CATCH THE RISING STAR #43
「ネスカフェ アイスブレンド」をローンチから主導、ネスレの若きマーケターの「量と質を確保し、成功体験を共有する」チームマネジメント
2026/07/06
企業におけるマーケティングの役割と重要性が増す一方、「マーケターの仕事はAIに奪われるのでは」とも囁かれる昨今。そんな変革期にマーケティング領域で働く若者は何を考え、どう行動しているのか。
次世代を担う「ライジングスター」にフォーカスし、彼らの多彩な思考や行動を探ることでマーケティングの近未来を照射するAGENDA Note.の本連載。43回目となる今回、取材したのはネスレ日本のアイスコーヒー専用商品「ネスカフェ アイスブレンド」を担当する尾崎由唯氏。スケールの大きな新ブランドローンチを主導した尾崎氏が実践した「質と量を確保する」チームマネジメントと、成果につながるマーケティングとは?
次世代を担う「ライジングスター」にフォーカスし、彼らの多彩な思考や行動を探ることでマーケティングの近未来を照射するAGENDA Note.の本連載。43回目となる今回、取材したのはネスレ日本のアイスコーヒー専用商品「ネスカフェ アイスブレンド」を担当する尾崎由唯氏。スケールの大きな新ブランドローンチを主導した尾崎氏が実践した「質と量を確保する」チームマネジメントと、成果につながるマーケティングとは?
入社式で提案したキットカットの企画が採用
―― 尾崎さんはネスレ日本に新卒で入社されました。入社の経緯を教えてください。
商学部で包括的にビジネスを学び、MBAを目指す方々とも交流がある中で、食品メーカーの方々がお土産に持ってきてくださるお菓子をいただいて、人を幸せにする、目に見える商品があるっていいな、と思うようになりました。
グローバルなビジネスにも興味があったので外資系メーカーを軸に就活をしつつ、ネスレ日本に惹かれたのは、外資系でありながらも日本市場にローカライズして、社会的に見ても印象に残る取り組みが多かったからです。たとえばオフィスコーヒーサービスの「ネスカフェ アンバサダー」や、「キットカットの受験キャンペーン」など、とてもユニークです。グローバルな知見とスケールメリットを生かしつつ、日本の市場に合わせて柔軟に働けそうなところに面白みを感じ、入社しました。
関西での営業からスタートし、その後、営業企画部に異動したあと、2022年から現在の飲料事業本部に配属され、マーケティングに従事しています。飲料事業本部はマーケティング施策を検討するだけでなく、製品開発から中長期的なブランド方針策定、短期的なアクション、P/L管理や消費者コミュニケーションまで、ブランドに関する全てを管轄する部署です。ひとつのブランドにブランドマネージャーが一人付き、そのブランドを専属で担当しています。
―― 特にマーケティングに興味を持つようになったきっかけはありますか?
思い返せば、入社式がターニングポイントだったかもしれません。ネスレ日本では、私が入社する数年前から、入社式で新入社員がビジネスアイデアを役員に向けてプレゼンするのが恒例になっています。私もチームの一員として、旅先で撮った写真をキットカットのパッケージに印刷し、そのまま大切な人にお土産として郵送できるアイデアを発表しました。
この案は当時のマーケティング担当者に高く評価され、「旅の思い出 キットカット」としてその年の11月、JR京都駅で実際に商品化することができました。入社式のアイデアが実現するのは非常に稀なケースと聞いています。若手であってもアイデアが良ければ本気で形にしてくれる。そういう会社であることが、この経験を通じて実感できましたし、「マーケティングで活躍したい」と思うきっかけにもなりました。

ネスレ日本 飲料事業本部
尾崎 由唯 氏
尾崎 由唯 氏
―― 現在はどのような業務をおこなっていますか。
ブランドマネージャーとして、2025年3月にグローバルに先駆けて日本で新発売したアイスコーヒー専用商品「ネスカフェ アイスブレンド」に、開発段階から携わっています。近年、コーヒー市場ではアイス需要が拡大しており、コンビニやカフェなどを含めると市場全体の約4割を占めます。一方で、粉末状のソリュブルコーヒー(インスタントコーヒー)に関しては「お湯を入れて飲むもの」というイメージが根強く、当社もアイス市場での想起を獲得しきれていない課題がありました。
これから暑い時期が長くなると想定される中で、「ネスカフェ アイスブレンド」はこのようなニーズと背景を踏まえて立ち上がったブランドです。特長はソリュブルコーヒーでありながら水や冷たいミルクに溶けやすく、手軽に本格的なアイスコーヒーを楽しめる点にあります。グローバルの開発理論をもとに日本の工場で製造チームと試行錯誤を重ね、「クリスタルフローズン製法」というネスカフェ史上初の独自製法によって実現しました。この製法の名称は、技術の価値を分かりやすく伝えるために、私が発案して名付けたものです。青いパッケージも、たくさんのコーヒー商品が並ぶ店頭で目立つように爽やかなブルーを採用しています。
