新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #32
『アナ雪』でエルサはなぜ歌ったのか? ディズニーの「音」を統括する目黒敦氏が語るディズニー流ストーリーテリング
2026/07/14
「その要素はストーリーをプッシュするか?」がカギ
目黒 やはり、ストーリーテリングではないでしょうか。ミュージカルで、なぜ出演者が突然歌うのかというと、それはキャラクターの感情が昂り、歌わずにはいられないからです。歌詞やメロディーがストーリーをプッシュするキーとして機能するかどうかが、お客さまの心を動かす肝になると思います。
徳力 私はミュージカルで「なんでそこで歌うの?」と考えてしまうタイプだったのですが、たとえば前編でも触れた『アナ雪』のエルサのシーンには、彼女があそこで歌う必然性がありますよね。歌詞とメロディー、そして凄まじく美しい氷の城。すべてが必然的な要素として揃うとき、彼女は解放されるんです。オリジナルのサビ部分「♪Let it go, let it go♪」を「ありの ままの」と訳したのはすごいと思いました。
目黒 翻訳もただ英語を日本語に訳せばいいのではなく、キャラクターの感情を深く理解して表出しなければなりません。「Let it go」はなかなかいい訳語が見つからなかったのですが、「ありの ままの」は語尾のOがオリジナルと重なり、エルサの気持ちを的確に表現できたのではと思っています。
徳力 これから公開される映画の音楽・歌唱シーンがさらに楽しみになりました。最後に、マーケティングにおいても近年、ストーリーテリングの重要性が叫ばれています。目黒さんはチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)を務めた経験もお持ちですが、企業のマーケティングコミュニケーションについてご意見をいただけますか。
目黒 たとえ15秒、30秒の短い動画であっても、商品のストーリーが伝わることが重要なのではないかと思います。私たちも「物語」が商品となりますから、その物語を届けるために、映像や言語に限らず、さまざまな手法によるストーリーテリングに心を砕いています。
もう一点、エンタメの立場から意見させていただくと、私は基本的に「エンターテイメントで大切なことはリサーチではない」と考えています。人々を後ろから観察し、プッシュするのではなく、先に立ってプルする存在でなくてはならない。そうありたいと思って、ディズニーのストーリーテリングに励んでいます。
徳力 私自身も「note」という創作プラットフォームを活用してストーリーを伝えていただくことを推進していますが、今日は「ストーリーテリング」の概念を大きく塗り替えていただいた気がします。ありがとうございました。
【対談後記】
これまで、何となく「ストーリーテリング」という言葉が腹落ちしないまま使っていた自分がいたのですが、今回の目黒さんのお話を聞いて、ディズニーが重要視する「ストーリーテリング」の本質と、そこにおける音楽の重要性をようやく理解することができたように思います。
実際にディズニーやスター・ウォーズの音楽のイントロを聴いただけで、私たちはそれぞれの映画の世界観を脳内に展開することができます。私自身は長文テキスト側の人間なので、ついつい長い文章で説明しようとしがちですが、本来、人間と人間のコミュニケーションにおける五感の立体的な活用こそが、「ストーリーテリング」における肝なんだなと痛感しました。
最近のネット広告は、いわゆる目に見える数値だけを「効果測定」と称し、結果としてユーザーに嫌われる広告が増える現象が起きていますが、本当に顧客に好きになってもらうための広告やマーケティングを展開したいのであれば、ディズニーの「ストーリーテリング」の姿勢にこそ、重要な示唆がたくさん含まれているように思います。(徳力基彦)
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