よなよなエールのマーケターが迫る!ファンベースの最前線 #01

ブランドに愛着を抱く理由はさまざま、ひと括りに「ファン」としていませんか 【対談】青山学院大学 久保田進彦

ファンのポートフォリオを把握し、コミュニケーション戦略を設計

稲垣 ファンのポートフォリオをつくり、いくつかのセグメントに分類したうえで、それぞれに効果的なコミュニケーションを組み立てていく、というお話でした。われわれマーケターが注意すべき点は何でしょうか。

久保田 ファンをいくつかのタイプに分類するということと、各タイプにまったく違うコミュニケーションを実行するということは、異なります。ファンのタイプの違いを踏まえたうえで、できるだけ多くのタイプのファンが共感するコミュニケーションを設計することが重要だと思います。コミュニケーションの費用対効果の低下を防ぐためです。



稲垣 企業としては、ファンのタイプを踏まえたコミュニケーション施策を実施した結果、それぞれのタイプにおいてどのような効果があったかをしっかり見極めることも大事ですね。

久保田 そうですね。ファンのタイプによって、期待できる行動が違ってくると思います。ブランドを購入してくれるだけでなく、商品開発のアイデアを示してくれるファンもいるはずです。ファンは金銭的利益だけでなく、知識的な利益ももたらしてくれます。できるだけ広い目を持って、各タイプがブランドにどれくらいの利益をもたらしているのかを見ることが大事ですね。

稲垣 それができれば、ファンベース・マーケティング施策の効果はより精緻に検証できますね。



久保田 おっしゃる通りだと思います。
 

ファンベースは、業種業態や商品カテゴリを問わず活用できる戦略

稲垣 ところで、マーケティング実務家の間では、ファンベース・マーケティングの良い面ばかりが語られるようですが、悪い面もありそうです。古くから熱狂的なファンを持つブランドでは、古参のファンが新規ファン拡大の障害となったり、あるいはファン同士が対立したりということもあるようです。

2018年はジャニーズ事務所がファンに警告をしたり、あるグループのメンバー自身が、ファンへの苦言をブログに書いたりしたことも話題になりました。ジャニーズまでとはいかなくても、ファンベース・マーケティングを突き詰めていけば、企業のブランドでも近いことが起こるのではないかと心配になります。

久保田 熱狂的なファンが、企業にとって困った存在となることは、学術的研究でもたくさん報告されています。企業がどのように対応したら良いのかは、大変難しい問題です。

 熱狂的なファンは、企業が自分と商売のためにつきあっていることを、忘れてしまいがちです。これは企業側にも責任があるかもしれません。本当は金銭的利益を目的としているのに、まるで家族や親友のような態度で消費者に接触することが多いためです。

 ブランド・リレーションシップ研究で著名なスーザン・フォルニエが、かつて『ハーバード・ビジネスレビュー』誌に投稿した、大変面白い記事があります。「なぜ顧客は逃げていくのか:リレーションシップ・マーケティングの誤解」というものです。日本語訳もあるので、ぜひ読んでいただきたいのですが、そこでは「企業は正直であるべきだ」ということが書かれています。ファンと企業が友人のような関係にみえても、やはり企業としてはビジネスが目的なので、本当の友人のように無償で何かを与えることはできない。だったら、それを顧客に正直に伝え、理解してもらう必要があるのではないかという主張です。

 それからジャニーズの例のように、特定のファンが、ブランドに対して何らかの障害になった場合、とるべき施策は「遠ざける」か「対話を重ねる」の2つになりますね。

 短期的には「遠ざける」ほうが効果がありますが、長期的には問題が起きそうです。場合によっては、粘り強く「対話を重ねる」ことも、ブランドの価値に長期的に貢献していくのではないでしょうか。ただしそのためには、マーケティング担当者に任せるのではなく、経営者が率先してファンと「対話を重ねる」ことが必要だと思います。



稲垣 対話というのは、まさに、ブランドと顧客とのリレーションシップを深める一番の方法だと思いますが、しかし、当社のようなパッケージ製品をつくっているようなメーカーでは、対話の機会を設けるのは容易ではありません。いかに、顧客と対話できるタッチポイントをつくっていくことができるかが、大きな課題だと思います。対話という観点からみると、今後、ファンベース・マーケティングの分野はどう進化していくのでしょうか。

久保田 実は1990年代ごろまで、顧客との関係性づくりは、接客を伴うサービス業やBtoBマーケティングの分野に限定された話でした。消費財ブランドでは、顧客と関係性を構築するのは難しいとされてきたのです。しかし技術の進歩や情報環境の変化で、顧客とブランドのインタラクション(相互作用)が可能になってきました。SNSを利用して、ブランドになりきった「中の人」が、顧客とコミュニケーションをすることは、よくみられます。

 将来的なことを考えると、顧客との関係性づくりにおいては、「パーソナライズ(個別対応)を実現するAI技術の活用」と「店舗のようなリアルな場の活用」がポイントになると思います。これらを駆使してブランドに人格を感じてもらえれば、これまでパートナーのような関係性が生まれにくかった、ごく普通のパッケージ製品やデジタルサービスでも、顧客リレーションが形成されて、ファンが生まれるかもしれません。

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