広報・PR

「中東危機」に広報・PR視点で正しく向き合う 生活者の不安と、企業に問われる「説明責任」

 

「安心競争」とは、きれいな印象づくりではない


 中東危機のような局面では、商品・サービスをどう見せるかより、企業が何を説明するかが見られる。顧客が不安を感じているときに、説明から逃げる会社は信頼を大きく失う。私はこの局面を「安心競争」と呼んでいる。ただし、これはマーケティング上の競争優位という意味ではない。顧客が知りたいことから逃げずにしっかり説明できるかどうかを問われる状態のことである。

 生活者や顧客が見ているのは、「どちらの商品・サービスが魅力的か」だけではない。高くなった理由が分かるか。供給の見通しが説明されているか。品質維持への姿勢が見えるか。問い合わせた時に、現場の説明がブレていないか。こうした一つひとつが、企業への信頼を支えることになる。

 安心競争とは、単に良いイメージをつくる競争ではない。「信頼を失わないため」の説明競争でもある。
   
出典:123RF
 

広報がまずやるべきことは、発信案づくりではない


 中東危機の局面で、広報・PR視点で最初にやるべきことは、発信案を考えることではないと私は考えている。顧客が見る言葉・聞く言葉をまず点検することである。営業資料、問い合わせ窓口、Webサイト、FAQ、IR、経営トップの発言が、同じ前提に立っているかを確認する必要がある。これを見ないまま、新たな発表文だけを整えてもあまり意味はない。

 以前、ある企業の危機対応を支援したとき、相談は「発表文をどう書くか」だった。しかし実際には、営業資料、問い合わせ窓口、Webサイト、経営層の説明が少しずつ違っていた。顧客が不安に思うのは、文章の巧拙ではなく、会社として説明の前提がそろっていないことである。

 広報・PR視点でまず確認したいのは、生活者や顧客が不安に思う論点である。価格、供給、品質、納期、問い合わせ、今後の見通しに分けて整理する。次に、分かっていること、まだ分からないこと、約束できること、約束できないことを仕分ける。そのうえで、営業、FAQ、問い合わせ窓口、Webサイト、IR、SNS、経営メッセージで、説明が食い違っていないかを見る。

 これができていない会社では、危機時に説明が部門ごとに食い違う。説明が食い違えば、顧客は「この会社は状況を把握できているのだろうか」と不安になるだろう。
 

広報がリリース係のままでは、中東危機に対応できない


 中東危機は、遠い地域のニュースではない。原油高や物流不安は、生活者の家計、顧客企業の調達、現場の問い合わせに直結する。そのとき問われるのは、企業が何を売るかではなく、何を説明し、何に責任を持ち、どこまで顧客の不安に向き合うかである。

 発表文を整えるだけでは足りない。値上げの理由の説明を営業任せにし、問い合わせ窓口の言葉を確認せず、WebサイトやFAQの説明も古いままにしておいて、「広報対応は済んだ」と考える会社は危うい。顧客は、企業の言葉を一ヵ所だけで見ているわけではない。営業の説明、窓口の返答、経営トップの発言、公式サイトの記述をつなげて、その会社が状況を分かっているのか、説明から逃げていないのかを見ている。

 安心や信頼は、優しい言葉でつくるものではない。顧客が不安に思うことから逃げずに説明することでしかつくれない。中東危機時代の広報・PRに必要なのは、結局のところ、その覚悟なのだと思う。
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