NEW CEO INTERVIEW #04

電通 新社長・松本千里氏が重視する、AI時代の競争力を高める「“最”現場」という考え方

前回の記事:
電通 新社長・松本千里氏に聞く、電通の進化を象徴する「事業領域の広がり」と「新しい伴走の形」
 企業のトップに、新たに就任したリーダーが考えるビジョンや戦略を深掘りし、彼ら・彼女らの挑戦と展望、企業の未来を紐解く新連載「NEW CEO INTERVIEW」。

 今回は、2026年4月1日に株式会社電通(以下、電通)代表取締役 社長執行役員に就任した松本千里氏にインタビューを行った。広告会社の枠を超え、クライアントの事業成長を支える「インテグレーテッド・グロース・パートナー(IGP)」への進化を加速する電通。同社を率いる松本氏が見据える広告・マーケティング業界の未来と、そこにおける同社の“勝ち筋”について、前後編の2回にわたってお届けする。

 後編では、激変する環境下でも競争力を向上し続けるための、業界トップ企業としての弛まぬ取り組みについて詳しく聞いた。電通グループはもとよりクライアントの事業成長に貢献するAI活用の勘所とは。AI時代だからこそますます重要になる人間の力と、現場を重視する「“最”現場」の姿勢とは。そして、それを支えるために、課題解決ソリューションを提供する企業へと変貌を遂げた電通の経営に求められる意思決定とは。
 

AI時代において、人間ならではの価値がますます重要になる


ここまでのお話を踏まえて、dentsu Japanおよび電通が、広告会社・エージェンシーとして「ここだけはどこにも負けない」と言える強みは何でしょうか。

やはり、クライアントを深く理解しようとする「パートナーとしての想い」の強さこそが、私たちの最大の強みだと考えています。

その想いを実現するために、私たちは長年にわたって人財やインフラ・システムへの投資と、データ・知見・経験の蓄積を続けてきました。その結果が、事業成果という形で表れていると思います。こうした資産は、外部から購入して簡単に手に入るものではありません。先輩たちから現場の一人ひとりへと受け継がれてきた、クライアントに徹底的に向き合う姿勢そのものが、電通の競争力の源泉に他なりません。

AIの進化によって、多くの業務が自動化される時代になりつつあります。具体的な作業レベルでは、AIが担える領域が急速に広がり、企業間の差もつきにくくなっていくでしょう。だからこそ、これからは「どのような想いを持って仕事に向き合うのか」「クライアントの課題をどう捉え、何を目指すのか」といった、人間ならではの価値がますます重要になると考えています。強い思いを持つこと、目標を定めること、進むべき方向を描くこと、そして数ある選択肢の中から答えを選び取ること。そうした役割こそ、経験や知見を重ねてきた人財が担う役割が大きくなってきていることを改めて感じています。
 
松本千里氏
電通 代表取締役 社長執行役員

 電通入社後、長年営業部門においてクライアント業務に従事。2023年1月電通 執行役員に就任。2024年1月よりdentsu Japan チーフ・クライアント・オフィサーに就任(現任)。2024年3月より2年間にわたって電通総研の取締役を務め、グループ横断での価値提供力の強化にも取り組む。2026年1月より電通 取締役 副社長執行役員に就任。同年4月より現職。

ー 変化の激しい現在、そして未来を見据えて、広告・マーケティング業界全体で乗り越えなければならない課題は何だと考えますか。

さまざまな課題がありますが、やはりAIは最重要テーマのひとつだと考えています。AIの進化によって、クライアントのバリューチェーンのあり方はもちろん、生活者の価値観や行動も大きく変化しています。これまでの成功モデルや業務プロセスが通用しなくなりつつある中で、AIをいかにスピーディに取り入れ、有効に活用しながら、クライアントと自社双方の事業成長につなげていくかが問われています。これは業界全体にとって喫緊の課題であると同時に「チャンス」でもあると捉えています。

クライアント側では、AIを前提とした事業プロセスの変革が進み、組織や人財に求められる役割も大きく変わり始めています。一方、生活者側も、認知から情報収集、購買に至るまでのプロセスが変化しており、従来のマーケティング手法だけでは十分な成果を上げることが難しくなっています。こうした環境変化にいかに素早く適応できるかが、今後の競争力を左右する重要なポイントになるでしょう。

実際にマーケティング領域では、戦略立案、施策設計、クリエイティブ制作、メディアプランニングなど、あらゆるプロセスにおいてAI活用による効率化と高度化が急速に進んでいます。また、クライアント企業のマーケティング機能の内製化も加速しており、私たちに求められる役割も変化しています。

こうした環境変化を踏まえ、当社では全社員の「AIネイティブ化」を目指しています。AIを機会と捉え、あらゆる業務領域で活用できる環境を整備しています。クライアント向けに提供しているAIソリューションとは別に、全社員がAIの武器を実装できるよう「AI For Growth Canvas」としてAIプロダクトを統合的に開発し、社員が日常業務の中で自由かつ継続的に活用できる環境を構築しました。

また、クライアント向けには、前述の通り(電通 新社長・松本千里氏に聞く、電通の進化を象徴する「事業領域の広がり」と「新しい伴走の形」)総合AIプロダクトシリーズ「AI For Growth Suite」の提供を開始しています。各企業の課題や業務プロセスに合わせてAIエージェント機能を実装し、マーケティング活動の高度化や生産性向上を支援する仕組みを整備しました。社内外で、AI活用基盤の構築を完了した状態といえます。

ただし、AIは導入すればそれで終わりではありません。AI時代においても、生活者インサイトを発見し、戦略を描き、優れたクリエイティブへと昇華していくためには、人間によるディレクションが不可欠です。その判断には、長年培ってきた知見や経験、そしてクライアントに伴走する力がこれまで以上に求められるでしょう。

AIを活用するための機能や基盤、クライアントに提供するソリューション、そしてそれらを活用して価値創出につなげる人財。この三つを一体で強化することで、AI時代においてもクライアントの成長を支え続けることができると考えています。

ー AIへの対応については、他の大手グローバルエージェンシーも積極的な投資を進めています。それらと比較しても、dentsu Japanおよび電通は十分に競争力を持っていると言えるでしょうか。

グローバルの主要エージェンシーの動向については継続的に注視していますが、日本のエージェンシーが決して後れを取っているとは考えていません。

AI活用において重要なのは、どの領域の開発に投資を集中するか、どのようなデータや知見を保有しているか、そのデータをどれだけAIにインプットできるかという点です。そうした観点で見ても、私たちは十分にグローバル企業と競争できる基盤と体制を構築できていると考えています。

今後は単純な技術競争だけではなく、AIプラットフォーマーとの連携がますます重要になります。世界を牽引するようなテクノロジーパートナーといかに密接に連携しながら、新たなソリューションやサービスを共創していくか。その取り組みの質とスピードが、今後の競争力を左右する重要な要素になるでしょう。

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