新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #32

『アナ雪』でエルサはなぜ歌ったのか? ディズニーの「音」を統括する目黒敦氏が語るディズニー流ストーリーテリング

前回の記事:
『ズートピア2』『アナ雪』吹き替え秘話 ディズニー「音」のエキスパート目黒敦氏が語る「ウォルトのDNA」
 日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界で注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏でヒットを生み出す旗手たちの思考を、創作プラットフォーム「note」のプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。

 昨今、マーケティング領域でも重要性を増す「ストーリーテリング」。その覇者と言えるウォルト・ディズニー・カンパニーの日本法人、ウォルト・ディズニー・ジャパンでバイスプレジデント&ゼネラルマネージャーを務める目黒敦氏は、ディズニー作品の吹き替えなど「音」にまつわる事業を統括するエキスパートだ。

 大ヒットした『アナと雪の女王』や『ズートピア2』、7月に実写版の日本公開を控える『モアナと伝説の海』など人気作品の秘話が満載だった前編に続き、本稿では日本発のコンサート事業で高いリピート率を誇る「ディズニー・オン・クラシック」などライブ・エンターテイメント事業について聞く。ディズニーならではのストーリーテリングを、「音」によってどのように拡張し、ヒットやファンダムにつなげているのか。徳力氏が探ったインタビューの後編。
 

ライブで体感するストーリーテリング


徳力 ここからは、ライブ事業についても少し伺いたいです。「ディズニー・オン・アイス」や「ディズニー・オン・クラシック」は、ディズニーファンに非常に人気でリピート率も高いと聞いていますが、ディズニーにとってどういう位置付けなのでしょうか?

目黒 ライブ・エンターテイメント事業も広い意味でのストーリーテリングです。ディズニーのストーリーをリアルで体験するとなると、まずはディズニーリゾートが想起されると思いますが、日本ならまだしも、本場米国ではフロリダとカリフォルニアの2ヵ所しかありませんから、「一生に一度行けるかどうか」という方もたくさんおられます。

その点、「ディズニー・オン・アイス」は複数のチームが全米を巡業しているので、いわばディズニーリゾートのミニ版です。日本でも全国各地で公演を行っており、2026年には日本公演40周年を迎えました。また、音楽に焦点を当て、2002年に日本で始まった「ディズニー・オン・クラシック」も同様です。ディズニーの事業の全てにおいて、中心には物語があり、その物語にいろいろな形で触れていただくためのタッチポイントが展開されている。そのひとつがコンサートやイベント事業だと考えていただければ、イメージしやすいと思います。
 
目黒 敦 氏
ウォルト・ディズニー・ジャパン バイスプレジデント&ゼネラルマネージャー
ミュージック / ライブ・エンターテイメント(APAC) / DCVI (日本)

2011年5月にミュージックおよびコンサート担当のゼネラルマネージャーとしてディズニーに入社。その後、2013年にディズニー・キャラクター・ボイス・インターナショナル(DCVI)、2014年にキャスティング、2015年にはシアトリカルおよびスタジオ・オペレーションへと担当領域を拡大し、事業成長を牽引してきた。複数のエグゼクティブポジションを歴任し、2017年12月にはエグゼクティブ・ディレクター/チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)に就任。さらに2019年にはディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズのリーダーとしての役割を担い、『アナと雪の女王2』をはじめとする作品で、日本のウォルト・ディズニー・スタジオ史上最高の興行成績を達成した。現在ではアジア太平洋地域においてはミュージックおよびライブ・エンターテイメントを統括し、日本においてはディズニー・キャラクター・ボイス・インターナショナル(DCVI)ならびにキャスティングを含むローカライゼーション領域を統括している。

徳力 なるほど。私は縦割り人間なので(笑)、映像会社であるディズニーがライブ事業をやる意味って何だろう、と考えてしまいましたが、全てはストーリーテリングなんですね。ライブ事業においても、やはり音楽がその中心的な役割を果たしている。
 
