よなよなエールのマーケターが迫る!ファンベースの最前線 #01

ブランドに愛着を抱く理由はさまざま、ひと括りに「ファン」としていませんか 【対談】青山学院大学 久保田進彦

 ファンベース・マーケティングの実践に力を入れている企業の代表例として知られる、ヤッホーブルーイング。この企画では、同社のマーケテイング・ディレクターの稲垣聡氏が、自社と同様にファンベースを重視する企業のキーパーソンや、ファンベース研究の最前線にいる有識者を訪ね、急速に注目が高まるファンベースの本質や、真の効果につながる取り組み方について考えます。初回は、青山学院大学の久保田進彦教授を訪ねました。

 近年、実務家の間では「ファンベース・マーケティング」「熱狂マーケティング」が注目されていますが、アカデミックの分野では「ブランド・リレーションシップ」として、20年以上前から研究が行われてきました。

 青山学院大学経営学部マーケティング学科の久保田進彦教授は、日本における「ブランド・リレーションシップ」研究の第一人者であり、これまで多数の論文を発表されています。

 今回は久保田教授と、ブランド・リレーションシップ研究の成果を踏まえ、企業のファンベース・マーケティングにどう応用できるのかをディスカッションしました。

ファンの「強さ」だけでなく「タイプ」にも注目すべき

稲垣 最近、企業では、熱心なファンを育成してマーケティング活動に生かしていこうという動きが盛んになっています。しかし、うまくいっている企業ばかりではありません。当社でも、ファンとのコミュニケーションや、どういったマーケティング施策を行うべきかに悩んだり、あるいは施策の精度という点で試行錯誤をしています。
稲垣 聡 氏
ヤッホーブルーイング
マーケティングディレクター

リクルートメディアコミュニケーションズ、パラドックス・クリエイティブのコピーライター/制作ディレクターを経て、2011年入社。「よなよなエール」他、主要製品ブランドのマーケティング戦略、ブランド戦略を担当。中央大学大学院戦略経営研究科修了。2016年「日経NEXT CMO AWARD」ファイナリスト、2017・2018年「注目の次世代マーケター」(宣伝会議)選出。

久保田 ファンの育成という点で企業が見落としがちなのは、「ファンには色々なタイプがある」ということだと思います。ファンの「強度」を測る試みはされていますが、ファンの「質」には意外と無頓着なようです。

 消費者が、あるブランドのファンになったり、愛着を抱く理由はさまざまです。そういった部分を無視して、ひと括りに「ファン」とするのは、どうでしょう。消費者の気持ちを、もう少し考えてみようというわけです。

 ファンのタイプが異なれば、効果的なコミュニケーションも異なってくる可能性があります。ですから、ファンを対象としたマーケティングを考える第一歩は、まず、自社の顧客がどのような構成になっているかを理解することだと思います。「ファンのポートフォリオ」をつくろうというわけです。
久保田 進彦 氏
青山学院大学経営学部
マーケティング学科教授

明治学院大学経済学部卒業。サンリオ勤務を経て、早稲田大学大学院商学研究科博士課程単位取得。早稲田大学博士(商学)。専門はマーケティング。現在の研究テーマはブランド・リレーションシップ。著書に『そのクチコミは効くのか』『はじめてのマーケティング』『リレーションシップ・マーケティング』(いずれも有斐閣)など

稲垣 なるほど。当社でもそういった視点から、定性的な分析をしており、大きく分けて3種類くらいのファンがいると考えています。久保田先生はファンの種類を、どのような基準でとらえるべきと考えますか?

久保田 「消費者がそのブランドをどのような存在としてとらえているか」という点から考えるのが、よいと思います。消費者はブランドを、自分らしさを表現したり、あるいは確認したりするために活用することがあります。自分のアイデンティティを形成したり、他者に提示するための「プロパティ」(小道具)として利用するわけです。環境問題に関心の深い人が、自然派のブランドを好むことが多いのは、こういった理由によります。

 また、これとは別に、消費者はこれまでのブランド経験の蓄積として、ブランドに親しみを感じることがあります。小さい時から身近にあったり、あるいは長年使い込んできたブランドに対して、どこかでつながりを感じたりすることがあります。ブランドを「パートナー」のように感じ、安心感やサポートを提供してくれる存在とみなすわけです。

 人はこの「プロパティ」型の結びつきと、「パートナー」型の結びつきを、あわせ持つことができます。あるブランドのことを、自分を表現する小道具として感じつつ、同時に相棒のように感じることもあるわけです。スポーツカーのファンには、この両方を同時に感じる方が多いようですね。

 こうした関係は、横軸を「プロパティ」、縦軸を「パートナー」としたグラフで視覚化でき、それによって自社ブランドの特性が見えてきます。
 
© 2018 Yukihiko Kubota
稲垣 当社では、「一人でよなよなエールを楽しみたい派」「みんなでよなよなエールを楽しみたい派」「中間派」のような分け方をしています。正確な数は把握できませんが、これらの3つの層の人数構成は年々変化していますし、「一人で派」だった人が、「みんなで派」に変わっていることもあります。

久保田 ピッツバーグ大学のスワミナサン教授による“My Brand”と“Our Brand”の研究に似ていますね。ブランドに対して「私のブランド」と考える人もいるし、「私たちのブランド」と考える人もいます。「私のブランド」と思うか「私たちのブランド」と思うかは、消費者のパーソナリティだけでなく、企業のマーケティングからも影響を受けます。

 よなよなエールの場合、顧客自身の経験によって自然に変化したようですが、マーケティング・コミュニケーションを工夫することで、「私のブランド」か「私たちのブランド」なのかを印象づけられます。

 面白いのはナイキですね。多くのスポーツブランドが、チームや仲間の大切さという視点から「私たちのブランド」というアピールをしていますが、ナイキの場合は個人主義的なコミュニケーションを行い、「私のブランド」というポジションを狙っているようです。

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