- 新市場への参入は、文化的親和性の調査を経て慎重に検討されている
いま一度「何を変え、何を守るか」の棚卸しを
フォルムは守り、色合いで対応する。
品質に妥協しない。
現地の声を拾いながらも、合わせすぎない。
急成長を追わず、安定供給を守る。
岩鋳が海外展開を本格化してからの30年は、「何を変え、何を守るか」という問いへの一貫した回答の積み重ねです。
自社のブランドに置き換えて、「変えてよいもの」と「変えてはならないもの」を棚卸しする——それが、この事例から読み取れる最初のアクションではないでしょうか。
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