「ディズニー・オン・クラシック」 Presentation licensed by Disney Concerts. (c) Disney

目黒 逆に、音楽の目線から言わせていただくと、たとえばディズニーリゾートは「毎日開催しているライブ」のように捉えられます。足を踏み入れればディズニーの世界が音楽とともに広がり、その体験の記憶はパークに行っていない時でさえ、音楽とともに喚起される。アトラクションの音楽や効果音を収録した「ライドスルー・ミックス」という音楽コンテンツをファンの方々にご愛顧いただいているのも、ディズニーの世界を音楽によって追体験できるからです。

形がなくて、さわれない。けれど体験と深く結びつき、人間の心に最も強い影響を与えるエンターテイメントのひとつが音楽だと、私は考えています。

徳力 ジョン・ウィリアムズの曲を聴くと、どうしたって『スター・ウォーズ』の世界が思い浮かぶ。パークの音楽を聴くと、ディズニーリゾートでアトラクションに並んだ感覚がよみがえる。音楽と人間の間にはそういった、プリミティブなものを含めた不思議な関係性がありますよね。

目黒 ディズニーにはいろいろな事業・部門がありますが、お客さまの体験に関わるところで音楽が不要という部門はほぼありません。そういう意味では私は、ディズニーでも一番楽しい職種をやらせていただいていると、密かに思っているんですよ(笑)。

徳力 昨今のエンタメとファンダムのあり方についても、ご意見を伺いたいです。自宅でいくらでも動画配信サービスが観られるようになる一方、日本の映画館の興行収入はコロナ前のピークを上回りました(※)。米国ではまだコロナ前の水準には戻っていない中、日本ではファンが映画館に集い、何度でも同じ映画を体験する姿が見られています。

私は日本の映画館が、ファンダムを育てるというストリーミング時代の新たな役割を見つけたんじゃないかと思うのですが、目黒さんは現状をどうご覧になっていますか。

※編集部注※日本映画製作者連盟によると、2025年の映画館入場者数は1億8875万6000人、興行収入は2744億5200万円(邦画76%、洋画24%)。コロナ禍前の2019年は1億9491万人、2611億8000万円(邦画54%、洋画46%)。
 
noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏

NTTやアジャイルメディア・ネットワーク等を経て、現在はnoteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートを行っている。個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。

目黒 音楽を軸とする私としては、たとえばCD・レコードショップの「タワーレコード」さんを思い浮かべます。音楽もやはり配信サービスで聴くのが普通になる一方で、レコードショップではファンが集い、ポスターと一緒に写真を撮って、体験する場所になっている。個人的な印象ですが、車社会の米国と違い、日本では「リアルに集うこと」「ライブであること」に特別な意味が見出される傾向が強いのではないでしょうか。

ディズニーでも現在、ディズニー・チャンネルのオリジナル映画『ハイスクール・ミュージカル』の誕生20周年を記念して、特設サイトを設けたり、2009年に公開された劇場版のリバイバル上映を行ったりと、さまざまな企画を行なっています。
 
『ハイスクール・ミュージカル』20周年を記念したイベントは8月に開催される
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ファンから寄せられる声で最も多いのは「『ハイスクール・ミュージカル』で集える場所をつくってくれて、ありがとう」という言葉です。20年前に本作を観た方が、時を経て今度はお子さまと楽しんでくださる。担当のスタッフは普段、視聴者数など以外でユーザーの反応を捉えるのが難しいので、このようにリアルなお客さまの笑顔を見せていただけるのは、スタッフワークにとっても重要ですし、純粋に嬉しいです。

今年8月には、より世界観に没入できる大型イベント「ハイスクール・ミュージカル20周年 ザ・フェスティバル」を開催します。日本の皆さんにとって、安心してファン同士が集まれる場所、喜びを共有できる機会というのがいかに大切か、私たちも再認識しているところです。

徳力 お話を聞いていると、「ライブシーンを映画に入れればヒットする」といった単純な話ではないと感じられてきますね。より深いところでファンの心を捉える必要がある。エンタメと音楽が連携して成功する秘訣はなんだとお考えですか。

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