市場創造の現場から──音部大輔が紐解く「逆転劇」の舞台裏 #02
味の素が明かす市場創造を実現するマーケター・マーケティング組織のつくり方【岡本達也氏×音部大輔氏】
2026/09/08
市場創造こそ、マーケティングの本質。本連載は、マーケターの音部大輔氏が市場創造を実現した企業・ブランドを訪ね、その成功のカギとなったポイントを紐解く企画です。
市場創造とは、顧客の意思決定基準を変え、選ばれる理由を新たに生み出すこと。つまり「顧客にとっていい商品・サービスの定義」「顧客が重視する属性の順位」を変えることといえます。この市場創造によって起こるのが、市場・カテゴリ内におけるシェア順位の入れ替え。あらゆる市場が成熟し、多くのカテゴリで競争が激化する中、みごとに“逆転劇”を成し遂げた企業・ブランドに注目し、その背景にあった戦略策定、意思決定、組織づくり、そして現場で起きていたリアルな奮闘を掘り下げ、市場創造に挑戦するためのヒントを読者に届けます。
今回インタビューしたのは、味の素 執行役常務食品事業本部副本部長 マーケティングデザインセンター長(取材当時)の岡本達也氏。「ほんだし」「Cook Do」「クノール カップスープ」など、数々の市場創造の現場を牽引してきた岡本氏の生の体験談から、味の素が市場創造を継続的に実現することができる秘訣を探った。
市場創造とは、顧客の意思決定基準を変え、選ばれる理由を新たに生み出すこと。つまり「顧客にとっていい商品・サービスの定義」「顧客が重視する属性の順位」を変えることといえます。この市場創造によって起こるのが、市場・カテゴリ内におけるシェア順位の入れ替え。あらゆる市場が成熟し、多くのカテゴリで競争が激化する中、みごとに“逆転劇”を成し遂げた企業・ブランドに注目し、その背景にあった戦略策定、意思決定、組織づくり、そして現場で起きていたリアルな奮闘を掘り下げ、市場創造に挑戦するためのヒントを読者に届けます。
今回インタビューしたのは、味の素 執行役常務食品事業本部副本部長 マーケティングデザインセンター長(取材当時)の岡本達也氏。「ほんだし」「Cook Do」「クノール カップスープ」など、数々の市場創造の現場を牽引してきた岡本氏の生の体験談から、味の素が市場創造を継続的に実現することができる秘訣を探った。
ユニリーバの考え方をベースに独自進化
音部 ここまで、味の素が実現してきた数々の市場創造の事例について伺ってきました。ここからは、それを継続的に生み出す仕組みについてもお聞きできればと思います。
まず、味の素ではブランドマネジメント制を採用されていますが、この仕組みはいつ頃から始まったのでしょうか。
岡本 ブランドごとにP/Lを管理する現在の考え方は、おそらく1960年代、クノールとの事業を始めた頃に導入されたのではないかと思います。
それ以前は、「味の素」と、うま味だし「ハイミー」くらいしか主力商品がありませんでしたから、ブランド単位で管理する必要性はそれほど高くありませんでした。しかし、クノールが加わり、事業の多角化が進む中で、ブランドごとに事業を運営する体制へと移行していったのだと思います。
味の素のマーケティングは、ユニリーバの考え方をベースにしながら、それを独自に進化させてきたものです。おそらく1980年代後半には、現在に近い形になっていたのではないでしょうか。少なくとも、私がマーケティング部門へ来た1996年には、この仕組みはすでに完成していました。
音部 その話は初めて伺いました。市場創造を支える基盤として、このブランドマネージャー制は非常に大きな意味を持っていそうですね。
マーケターは、どのように育成されているのでしょうか。

