新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #30

『キャプテン翼』を観て育ったサウジ発「マンガプロダクションズ」CEOが示す日本のIPとパートナーシップの可能性

 

コンテンツを日本の「石油」に


徳力 サウジアラビアと言えば「石油」のイメージが強いですが、マンガプロダクションズのようなコンテンツ産業に注力するのはなぜなのでしょうか。

イサム マンガプロダクションズ設立の背景には国家的な成長戦略「サウジ・ビジョン2030」があり、戦略では「脱・石油依存」の方針が明確に打ち出されています。我が国にとって石油だけに依存し続けることは、今やリスクです。たとえば日本の住友グループも鉱山開発から始まり、化学、電気、銀行などへと事業を広げ、資源に依存しない構造を築いてきましたよね。つまり、石油があるうちに次の産業を育てる必要がある。そのひとつがコンテンツビジネスです。



徳力 イサムさんが「アニメやコンテンツこそが日本にとっての石油だ」とおっしゃっているのを記事で読み、産油国の方の言葉として重みを感じました。しかもコンテンツは、石油と違って、消費しても無くならない資源ですよね。そう考えると、日本が持つ「資源」の意味も、少し違って見えてきます。

イサム 今の日本とサウジアラビアは補完的な関係が築けます。日本には石油・天然ガス資源がほとんどないけれど、ストーリー・キャラクター・精神性豊かなコンテンツが数多くある。一方、サウジアラビアには資源はあるけれど、オリジナルIPを生み出す会社はまだまだ多くない。自分たちのIPを持っていたら、まずそこに投資しますよね。現在はまだ数が少ないから、日本のIPに投資しやすいのです。サウジアラビアは日本のコンテンツへの愛情と尊敬があってこそパートナーシップを築いていますが、先ほど触れた『ドラゴンボール』のテーマパークや、サウジアラビアで開催される日本アニメの祭典「SAUDI ANIME EXPO」など多様な展開は、今だから実現できるという側面も大きいです。「鉄は熱いうちに打て」。日本のIPは投資しやすく、活用しやすく、パートナーシップを築きやすい形にして、世界に向かって開かれるべきだと思います。

徳力 イサムさんから見ると、日本のアニメ産業は動きが鈍いとお考えですか? 

イサム 正直なところ、そう思います。日本のコンテンツ産業には「明治維新」が必要です。

徳力 たしかに、日本のコンテンツ産業はこれまで「鎖国」状態で、たとえばNetflixのようなところが「黒船」として機能したことで、今ようやくグローバルに開かれてきた感があります。

イサム 日本のIPは360度、ビジネス展開が可能です。オフライン、オンライン、エンタメイベント、マーチャンダイズをしっかり考えないといけません。たとえば中東でも人気の永井豪先生原作によるテレビアニメ『UFOロボ グレンダイザー』に関して、私たちは50年ぶりにリブートした『グレンダイザーU』のアラブ地域での吹き替え・放送のほか、世界配信も手がけています。また、権利を所有する日本企業とパートナーシップ契約を締結し、首都リヤドに全長33.7mのグレンダイザー立像を設置したり、特別パッケージのポテトチップスを販売したりと、多角的なキャンペーンを展開しました、立像は架空キャラクターの金属製彫刻としてギネス記録に認定されて話題になり、ポテチは1日50万個売れる大ヒットになりました。

徳力 「昔、流行っていたよね」で終わりがちな伝説的なコンテンツに、海外の方が新たな火を入れてくれているんですね。日本では「古い」とか「儲からない」と見なされているものも、世界に目を向ければ、むしろ新しい価値として受け止められる可能性がある。そのお手本のようなビジネスモデルを、かつて日本のアニメを観て育ったイサムさんたちがつくってくださっているのが、興味深いです。

イサム ですから、我々も喜んで日本のIPに出資をさせていただいています。単なるギブ・アンド・テイクではなく、パートナーとして共に価値を生み出していきたい。共に作品をつくり、共に世界に展開し、共に感動を届ける。それがこれから目指すべき姿だと思っています。
 

「日本のコンテンツは海外で人気」で終わらないで


徳力 グローバルに挑戦したい日本のアニメ企業や、IPとコラボしてグローバルにビジネスを展開したい企業は、どこから手をつければいいでしょうか。

イサム 「日本のコンテンツは海外で人気がある」という認識で止まらず、「その先」を考えることだと思います。どんな可能性があり、リスクがあるのか。リスクを避けるために何を変える必要があるのか。現状認識ではなく未来を設計する議論が必要です。

日本企業の関わり方としては、たとえばコンテンツを生かしたビジネスへのスポンサードは、自社商品・サービスの世界展開にとって大きなチャンスになります。eスポーツワールドカップやリヤド・シーズン(※サウジアラビアの首都で開催される大型エンタメイベント)、アニメエキスポなど、企業がコンテンツと接点を持てる機会はたくさんあります。そういった場でタイアップやスポンサードを行うことが、グローバル展開につながりやすくなるのではないでしょうか。

徳力 サウジアラビアと日本では文化や商習慣も違うので、そのままというわけにはいかないでしょうが、商品とコンテンツをローカライズした上で組み合わせて入っていく方が、スムーズに受け入れられる可能性はありますね。サウジアラビアと日本の理想的なパートナーシップについてどのようにお考えでしょうか。

イサム 私の夢はサウジにとってもコンテンツが「石油」になることです。そのために日本とのコラボレーションは、これまでも、これからも非常に重要です。競争するのではなく、パートナーとして共に世界に挑んでいく関係を築きたいと考えています。「メイド・イン・サウジ」でも「メイド・イン・ジャパン」でもなく「メイド・イン・サウジ&ジャパン」。新しい価値を一緒に生み出していきたいです。

【対談後記】
遠く離れたサウジアラビアの方々が、私たちと同様に日本のアニメを見て育ったという話だけでも、嬉しい話なのですが、イサムさんに熱く日本アニメの可能性を語っていただいて、あらためて「日本人が一番、アニメの持つ本当の可能性を理解していなかったのではないか」とすら、感じる1時間でした。

特に、良い意味でショックだったのは、アニメのようなコンテンツが日本にとっての「石油」になりうるという提言です。日本はずっと天然資源がないことを嘆いてきましたが、実はその一方で、世界に誇るコンテンツがこれからサウジアラビアの「石油」のように、国にとって大事な資源になろうとしている。そのことを産油国の方に指摘されるというのは不思議な感覚でした。

アニメだけではなく、最近は音楽でも、過去の楽曲が世界で話題になるといった現象が起きています。日本人はこれまでの自分たちのコンテンツという「資源」の価値を、再度、精査すべきタイミングなのかもしれません。(徳力基彦)

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