伊東塾 #01

「ビジネス目標とマーケティング目標の違いを知っていますか」元・P&G伊東正明氏

 P&Gのグローバルのバイスプレジデントを務めた伊東正明氏による、実践を重視したマーケティング講座「伊東塾」。

 伊東氏は、P&G時代に「アリエール」のマーケティング戦略を手がけ、粉末が中心だった日本の洗剤市場に、液体洗剤を浸透させることに成功しました。また、ファブリーズのグローバル戦略を組み立て、全世界の売上増加に寄与したことで知られています。

 「マーケティングは本来、シンプルなフレームワーク。その原理原則をカラダに叩き込み、実践の場で仮説・検証・反省のサイクルを繰り返すことで、どんな状況でも顧客を動かせることができます」と語る伊東氏に企業のマーケティング担当者に必要な考え方と心構えについて聞きました。

逆算の視点を持ってプランニングする

 マーケティングは、すべからく「儲かる」ためにすべきです。ところが様々なKPIを理解していても、本来の達成すべきビジネス目標と、マーケティング目標の違いを理解していないマーケターが多いと感じています。

 「いやいや、自分はそんなことはないよ」という方。では、自分の商品やサービスが1年間に何人の消費者に購入してもらっているか、即答できますか。

 例えば、私がP&G時代に担当していた、とあるブランドは1800万世帯に購入してもらってしました。今、お手伝いしているとある外食チェーンは、年間に2千数百万人のユニークユーザーが店舗を訪れています。

 皆さん、達成すべき売上金額、つまり「ビジネス目標」は理解していますが、その達成のために何人の消費者に購入して貰えばいいのかを尋ねても、ふわっとした回答しか返ってこないことが多いのです。

吉野家 常務取締役
OFFICE MASA 伊東 正明氏
P&Gにてジョイ、アリエールなどのブランド再生や、グローバルファブリーズチームのマーケティング責任者をアメリカ・スイスにて担当。直近までヴァイスプレジデントとしてアジアパシフィックのホームケア、オーラルケア事業責任者、e-business責任者を歴任。2018年1月より独立、ビジネスコンサルタント。また、吉野家 常務取締役も務めている。


 私はマーケターの仕事は、消費者の「脳を動かすこと」だと考えています。そのため、円やドル、ウォンといった単位のビジネス目標を、まずは「何人」という数字に置き換えることがスタートだと思っています。そして、その「人」を量的に定義していくかことが、「マーケティング目標」なのです。
 

目標は“人単位”にまで落とし込む

 例として、P&G時代に手がけた、オーストラリアのプレミアムペットフードでの取り組みを紹介しましょう。

 プレミアムペットフードは、従来の商品と比べると、原材料が高品質で価格帯も高いものを指します。当時、5年間に渡って対前期比が100%から101%程度と停滞気味だったため、大きく成長させることになりました。

 ビジネス目標は、売上の対前期比105%です。当初、現場からは大きく成長させるためには大きな投資が必要だということで、それまで一度も打ったことがなかったテレビCMに取り組みたいというプランが上がってきました。大抵の方が、同じことを考えますよね。
 
版権: chalabala / 123RF 写真素材

 しかしこの時、私が「これって何人の話だろうか。達成に向けて必要なトライアルは何人なのか」と尋ねても、スタッフは「105%です」と繰り返すだけで、明確な答えを持っていませんでした。

 人口2400万人以上のオーストラリア。しかもペット愛好家が多く、全世帯の約60%がペットを飼っています。ところが、ことプレミアムフードである我々の売上目標の達成に必要な人数は、調べたところ離脱率を考慮しても8万人ということが分かりました。たった8万人の獲得のために、テレビCMに数億円つぎ込むのは非効率的ですよね。

 そもそもペットフードは一度、ペットが気に入ると、子犬から成犬、シニアなど成長ステージが上がるまで、ブランドスイッチが起こりづらいという特徴があります。そこで、一人の顧客獲得が、とても大きなビジネスインパクトになるのです。

 話は急に変わり、営業マンが直接訪問しているペット専門店1店舗あたりに1週間に1頭の新規トライアルを獲得すると、目標が達成することが分かりました。
ビジネス目標:売上対前年比105%
マーケティング目標:ペット専門店1店舗で、1週間に1頭のトライアル獲得
 
 そこで、テレビCMではなく、店舗向けのキャンペーンを仕掛けて見事、目標を達成することができました。

 この話を聞くと、「あれ?同じような話を聞いたことある、自分の周りで起きていることだ」と感じる人もいるのではないでしょうか。会社の規模の大小に関係なく、できている企業もあれば、できていない企業も存在します。
 

元P&G 伊東正明氏による「伊東塾」開催決定
勝つためのマーケティングの原理原則。 P&Gでの20年間で生まれたフレームワークを伝授
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 この考え方は、営業パーソンであれば誰でもしていることですよね。目標達成に向けて、何件の案件の獲得が必要なのか。しかしこれが、いざマーケティングの話になると考えている人の数がぐっと減っている気がします。
 
 

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