広報・PR

りくりゅう婚約発表から考える「発表しない」というPR設計 沈黙には「期限」と「出口」が必要

 

「沈黙」には期限が必要


 では、企業は都合のよい時期まで黙っていればいいのか。もちろん違う。

 法令や適時開示制度などで公表が求められる情報がある。事故や不祥事など、ステークホルダーの判断や安全に影響する情報を自社の都合で遅らせることは、ここでいう「効果的な情報設計」とは別の問題である。

 その線を引いたうえで、公表時期に裁量がある情報には「期限」が必要だ。それは単に日付でなく、「意思決定が完了するまで」「関係者への説明が終わるまで」といった条件であってもよい。

 広報の仕事を長くしていると、「出しましょう」より「まだ出さないほうがいい」と社内を説得する方が難しい。発表は成果が見えやすいが、待ったことで守られたものは数字に残りにくい。それでも、「なぜ今は出さないのか」「何が起きたら出すのか」を説明できる状態にしておく。それも広報担当者の重要な仕事だと思っている。
    
出典:123RF
 

沈黙の「出口」を設計する


「まだ早い」「もう少し様子を見よう」だけでは戦略にならない。沈黙を選ぶなら、「いつ終えるか」という期限と、「なぜ今なのか」を説明できる出口まで設計する必要がある。

 りくりゅうの場合、4月17日の引退発表から8月23日の婚約発表まで約4ヵ月あった。この間隔によって、婚約は競技人生を上書きせず、その先の新しい出来事として受け取られやすくなったのだと私は思っている。

 企業でも同じだ。たとえば新社長就任と新中期経営計画を同日に出せば、「人が変わった」のか「戦略が変わった」のか、ニュースの主語が曖昧になる。あえて就任を先に出し、数週間後に新社長自身の言葉で中計を示せば、「誰が、なぜ、何を変えるのか」という順序で理解してもらえる。大切なのは発表日をずらすことではなく、受け手が意味を理解できる順番をつくることだ。
 

広報が設計するのは「時間」である


 広報企画では、「誰に」「何を」「どのように」「いつ」伝えるかを考える。ただし、「いつ」は単なる日付だけではない。非公表とする期間、発表の判断条件、同時に出す情報の範囲、発表時に置く文脈まで含めて設計する必要がある。それは単なる日程調整ではなく、発表に伴う関係者対応、報道の集中、他案件への影響まで見越した情報管理なのである。

 広報は、発表内容に加え、発表までの時間と前後の文脈も扱う仕事だ。発表のタイミングと開示範囲を切り分けて考えることで、情報発信の目的と運用上のリスクを両立しやすくなる。結局、広報でいちばん難しいのは、何を言うかではなく、「今は言わない」と決めること=「発表しないという発表」を、社内ですることである。
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