NEW CEO INTERVIEW #03
電通 新社長・松本千里氏に聞く、電通の進化を象徴する「事業領域の広がり」と「新しい伴走の形」
2026/07/21
AI時代の今こそ、人財の多様性が競争力になる
ー ケイパビリティの向上に関連して、人材の獲得や育成、組織づくりのお取り組みについてお聞かせください。
組織面では、今後の重点領域であるAIの活用・開発を一層強化するため、昨年7月にグループ横断組織「dentsu Japan AIセンター」を設立しました。国内電通グループ各社に分散していたAI関連の専門人材や知見を結集し、電通グループ自身の変革はもとより、クライアント企業の変革を加速する推進体制を構築しました。
また、この体制のもとで独自ソリューションの開発も積極的に進めています。たとえば、1億人規模の高解像度ペルソナを仮想的に再現したAIモデルを搭載するリサーチツール「People Research」を開発し、昨年初め頃より随時SaaS形式での本格運用を開始しています。こうした、電通グループが長年培ってきたマーケティング領域の知見を組み込んだ複数の専門AI群を企業の実際の業務プロセスに実装することで、企業のマーケティングプロセス全体を横断的に支援する、統合AIプロダクトシリーズ「AI For Growth Suite」を5月から提供開始しています。
AIは汎用データのみを学習している段階では汎用的なモデルにとどまります。電通には、マーケティングをはじめ、さまざまな領域の専門家が所属しています。そうした人財が持つ知見とAIを掛け合わせて新たな価値を創造していくことが、我々の強みになっていると考えています。
また、リテールマーケティング領域では、今年1月に「リテールマーケティング局」を新設しました。国内電通グループ各社のソリューション開発部門・プロモーション部門・メディア部門から60人以上が集結する、リテールメディアに特化したマーケティングソリューションを提供する専門組織です。
クライアントの事業成長に伴走するうえで、購買行動に直結するリテールメディアは、データ基盤としても広告媒体としても極めて重要で、今後さらに成長していく可能性がある領域だと捉えています。この重点領域におけるマーケティング支援を強化するため、いち早く専門組織を立ち上げ、体制整備を進めてきました。流通事業者との合弁会社設立も進めています。
今後は、各流通事業者が展開するリテールメディアの指標標準化や活用促進、さらにはセールス機能の強化にも取り組みながら、クライアント企業の成長をより力強く支援していきます。
こうした組織基盤の整備を進める中で、私たちは改めて、社員一人ひとりの多様性こそが競争力の源泉であると認識しています。その考えのもと、電通を含めたdentsu Japanでは、DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進を経営の重要課題と位置づけ、チーフ・ダイバーシティ・オフィサー(CDO)や専門組織である「DEIオフィス」を設置し、経営層もコミットする形で、社を挙げて全員でDEIを推進しています。

― 電通において、多様性はこれまでも重要な価値であり続けてきたと思います。実際、多様な人材がそれぞれの能力を発揮してきたことが、現在の電通の高いケイパビリティにつながっているのではないでしょうか。その上で、今後さらに多様性を高めていくためには、どのような取り組みが必要だとお考えですか。
多様性の推進に向けては、2030年に向けた女性管理職比率など、具体的なKPIを設定しています。ただし、私たちは数字の達成そのものを目的にしているわけではありません。数値目標だけを追うと、それ自体が目的化してしまう恐れがあります。
重要なのは、社員一人ひとりが、多様性が組織を活性化し、個々の能力を最大限に引き出す原動力であることを理解し、自らの行動につなげていくことです。決して一朝一夕に成し遂げられるものではなく、時間が必要です。さまざまな機会を通じた継続的な啓発活動の成果もあり、以前と比べると、社員の意識は大きく変化してきたと感じています。
また、それぞれが持つ個性や能力を十分に発揮できる環境を整えることも大切です。振り返れば、私が入社した頃の電通にも多様な人財が集まっていました。しかし、すべての人が自らの才能を存分に発揮できる環境だったかというと、必ずしもそうではなかったかもしれません。当時は価値観や働き方が一定の方向に偏っていた面もあったと思います。
現在は、多様な価値観やバックグラウンドが尊重される時代になっています。そして、これからはそうした環境づくりがますます重要になります。一人ひとりの違いを組織の力へと転換し、多様性を競争力につなげていく仕組みの構築が、私たち経営層に求められていると考えています。
― もう一つ、電通において以前から変わらない価値として、「クライアントに伴走する」という姿勢があると思います。一方、クライアントから寄せられる相談は、より事業や経営の根幹に関わるテーマへと広がっています。そうした変化を受けて、「伴走」のあり方も変わってきているのでしょうか。
かつてよりクライアントに寄り添い、伴走する姿勢は当然ながら大切にしていましたが、以前の伴走の中心は広告・コミュニケーション領域でした。その領域においてのみ、クライアントを深く理解し、その課題に徹底的に向き合うことが主な役割だったと言えます。
一方で現在は、事業変革や企業変革といった、より専門性の高い領域にまで支援の範囲が広がっています。それに伴い、対話する相手も大きく変化しました。広告・マーケティング部門の方々に加えて、新規事業開発、テクノロジー、HRなどさまざまな部門の方々とも向き合うことが多く、また経営層と直接議論する機会も増えています。
こうした中で、社内教育プログラムの拡充に加え、専門組織の設置や外部からの専門人財の登用などを進め、多様化・高度化するクライアントニーズに応えられる体制を整えてきました。
また、近年では単なるアドバイザーとしての支援にとどまらず、クライアントの現場や組織の中に入り込み、実行まで伴走するケースも増えています。場合によっては常駐や出向といった形で事業に深く関与するなど、クライアントの課題や状況に応じて最適な支援のあり方を模索しています。伴走の形は変化していますが、クライアントの成長に真摯に向き合うという姿勢そのものは、これからも変わることはありません。
参考:
2026年5月25日_国内電通グループ、新戦略「AI For Growth 3.0」のもと統合AIプロダクトを提供開始
2026年6月11日_セブン-イレブン、電通、サイバーエージェントの3社の強みを発揮する合弁会社『セブン-イレブン・アドコネクト』設立を合意
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