新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #31

『ズートピア2』『アナ雪』吹き替え秘話 ディズニー「音」のエキスパート目黒敦氏が語る「ウォルトのDNA」

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 日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界で注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏でヒットを生み出す旗手たちの思考を、創作プラットフォーム「note」のプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。

 昨今、マーケティング領域でも重要性を増す「ストーリーテリング」。その覇者と言えるウォルト・ディズニー・カンパニーの日本法人、ウォルト・ディズニー・ジャパンでバイスプレジデント&ゼネラルマネージャーを務める目黒敦氏は、大ヒットした『アナと雪の女王』や『ズートピア2』、7月に日本公開を控える実写映画『モアナと伝説の海』などディズニー作品の吹き替え版のほか、日本発のコンサート事業で高いリピート率を誇る「ディズニー・オン・クラシック」などライブ・エンターテイメント事業を統括する「音」のエキスパートだ。

 ディズニーならではのストーリーテリングを、「音」によってどのように拡張し、ヒットやファンダムにつなげているのか。徳力氏が探ったインタビューを、前後編にわたってお届けする。
 

ディズニーの根底に音楽がある


徳力 目黒さんはソニー・ミュージックに20年在籍し、2011年にディズニーに移られました。音楽系から映像系へのキャリアチェンジは意外な気もしますが、どういう経緯だったのでしょう。

目黒 ディズニーは映像を生み出しながら、じつは音楽が中心にある会社です。映画はもちろん、パークやライブまであらゆる事業の根底に音楽があり、音楽を軸にキャリアを進めてきた私としては、その軸をキープしながら広がりを持つことができる面白いチャレンジだと思いました。現在は、日本語吹き替えからライブ・エンターテイメント、パーク音楽まで、日本のお客さまにディズニーからお届けする「音」に関する部分は、ほぼ全てに携わっています。
 
目黒 敦 氏
ウォルト・ディズニー・ジャパン バイスプレジデント&ゼネラルマネージャー
ミュージック / ライブ・エンターテイメント(APAC) / DCVI (日本)

2011年5月にミュージックおよびコンサート担当のゼネラルマネージャーとしてディズニーに入社。その後、2013年にディズニー・キャラクター・ボイス・インターナショナル(DCVI)、2014年にキャスティング、2015年にはシアトリカルおよびスタジオ・オペレーションへと担当領域を拡大し、事業成長を牽引してきた。複数のエグゼクティブポジションを歴任し、2017年12月にはエグゼクティブ・ディレクター/チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)に就任。さらに2019年にはディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズのリーダーとしての役割を担い、『アナと雪の女王2』をはじめとする作品で、日本のウォルト・ディズニー・スタジオ史上最高の興行成績を達成した。現在ではアジア太平洋地域においてはミュージックおよびライブ・エンターテイメントを統括し、日本においてはディズニー・キャラクター・ボイス・インターナショナル(DCVI)ならびにキャスティングを含むローカライゼーション領域を統括している。

徳力 まず映画に関してお聞きしたいのですが、昨今のヒット映画は楽曲の人気と軌を一にしています。『君の名は』のRADWIMPSしかり、『ONE PIECE FILM RED』のAdoしかり。でも、それってディズニーが昔からやっていたことではなかったでしょうか。ディズニー映画と音楽との深い関係は、伝統のようなものなのですか。

目黒 ミッキーマウスのスクリーンデビュー作である短編映画『蒸気船ウィリー』(1928年公開)から、すでにサウンドトラックがついています。今でこそ映画に音があるのは当たり前ですが、当時の人々からすれば、世界初の動きと音がシンクロしたトーキーアニメーションである同作は技術的にも画期的です。見落とされがちですが、ディズニーの歴史はイノベーションの歴史でもあり、現代の映画と音楽の成り立ちに深く関わっています。
 
『蒸気船ウィリー』ⓒ 2026 Disney

米国本社に復元・保存されているウォルトの執務室にはピアノがあり、『メリー・ポピンズ』「イッツ・ア・スモールワールド」などディズニーの名曲の数々を手がけた音楽家シャーマン兄弟も、よく弾いたと伝えられています。物語を紡ぐ現場に常に音楽があり、そのDNAは技術革新を経ながら現代まで受け継がれているのです。

徳力 ウォルト・ディズニーはアニメーター・実業家と分類してしまいがちですが、もっと幅の広い表現者だったのですね。ディズニーの真髄となる物語を、常に音楽が包み込んできた。
 
noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏

NTTやアジャイルメディア・ネットワーク等を経て、現在はnoteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートを行っている。個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。

目黒 音を大事にする、その理由はやはり「ストーリーテリング」にあります。ミッキーマウスの声は世界中どの言語でもミッキーマウスでなければなりません。世界47ヵ国語で公開されるディズニー映画は、各地域に僕のようなローカライゼーションの担当者がおり、オリジナルの意図に添って展開されるように責任を持ちます。

映画制作に関して、僕がいつも楽しみにしているのが「フィルムメーカー コール」と呼ばれる時間です。監督やプロデューサーがキャラクターボイスのためだけに割いてくれる貴重な機会なのですが、年齢や性別といった属性だけでなく、そのキャラクターが何を考えてそのストーリー展開になっているのかなど、「声」のバックグラウンドを説明してくれます。背景には、どんな言語にローカライズされても、オリジナルの物語の意図がきちんと伝わるようにしたいという強い願いがあります。

徳力 「ストーリーテリング」はディズニーの関係者と話すと、必ずと言っていいほど出てくるキーワードですね。日本語に訳そうとすると、どうしてもテキスト化された物語を想像しますが、キャラクターのバックグラウンドや声、表情、技術など、全てを動員して心揺さぶって物語を伝えていく。

ディズニー映画と音楽という文脈では、『アナと雪の女王』(2013年公開)のエルサの歌唱シーンが思い浮かびます。劇中歌「レット・イット・ゴー」は、オリジナルの歌があまりにも素晴らしいので、私は最初「これを日本語で吹き替えるのは困難ではないか」と心配しました。エルサ役の松たか子さんが見事に歌い上げ、大ヒットしたわけですが、吹き替え版作成にあたっては何を意識されたのですか。

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