製品ができた後は、ブランドマネージャーとして消費者コミュニケーションをリードしました。ターゲットユーザーを設定し、どのような価値を訴求すれば関心を持っていただけるかを整理し、広告代理店の方とも協力しながら、伝えるべき世界観やメッセージを具体的なクリエイティブへと落とし込みました。
―― ネスレでも初めてとなる製法を採用した商品を、世界に先駆けて発売するとなると、ブランドマネージャーとしてのプレッシャーは大きかったのではないでしょうか。どのように乗り切ったのですか。
おっしゃるように、たった一人のブランドマネージャーが全てを掌握しようとすると、「質」も「量」も追えなくなってしまいます。そこで私はまず、この製品のコミュニケーションに関わる社内外のステークホルダーを集めて「目線合わせの会」を複数回、持つようにしました。
キックオフでは、その日初めて製品を目にする人でも分かるように、ブランドの開発背景から市場環境、ブランドとして目指す姿や現状とのギャップなど、全てを可視化して共有しました。全員の目線を揃えた上で、メディアやSNS、広報といった各チームに「予算」を振り分け、「期待するアクション」を依頼します。そのように「ネスカフェ アイスブレンドチーム」を結成することで、まずコミュニケーションの「量」を確保したら、次はある程度の選択と集中を行って、一つひとつの「質」を上げていきます。
具体的には、各チームが実際にアクションする前に私に確認を入れてくれるので、その内容を確認し、必要に応じてフィードバックして軌道修正します。進行中はどうしても、自分のアクションが全体の中でどのような立ち位置になっているか分からなくなることがあるので、定期的に全体を見渡せる機会を設け、個々の取り組みがひとつのストーリーに収斂するように調整するのも、私の仕事でした。
―― 興味深いチームマネジメントですね。「ステークホルダーを集めて目線合わせを行う」という手法は、他のブランドでも採用しているのですか?
飲料事業本部に配属されてから、他ブランドでも似たプロセスはとっていましたが、今回のプロジェクトは特に予算規模や社内での注目度も大きく、私にとってこれまでに経験したことのないスケールでした。一人では「量」と「質」を追いきれない。当初からその危機感が強くあったので、社内外のプロフェッショナルのサポートを得ながら、同じ目標に向かって一緒に走ることで、新しいブランドを育成するという方法を選択しました。
―― 「量」と「質」を確保するために緻密なプロセス設計をされたことが想像されますが、苦労したことはありますか?
苦労と言うより、ステークホルダーに依頼したことが一つひとつ、きちんと成果になって還ってくるように意識しました。そこでポイントと考えたのが「主体性」と「成功体験」です。人は、「言われたことをやるだけ」よりも、主体的に動いて成果が出るほうが、楽しく仕事を続けやすいですよね。私の仕事は「依頼して終わり」ではなく、やりがいを感じてもらえるようにしっかり伴走することだと思っていました。
そのため、確認の依頼が来たら可能な限り早く返事をしますし、修正が必要な場合は、納得してもらえるように丁寧に説明するのはもちろんのこと、「もっと頑張ろう」とモチベーションを上げてもらえるようなフィードバックを心がけました。
―― 「ネスカフェ アイスブレンド」の反響はどうだったのでしょうか。また、スケールの大きなブランドのローンチを主導したことは、ご自身にとってどんな経験になりましたか?
初年度から想定以上に好調な売れ行きとなり、メディアからもヒット商品として評価いただくなど大きな反響がありました。海外支社からの問い合わせも来ており、今後の展開が検討されているところです。
日本ではすでに、今夏に向けてコミュニケーションを強化しており、たとえばゴールデンウィークには東京・新宿のサザンテラス広場で「NESCAFÉ APARTMENT #隣人と溶けるアイスコーヒー」という試飲イベントを行いました。トレーラーに再現したアパートの中にさまざまなライフスタイルや価値観を持つ住人がいる設定で、来場者がそれぞれの暮らしの中で「ネスカフェ アイスブレンド」を体験できるイベントです。期間中、非常に多くのお客さまに来場いただいて「溶けやすさ」を実感していただき、SNSでの投稿も多く見られました。
ローンチまでの日々を振り返ると、お客さまからポジティブな反応をいただき、ヒットしたことはもちろんうれしいですが、個人的にはそれに加えて、関わってくれた多くのステークホルダーの皆さんと成功体験を分かち合えたことが、非常に印象に残っています。それぞれの専門性を発揮し、ひとつのブランドを生み出して一緒に喜べた経験は、かけがえのない財産になったと思っています。




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