CMO Frontline ―マーケティングトップの思考と挑戦に迫る― #02

レッドバロン「完成されたビジネスモデル」を未来へどうつなぐ? CMO関口憲義氏が挑む「N=100%」のマーケティング

 

「完成されたビジネスモデル」をデジタルとマーケでグロースさせる


―― 既存のビジネスモデルが盤石であることがよく分かりました。その上で、関口さんはご自身のどんな「強み」を生かしたいとお考えですか。

 私は顧客理解と顧客の組織化、ブランディングに一貫して取り組んできましたが、正直、自分の「強み」というのはあまり考えたことがないのです。マーケティングはとてもシンプルで、要はお客さまがどんな方か、どんなきっかけで行動するかを突き詰め、最適な施策を打つことに尽きます。

 たとえば高級車であれば、買い替えのきっかけはざっくり言って約5割が車検、2割5分が結婚や出産・転勤といったライフステージの変化です。残る2割5分のうち1.5割はブランド、5分は故障や事故といったコントロール不能な部分、分類不能な「その他」が5分です。

 車検やライスステージの変化に対しては、顧客一人ひとりの解像度を高めれば、タイミングよくアプローチすることができます。ブランドに関しては、「どうしてもこの車種が欲しい」とか、「このお店なら安心」と思っていただけるようなブランディングが有効です。ボルボのような高級車の場合は分かりやすいですが、保険のように差別化しにくいサービスでは、このブランドとウインドウ、つまりお客さまとの接触機会を増やすことの重要性が増します。

 このように、顧客の組織化と理解を前提として、自分で「いじれるところ」と「いじれないところ」を見極め、手持ちのヒト・モノ・カネの資源をどのように優先順位をつけて振り分けていくかを考えるのがマーケティングです。自分の強みがどうこうというより、この原則を守れば、どんな業種・企業でも、誰でも実践できることだと思っています。

―― 「誰でもできる」はご謙遜だと思いますが…。関口さんや、マーケティングに期待される役割とはなんでしょうか。

 ビジネスモデルを変える必要は全くと言っていいほどないので、オペレーションのアップデートが中心になります。レッドバロンの顧客理解は、営業担当や店長・工場長が地域に根づき、お客さま一人ひとりをよく見ていることに支えられています。お客さまのニーズを把握し、タイミングよく最適な提案を差し出せるのが強みです。一方で、それが店舗ごとの個人技になっていた部分もありました。その知見をデータとして蓄積し、顧客を組織化しながら現代のマーケティング技術と結びつけようとしています。紙や電話、ファックスでやっていた部分もデジタル化することで効率化します。

 若年層へのリーチも課題です。ロードサイドの赤い看板は非常に高く認知していただいている一方、店頭に大型バイクや絶版車、高級車を並べていることから「敷居が高い」「初心者が行っていいのかな」と感じる方がいることも分かってきました。ブランディングや広告戦略にはまだ改善の余地があります。PESO全てを使ってブランディングしていきます。

 あとは、お客さまのCEPを一つひとつ掘って、分からなければ必要に応じて調査やヒアリングを行い、PoCやABテストを通じて施策を検証していく。基本的には教科書どおりのマーケティングをやるのみですが、店舗の営業力が強い当社にとって、マーケティングによって来店動機を高めることができれば、強力な成長エンジンになります。

―― 組織文化についてはどのようにお考えですか。

 マーケティング領域を担う私としては、「社員のほぼ全員がバイク乗り」という長年変わらないレッドバロンの文化は、大きな強みだと思っています。社員自身がライダーだから、お客さまがどんな時に不安を感じるか、何をされると嬉しいかを理解して、先回りして営業したりサービスしたりしようとします。ここ数年、マーケティングの世界では、ただ一人の顧客を徹底的に理解する「N=1」が注目されていますが、お客さまの気持ちになって、お客さまにプラスになることを考えることだと理解しています。

 その点からすると、当社は社員が100%バイク好きですから、お客さまに対しても「N=100%」、すべての顧客に最高のサービスを実現できる組織です。全てのライダーが安心してバイクを楽しめる環境を維持するために何が必要かを、社長から社員まで全員で考えている。そんな会社はなかなかありません。この素晴らしい資産をデジタル化やマーケティングのノウハウ、部署連携によってアップデートすれば、より成長できると確信しています。

―― 関口さんは社外でマーケティング教育にも携わっておられますが、マーケター育成において重視されていることはありますか。

 クリティカルシンキングが大事だと思います。「なぜそうか」をとことん突き詰める姿勢です。また、レッドバロンの社員に限らず、若いマーケターには自分と異なる属性の人と付き合うことを勧めたいです。長年、さまざまな会社でマーケティングをしている中で、マーケターには比較的似たようなバックグラウンドの人が多いと感じてきました。社会階層の固定化や、SNSによるエコーチェンバーなども影響しているかもしれません。ですが、私たちが向き合うお客さまにはさまざまな環境や価値観を持つ方がおられます。マーケターなら、そのことを強く認識しなければなりません。

 レッドバロンの顧客層も本当に幅広いです。高級バイクが好きな方もいれば、古いバイクを譲り受けて乗り始めた方もいます。時代も変わっており、かつてはバイクに乗ることを家族に反対されるケースが多く見られましたが、今では親子で店舗にいらして選んでいる方もいて、価値観の多様化を実感します。そういったことは、自分の周りばかり見ていてもつかめません。違う生活環境や価値観を持つ人を知ることが、顧客理解の第一歩だと思います。

―― 最後に高度なビジネスモデルを継承し、マーケティングを成長エンジンとしてレッドバロンを発展させるための、関口さんの考えを改めて聞かせてください。

 人は毎日「何を買うか」「どこに行くか」「何を好きになるか」など、必ず何かしらの選択をしていますよね。マーケティングは、その「選択」を理解することに尽きます。レッドバロンも、創業以来「ライダーは何を不安に思うか」「どういう時に困るか」「何が嬉しいか」を考え続け、その結果が今の仕組みにつながっています。

 テクノロジーやAIの活用は大切です。ただ、それを使うこと自体が目的ではなく、本当に価値あるものをより良い形で次世代に受け継いでいくためのツールに過ぎないと、少なくとも現時点の私たちは考えています。50余年の歴史で築いてきた強みを、今の技術で未来につないでいく。それこそが私の役割なのだと認識しています。

―― 本日はありがとうございました。

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