音部大輔氏
クー・マーケティング・カンパニー
代表取締役
17年間の日米P&Gを経て、欧州系消費財メーカーや資生堂などで、マーケティング担当副社長やCMOとしてビジネスの回復・伸長やマーケティング組織強化を主導。2018年、Coup Marketing Company 設立。家電、化粧品、食品、輸送機器、広告会社など、国内外の多様なクライアントにマーケティング組織強化やブランド戦略などを支援。近年は、マーケティング、ブランド戦略に加えて、AIや採用を軸にした登壇、企業支援も多数手がけている。
博士(経営学 神戸大学)。日本マーケティング本大賞2022の大賞受賞『The Art of Marketingマーケティングの技法』や、『君は戦略を立てることができるか 視点と考え方を実感する4時間』(日本マーケティング本大賞2025の準大賞受賞)など著書多数。
クー・マーケティング・カンパニー
代表取締役
17年間の日米P&Gを経て、欧州系消費財メーカーや資生堂などで、マーケティング担当副社長やCMOとしてビジネスの回復・伸長やマーケティング組織強化を主導。2018年、Coup Marketing Company 設立。家電、化粧品、食品、輸送機器、広告会社など、国内外の多様なクライアントにマーケティング組織強化やブランド戦略などを支援。近年は、マーケティング、ブランド戦略に加えて、AIや採用を軸にした登壇、企業支援も多数手がけている。
博士(経営学 神戸大学)。日本マーケティング本大賞2022の大賞受賞『The Art of Marketingマーケティングの技法』や、『君は戦略を立てることができるか 視点と考え方を実感する4時間』(日本マーケティング本大賞2025の準大賞受賞)など著書多数。
岡本 味の素では、新卒でいきなりマーケターになる人はそれほど多くありません。
最近はマーケター採用も始めていますが、私は営業や研究所を経験してからマーケティングに携わるほうが望ましいと考えています。
営業を経験した人は、商品が店頭でどう売れていくのかを理解しています。一方、研究所出身者は商品そのものへの理解が深い。どちらもマーケティングの土台として非常に重要な経験です。その上で、マーケティングに適性のある人材を選び、改めて育成しています。
音部 マーケティング部門へ異動してから、どのくらいでブランドを任されるのでしょうか。
岡本 最初の2~3年はトレーニング期間です。その後、「丸鶏がらスープ」くらいの規模のブランドを一人で担当するようになります。担当するのは商品開発だけでではありません。販売計画、利益管理、生産管理、在庫管理、売上予測まで含めて、ブランド全体の責任を担います。
音部 まさに、ひとつの会社を経営するような感覚ですね。
岡本 その通りです。部下はいませんが、そのブランドに関しては、自分が社長だという意識で仕事をします。その経験を積んだ上で、「中華だし」のようなカテゴリー全体を担当するマネージャーになったり、「ほんだし」や「クノール カップスープ」といった大型ブランドを任されたりするキャリアにつながっていきます。
AGF「ブレンディ」から得た学び
岡本 市場創造という観点では、AGFの「ブレンディ」スティックも非常に優れた事例だと思います。
実は、3-in-1のスティックコーヒーも日本発なんです。それまでは、インスタントコーヒーに砂糖とミルクを別々に加えるのが当たり前でした。それなら最初から全部ひとつにまとめてしまおう、という発想から生まれました。
韓国でテスト販売を行った後、日本で本格展開し、現在では、世界最大手のネスレとも十分に競争できるブランドへ成長しています。
私自身、AGFのマーケティングやブランディングから学んだことは数多くあります。
音部 どのような点が優れていると感じていらっしゃるのでしょうか。
岡本 コーヒーを飲むときのインサイトを非常に深く研究をしていることです。その上で、機能的価値だけでなく、感情的価値まで含めてブランドを丁寧に育てています。
たとえば、「ブレンディ」スティックの個包装には、「今日も一日お疲れさま」「がんばったね」といったメッセージが印刷されています。
コーヒーには「覚醒」と「安息」という二つの価値があるといわれますが、コロナ禍以降は特に「安息」の価値を重視しています。こうしたメッセージも、その考え方を反映した施策といえるでしょう。
また、「ちょっと贅沢な珈琲店」というレギュラーコーヒーブランドは、ネーミングを含め、「安息」を感じられる世界観を丁寧につくり込んでいます。その結果、原材料価格の高騰による値上げ局面でも、お客さまに支持され続けています。
この二つのブランドが牽引する形で、AGFは今期、過去最高益を見込んでいます。

岡本達也氏
味の素 アドバイザー
※取材当時は、執行役常務 食品事業本部副本部長 マーケティングデザインセンター長
1987年味の素株式会社入社。味の素ダノン株式会社出向、1991年に復職したのち、1996年から家庭用商品(「ほんだし®」、「Cook Do®」、「ピュアセレクト®マヨネーズ」、「クノール®カップスープ®」他)の開発・販売戦略などのマーケティング業務に従事。2014年味の素冷凍食品株式会社に出向。執行役員マーケティング本部家庭用事業部長着任後「ザ★®」シリーズを手掛ける。2019年味の素株式会社執行役員就任。2022年執行役常務食品事業本部副本部長就任。2023年4月にマーケティングデザインセンターを設立しマーケティングデザインセンター長兼任。
味の素 アドバイザー
※取材当時は、執行役常務 食品事業本部副本部長 マーケティングデザインセンター長
1987年味の素株式会社入社。味の素ダノン株式会社出向、1991年に復職したのち、1996年から家庭用商品(「ほんだし®」、「Cook Do®」、「ピュアセレクト®マヨネーズ」、「クノール®カップスープ®」他)の開発・販売戦略などのマーケティング業務に従事。2014年味の素冷凍食品株式会社に出向。執行役員マーケティング本部家庭用事業部長着任後「ザ★®」シリーズを手掛ける。2019年味の素株式会社執行役員就任。2022年執行役常務食品事業本部副本部長就任。2023年4月にマーケティングデザインセンターを設立しマーケティングデザインセンター長兼任。
音部 AGFがブランディングに優れている理由は、どこにあるとお考えですか。
岡本 やはり、世界最大手であるネスレの存在が大きいのではないでしょうか。常に強い競争相手がいる。その危機感が、良い戦略を生み出しているのだと思います。
音部 味の素と味の素AGFの間では、人事交流はあるのでしょうか。
岡本 あります。AGFのマーケティングはクラフトのモデルがベースになっています。一方、味の素はユニリーバのモデルをベースにしています。その二つが交流することには、大きな意義があると思っています。
味の素ゼネラルフーヅ時代は、味の素と米ゼネラルフーヅ(当時クラフトグループ)の出資比率が50対50だったため、守秘義務の関係から、お互いのマーケティング手法を共有することはできませんでした。
しかし、2015年に味の素の100%子会社化となって以降は、人事交流もノウハウの共有も活発に行えるようになっています。




メルマガ登録















