マーケティングの未来を読み解く10の対話 #02

サステナビリティを売上にどうつなげるか? ダノン・UCC・ヘラルボニーが語る葛藤・工夫・希望【連載:マーケティングの未来を読み解く10の対話】

前回の記事:
サステナビリティを「足かせ」ではなく「競争優位」にするには? ダノン・UCC・ヘラルボニーが語る事業成長との両立のリアル【新連載:マーケティングの未来を読み解く10の対話】
 企業やマーケティングを取り巻く環境が激変し、数年先の未来予測さえ困難な現在。それでも新しい価値創造を目指すマーケターは、過去を踏まえて現在を捉え、待ったなしで迫る種々の課題に向き合っていかなければならない。その絶え間ない試行錯誤の先にこそ、実りある未来への展望が開かれるのではないか。

「マーケティングアジェンダ」など時代の先端を捉えたカンファレンスで知と人の交流を促してきたナノベーションは、2026年に設立10年を迎えた。アジェンダノートも次のステージへ進むべく、特別企画「マーケティングの未来を読み解く10の対話」を始動。最前線のキーパーソンたちとともに、マーケターが向き合うべき課題と未来を紐解いていく。

 第1回のテーマは「サステナビリティ」。気候変動や人権問題など、事業成長の「足かせ」になりかねないと後回しにされがちな課題への対応と、マーケティングが目指す事業成長と価値創造は果たして両立するのか? この難題に対して先進的な取り組みを進めるダノンジャパン、UCCジャパン、ヘラルボニーの3社が集結し、サステナビリティと紐づいたパーパスの策定と実践などを語った前編に続き、後編ではより具体的な社内浸透策や、事業成長との両立に向けた葛藤、そして両立の事例をレポートする。
 

どうする?社内浸透 意外なポイント


里見 ダノンではサステナビリティに関する社内浸透は、どのように行なっているのですか?

佐々木 じつは、現在のダノンジャパンにおいて「サステナビリティに力を入れているからダノンを選んだ」という人は、私を含めて15%程度しかいません。「健康的」というイメージを抱いて入社する人はいますが、一般的な外資系食品会社と認識して入社される方がほとんどです。入社時に私が1時間かけてインダクション(導入)を行い、社員はそこで、ダノンのサステナビリティについて共通の知識を持つことになります。

―― サステナビリティを経営の中核に据えるダノンのイメージからすると、入社時にそのことを知っている人が少ないのは、少し意外な気がしますね。

私も意外でした(笑)。ただ昨年、アンケートをとったところ、工場勤務者を含めて従業員の約4分の3は「入る前は知らなかったけど、ダノンがサステナビリティに力を入れている会社と知って興味を持った」と回答していて、そのことに非常に希望を感じました。入社時にしっかりと説明したのが奏功したのかもしれません。それでも100%浸透というわけではなく、「現在もあまり関心がない」と答える人も1割程度います。

それに、社内浸透に関してあまりガチっと計画されていないのも、イメージと違うかもしれませんね。

里見 え、そうなんですか?

佐々木 はい。日本企業ではよく、「何年後に社員の何%がこれを認知して、共感して…」と計画を立てると思います。私も前職では社内浸透に関して色々と企画や目標を策定していたので、ダノンに入社して、一種の「ゆるさ」に驚きました。

「ダノン インパクト ジャーニー」のような大きな数値目標や方針は本社から発信されますが、それをどう受け止めて、どう具体的に実践していくかは、各国の子会社や個人に委ねられているのです。社内のグループチャットでは「こんな取り組みをしました」と共有されていますが、それも厳密な取り決めがあるわけではありません。サステナビリティに関するKPIは欧州のサステナビリティ関連の規制により報告や監査がありますが、社内浸透については厳格さが求められるわけではありません。

里見 ナチュラルに浸透している感じですか。

佐々木 そうですね。ただ、自社で言うばかりでなく、国際的な認証であるB Corp認証(※1)を取得しているのは大きいと思います。B Corpは日本ではあまり知られていませんが、イギリスでは若年層の約5割で認知があるとされ、資本主義の枠組みの中で企業のあり方を変える象徴的なムーブメントでもあります。この運動に賛同し、高いレベルで社会や環境への取り組みが実行されている点に、客観的なお墨付きをもらっている。このことをロゴやトップメッセージなどを通じて発信するのは、社内のサステナビリティ推進の大きな原動力になっていると感じます。

※1:企業の社会的・環境的・ガバナンス的影響を評価する米国発の国際認証制度。厳格な審査基準で知られる。ダノンは2015年から10年かけてグローバル全体(60ヵ国・200以上の関連法人)で取得。ダノンジャパンも2020年に国内の大手消費財メーカー、食品業界で初めて取得した。
 
ダノンジャパン コーポレートアフェアーズ本部 シニア パブリックアフェアーズ&サスティナビリティ マネジャー
佐々木 恭子 氏

農学部で環境保全型農業を学んだ後、修士課程で環境学を専攻。修了後、環境関連のベンチャー企業にて大手企業向けにコンサルティング、省庁・自治体向けに環境関連調査などを担当。2007年よりブリヂストンで環境、CSR、サステナビリティに関する企画や社内外コミュニケーション業務に携わった後、2020年より豪モナシュ大学に留学。パーパスと企業のサステナビリティに関する研究で2023年に博士号(社会科学)を取得。2024年にダノンジャパンに入社し、渉外・サステナビリティを担当。2025年より法政大学大学院地域創造インスティテュート兼任講師(CSR論)。

