新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #30
『キャプテン翼』を観て育ったサウジ発「マンガプロダクションズ」CEOが示す日本のIPとパートナーシップの可能性
2026/05/18
日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考をnoteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。
今回、徳力氏が対談したのはサウジアラビアに本社を持ち、日本のアニメ産業と提携したコンテンツ制作・配給やIPマネジメントを手がける「マンガプロダクションズ」CEOのブカーリ・イサム氏。同社は2011年にサウジアラビアで生まれ、2018年に日本支社を設立。2017年にCEOに就任したイサム氏は早稲田大学出身の元外交官という異色の経歴の持ち主だ。
日本からは遠い印象がある中東の企業が、なぜ日本のコンテンツ産業と連携するのか? 「日本の皆さんと共に世界中に夢と感動を届けたい」と目を輝かせて語るイサム氏の言葉から、日本のIPが持つグローバルな可能性とパートナーシップに必要な視点を探る。
今回、徳力氏が対談したのはサウジアラビアに本社を持ち、日本のアニメ産業と提携したコンテンツ制作・配給やIPマネジメントを手がける「マンガプロダクションズ」CEOのブカーリ・イサム氏。同社は2011年にサウジアラビアで生まれ、2018年に日本支社を設立。2017年にCEOに就任したイサム氏は早稲田大学出身の元外交官という異色の経歴の持ち主だ。
日本からは遠い印象がある中東の企業が、なぜ日本のコンテンツ産業と連携するのか? 「日本の皆さんと共に世界中に夢と感動を届けたい」と目を輝かせて語るイサム氏の言葉から、日本のIPが持つグローバルな可能性とパートナーシップに必要な視点を探る。
日本アニメに「諦めないこと」を学んだ
徳力 サウジアラビアでは昔から日本のアニメが観られていたのですね。正直、そのイメージは全くありませんでした。
イサム 私たちは「日本のアニメを観て育った」と言っても過言ではありません。私が子どもの頃はインターネットもなく、テレビは国営放送の1局しかありませんでしたが、湾岸諸国が協力してつくったダビング(吹き替え)センターがあり、そこでアラビア語に吹き替えされた『未来少年コナン』や『小公女セーラ』といった日本アニメがよく観られていました。そのため、私と同世代のアラブ人の多くが、日本に愛情や憧れを持って育っています。2011年にマンガプロダクションズを設立した現在の皇太子であるムハンマド殿下も同じです。

マンガプロダクションズ CEO
ブカーリ・イサム 氏
マンガプロダクションズCEO。マンガアラビア代表兼編集長。東京大学ムハンマド・ビン・サルマン未来科学技術センター実行委員会執行委員。東海大学客員教授。元駐日サウジアラビア王国大使館文化担当官。元SNK会長最高顧問。日本の外務大臣賞2度受賞。日本とサウジアラビアの文化交流に尽力。世界知的所有権機関 WIPO Global Awards審査員に選出。早稲田大学にて学士・修士・博士号取得。
ブカーリ・イサム 氏
マンガプロダクションズCEO。マンガアラビア代表兼編集長。東京大学ムハンマド・ビン・サルマン未来科学技術センター実行委員会執行委員。東海大学客員教授。元駐日サウジアラビア王国大使館文化担当官。元SNK会長最高顧問。日本の外務大臣賞2度受賞。日本とサウジアラビアの文化交流に尽力。世界知的所有権機関 WIPO Global Awards審査員に選出。早稲田大学にて学士・修士・博士号取得。
徳力 外交官のキャリアを捨ててアニメ産業に移られたイサムさんの経歴も驚きです。それほど、マンガやアニメなどのコンテンツに可能性を感じたということでしょうか。
イサム 私は『キャプテン翼』を観て育ちました。主人公の大空翼くんが全国大会で優勝すると、私も奮起して勉強を重ね、学校で1番の成績をとりました。翼くんがブラジルに行けば、私も日本への留学を決意しました。どんなに大変な環境であろうと負けないこと、諦めないことをそこから学んだのです。
私の娘は『ハイキュー!!』にハマっています。彼女は『ハイキュー!!』を観てバレーボールを始め、性格が変わりました。成績も良くなり、最近サウジアラビアの国家試験に合格しました。日本のIPは人生を変える力を持っています。
徳力 学校を舞台にした日本のアニメは、文化の違うサウジアラビアの人にとっては遠い話なのではと思いましたが、たしかに描かれているのは、努力や友情といった普遍的なテーマですね。日本では「努力や根性は古くさい」と揶揄されることもありますが、グローバルに見れば、国や文化の壁を越えて人の心を動かし続けているんですね。
イサム だから私が、『キャプテン翼』の原作者である高橋陽一先生や、日本アニメーション代表取締役の石川和子さんなどアニメ業界の方々に会う時、最初に言うのは「夢を与えてくれてありがとう」という言葉です。
私たちのビジネスは、単にアニメやマンガ、ゲームをつくるのではなく、子どもに「感動と夢」を与え、「次世代のヒーロー」を育てることだと思っています。売上やKPIは大事ですが、それよりも大切なのは、今の子どもが大人になった時に「いいものをつくってくれてありがとう」と、言ってくれるものをつくることです。サウジアラビアでは『ドラゴンボール』のテーマパークが建設予定ですが、それも、意思決定する立場の人々が30年前に『ドラゴンボール』を観ていたから実現したことです。私たちも30年後を見据え、そんなコンテンツをつくらなければなりません。
徳力 日本のアニメを観て育った方々が、そんなふうに言ってくださるのは、嬉しい限りです。ただ、世界ではコンテンツのあり方そのものが大きく変わりつつありますよね。
イサム 現在の世界では「ジャンクフード」的なコンテンツがあふれています。過激なものやクオリティの低いコンテンツが量産されています。悪いものを食べれば体調を崩すのと同じように、良くないコンテンツを消費すれば精神に悪影響を与えます。生成AIによって危険は増しています。
一方、日本のアニメの多くは安心して子どもに見せられる、道徳や感動を兼ね備えた「文化」です。だから私は日本の皆さんと力を合わせて、世界の子どものためにそんな良いコンテンツを一緒につくりたいと思っています。
徳力 今、日本のアニメは深夜枠にどんどん移り、その結果、過激な表現やエロが多くなりましたが、もともとはイサムさんが「モーニングアニメ」と表現するように、朝に子どもが安心して見られるコンテンツから発展してきたのですよね。
以前、日本アニメの動画配信サービスCrunchyrollのアニメアワードに参加した際に、外国の記者に「ディズニーアニメーションは子ども向けだけど、日本のアニメは大人向け」と言われました。『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』など、大人向けの深いものがグローバルでは刺さっていて、それが今の日本が「ミッドナイトアニメ」に寄る要因にもなっている。少子化という事情もあり、子どもが安心して観られるコンテンツが少なくなっている問題に、ハッとさせられました。
でも、イサムさんのように日本のアニメを「文化」としてリスペクトしてくれる人を世界中に増やしたいと思うなら、幼い頃から安心して見られる子ども向けアニメも頑張らないと、世界で尊敬される「文化」を失ってしまうリスクがありますね。

note noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏
NTTやアジャイルメディア・ネットワーク等を経て、現在はnoteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートを行っている。個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。
徳力 基彦 氏
NTTやアジャイルメディア・ネットワーク等を経て、現在はnoteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートを行っている。個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。




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