日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #70

KANEBO 新テレビCM 口紅の可能性をエモーショナルに伝えるアートのチカラ

 

アートのチカラで、ブランドがまとう雰囲気や思想までも指し示す ラコステの名作CM


 海外事例で、アートのチカラが際立っていたものとして思い浮かんだのは、ラコステの「CROCODILE INSIDE(クロコダイル・インサイド)」です。このテレビCMは、カンヌライオンズ2021のフィルム部門グランプリ等を受賞しています。

 90秒ほどのこの動画は、カップルが激しく言い争っているシーンから始まります。音楽は1950年代の大ヒット、エディット・ピアフの『愛の賛歌』。24秒頃、2人の心の乖離を現実化するように、部屋にヒビが入りビルが割れていきます。32秒頃、2人はそれぞれ階下へ。その間も、建物は崩れ落ち続けます。42秒頃、少し下の階まで来てさらに離れて遠くから見つめ合う2人。男性の側の床が崩れて階下に落ちていきます。60秒頃、その姿を見て、男性のいる側にジャンプする女性。あやうく落ちかける女性の手を取る男性。70秒頃、2人がいる床に激しい傾斜がついて別々に滑り落ちていきます。75秒頃、地上に降り立ち、男性が少し先、後から女性が走っていき、そこに建物が崩れ落ちてきます。すると、2人はしっかりと抱き合い、そこに崩落する建物が襲い掛かります。

 建物が崩れ去っても2人は無事で、瓦礫の中に抱き合って立ちすくみます。そのシーンに『愛の賛歌』のクライマックスが・・・。その歌詞は、“愛する人よ、あなたが私を愛してくれるなら”といった意味合いのようです。

 そこで、抱き合ったまま見つめ合う2人のところに、「LIFE IS A BEAUTIFUL SPORT」の文字と、ラコステのロゴ、そしてワニのマークが掲示され、最後に #CROCODILE INSIDEと表示されます。
 
ラコステ「CROCODILE INSIDE」

 ラコステは、スポーツをベースとしたファッションブランド。その出自は意識しながらも、いわゆるスポーツシーン以外での着用の拡がりを意識した広告コミュニケーションだと言えるでしょう。そのために、映画のような動画を制作しアートのチカラを借りることで、「スポーツ専用」イメージから脱しようとしたのだと考えられます。

 そして同時に、自分たちの出自である「スポーツ」についても、アーティスティックな表現の中で十分に意識されていました。それは、LIFE IS A BEAUTIFUL SPORTという締めのコピーと、女性が男性のいる側へとジャンプするシーン、そして終盤に2人で全力疾走するシーンなどから見て取れました。

 KANEBOのテレビCMでも、花びらビジュアルに目を惹かれますが、口紅を塗るシーンはいくつも力強く美しく描かれていて、決して「口紅の広告」であることをハズしていない。このあたりは、KANEBOもラコステも、制作サイドに、熟練の広告クリエイティブの存在を感じました。

 広告コミュニケーションは、ビジネス上の目的があった上で構築されます。そういう意味で、純粋なアートとは一線を画すものです。しかしその上で、アートのチカラを上手に借りようとトライすることは、時に十分に検討に値することでしょう。
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