―― UCCの社内浸透はいかがですか。前編では、2020年に策定されたパーパス&バリューが従業員に発表された際の反応は、上々だったと話されていましたね。

里見 我々はサステナビリティ単体というより、パーパス&バリュー全体をどう浸透させるかに意志を持って注力していますが、その点では、かなり良い方向に進んでいると思っています。定期的に調べている「認知」「理解」「共感」「体現」は総じて右肩上がりで、特に重視している「共感」についてもKPI達成度は上がっています。

パーパス&バリューを浸透させる「アンバサダー」を各部署に置いて、取り組みをデジタル社内報で共有してもらっています。最初は正直、気乗りしない人もいたと思いますが(笑)、投稿は目に見えて増えています。「アンバサダーの活動でこんなことをやりました」「学校にサステナビリティの出前授業をしました」「水素焙煎コーヒーが担当の得意先に導入されました」といった具合に、パーパス&バリューやサステナビリティに関連づけた投稿や反応が盛んにやり取りされています。社内広報チームが投稿者にアドバイスをしたり、絵文字やテンション高めの投稿を盛んにしたりしているのも、活性化に一役買っているようです。グローバルなプラットフォームでもあるので、海外の社員も含めてパーパス&バリューの実現に向けて結束を強めるのに役立っています。
 
UCCジャパン 執行役員 サステナビリティ経営推進本部長
里見 陵 氏

1981年生まれ。大学卒業後アーサー・D・リトル、A.T.カーニーにて主に製造業の経営コンサルティングに従事。クライアントの外資系消費財メーカーにおける経営企画、国内営業責任者、アジア統括ブランドマネージャーを経て、BtoCサービススタートアップにて営業、マーケティング、事業開発の責任者を経験。2017年6月UCCホールディングス(現:UCC Capital 2024年に商号変更)に入社。同社執行役員CSOやUCC上島珈琲取締役副社長等を経て、2024年1月より現職。水素焙煎コーヒープロジェクトリーダー。

―― コロナ禍の危機をきっかけに策定されたパーパス&バリューがコアとなって、経営陣を含め社員の結束が強まっているのですね。

里見 もちろん、業績が比較的好調であることが背景にありますし、すべての部署や年代に浸透しているわけではなく、まだまだ課題はあります。ただ、「強制しない」のは浸透のポイントの一つなのではと思います。当社ではパーパス・バリューに共感する従業員が中心になって楽しい雰囲気で取り組んでいて、数年かけて少しずつ社内の空気が変わってきているのを感じますね。

―― ダノンの佐々木さんも言及されていたように、一種の「ゆるさ」や「強制しないこと」は、自発的なサステナビリティの浸透・実践において有効なのかもしれませんね。

ヘラルボニーは近年、採用に力を入れていると思いますが、事業の性格上、「異彩を、放て。」のミッションをよく理解して入ってこられる社員が多いのではないでしょうか?

國分 まだ100人程度の企業なので、全社員にとって「第一ボタン」という感じでしょうか(笑)。ただ、最初からアートや福祉の分野で経験がある社員は、ごく少数です。採用の際、普通は「経歴」や「できること」にフォーカスされると思いますが、私たちは「違い」や「マイノリティー体験」を原動力として、社会を変えていく力にできるかどうかを見させていただいています。それが「異彩を、放て。」というミッションの意味であり、第一ボタンの意味です。
 
ヘラルボニー 執行役員 兼 アカウント事業本部統括
國分 さとみ 氏

2009年、広告代理店に新卒入社。2013年より漫画アプリ「GANMA!」の立ち上げで漫画編集者として活動。その後、キャラクター・アニメのIPライセンスビジネスへキャリアを広げ、日本発コンテンツをグローバルへ展開。2024年1月、ヘラルボニー入社。アカウント事業部シニアマネージャーとして、法人向けにアートライセンスを活用したビジネスプロデュースや新規事業開発などを幅広く手がける。2025年8月より執行役員就任。

その上で、全社員が共通して認識すべきことがいくつかあるのですが、そのうちの一つが「障害にまつわる権利はすべて先人が獲得してきたもの」ということです。たとえば川崎バス闘争(※2)のような歴史があって、障害のある人がバスに乗れる現在がある。私たちがやっていることは決して新しいことではなく、先人の努力の延長線上にあることを認識するようにしています。

※2:1977年4月12日、脳性まひ者が支援者なしで乗ることを拒否したバス会社に対し、当事者団体が呼びかけてバスを占拠するなどした差別告発運動。その後、当事者や支援者らによる行動と交渉が続き、公共交通機関のバリアフリー化につながった。

また、私のようなアカウント事業部のBtoB担当者も含めて、社員全員が部署・役職に関わらず「担当作家」を受け持つことになっています。作家さんの創作活動の様子、または作家さん自身を知り、リスペクトを持ち、アプルーバル(事業化にあたって作家本人の同意を得ること)する。そのことが私たちのミッションを体現し、商品・サービスに「血を通わせる」ことになると考えているからです。入社研修でるんびにい美術館(岩手県花巻市)にお邪魔し、作家さんにご挨拶するのも、「障害者」という単語に括られたイメージを取り払うためです。佐々木早苗さん、小林覚さんといった一人ひとりがいらっしゃることを、肌身で理解することを促しています。

―― そういったステークホルダーとの真摯な向き合いが特に評価され、ヘラルボニーも今年、B Corp認証を取得されていますね。社員のマインドや姿勢がプロダクトに反映され、結果的に事業にも影響を与えるということが、「商品やサービスに血を通わせる」という言葉に端的に表れていると思います。

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