広報・PR

板野友美×ザ・リッツ・カールトン日光の一件から考える、炎上時の「第一報」設計

 

留保つきの回答が、説明として流通する


 9月7日、『週刊女性PRIME』は、ホテル側の回答を掲載した。館内の撮影許可は撮影可能な部分に限ったもので、「一般常識でも法律でも」撮影できない脱衣所などは許可していない、という趣旨である。同誌によれば、ホテルは詳細について追って連絡するとしていた。この回答は留保を含んでいたことになる。

 しかし読者にとっては、その時点で読めるホテル側の説明はこれしかない。活字やWebの媒体は、取材回答を見出し、引用、要約の組み合わせで伝える。受け手というのは最初に目にした文言で争点をつかむ。企業側が「声明を出した」というつもりがなくても、取材への回答は「社会にとっての第一報」として機能することになる。

 掲載された文言だけを読むと、筆者には「説明しなくても当然分かる範囲」というニュアンスを含んでいるかのように読める。「脱衣所で撮影してはならない」のは常識であり、それ自体はその通りだ。だが常識を根拠にした線引きは、線を越えた相手の側に説明責任を置く言葉にもなる。

 同誌によれば、翌8日に追加回答が届いた。そこには、「動画によって不安な気持ちにさせた」ことへの謝罪、撮影を控えるべき範囲を細かく伝えられず「案内が行き届かなかったこと」への謝罪、撮影は大浴場の営業時間外で、「他の利用客が利用する状況ではなかった」という説明、そして今後の運用を徹底し、「安心して来てほしい」という言葉が並んでいた。

 私はこれを、「説明の相手が変化した」ものと捉えている。初期回答は、主に撮影者との許可範囲を説明する言葉だった。追加回答は、「これから宿泊しようとする人」の不安を解消しようとする言葉を含んでいる。

 冒頭に書いたとおり、第一報がベストの回答でないことは多い。だがそれは、第一報で何を語ってもよいという意味ではない。

 すべてを語る必要はない。しかし最初に何を語るかは選ばなければならない。自社がどこまで許可したかという線引きか、利用客がいま知りたいことか。最悪を避けるために急いで出す一行ほど、その選択には判断力が問われる。急ぐほど、組織は「自分が守りたいもの」を第一に語り始めてしまうからだ。
 

何について謝ったのか


この騒動では、双方が謝罪している。板野さんは「誤解を招くような表現」について謝り、同じ投稿で許可を得ていたと説明した。ホテルは、多くの人を不安にさせ騒がせたことと、案内が行き届かなかったことについて謝った。

 謝罪の有無だけを見れば、双方とも責任を認めたように見える。だが、謝罪の対象として定義したものは必ずしも同じではない。一方は「表現」を、もう一方は与えた「不安」と「案内の不足」を、謝罪の対象にした。

 表現についての謝罪は、この騒動を「伝え方の問題」として位置づけられる。一方、案内不足についての謝罪は、「ホテルの運用の問題」として位置づけられる。

 これから宿泊を考える人が知りたいのは、「自分が大浴場を使うときに撮影される心配はないのか」ということである。その問いに答えられるのは、運用を行っているホテル側だけだ。

 ホテルの追加回答では、案内不足を認め、今後の運用にも触れることで、その問いに答える内容が加わった。謝罪は「謝ったか、謝らなかったか」ではなく、何を謝罪の対象にしたかで読む必要がある。
 

「許可」に頼ってきたのは誰か


 ここでホテルや板野さんから離れ、私たちの視点から広く考えてみたい。インフルエンサーに企業情報を発信してもらうことは、いまやマーケティングやPRでは当たり前の施策である。私も、誰に、どんな場面で発信してもらうか、常に考えてきた。しかし、撮影を受け入れるときに、次のことまで決めてきたとは、正直なところ言い難い。
 
  • どの場所は撮影してよく、どの場所はいけないのか。
  • 他の利用客が映り込まないようにするにはどうするか。
  • 公開前に映像を確認するのか。
  • 問題が起きたとき、媒体の問い合わせに誰が答えるのか。

 たとえば、撮影の受け入れは宣伝の担当者が決め、当日の案内は現場のスタッフが行い、問い合わせには広報が答える。この三者が同じ情報を持って、その意味(意義)を同期していなければ、取材への回答は、手元にある範囲の説明にならざるを得ない。

 私たちは「撮影は許可しています」という一言で済ませ、その許可がどこまでを含み、どこからを含まないのかまで設計してこなかった。

 炎上の初期には、どうしても「誰が悪いのか」という問いが先に立つ。企業もまた、自社の責任範囲を確定するところから考え始めやすい。責任の所在は、時間をかけて明らかにすればよい。だが危機管理広報で最初に定めるべきなのは、誰が正しいかではなく、「誰が、何に不安を感じているのか」であるべきだ。

 不安を抱く人たちが判断するために必要な事実を、どの順番で、どの言葉で伝えることができるかが対応する広報部門などにとっての勝負どころでもある。今回であれば、その相手はこのホテルに泊まろうとしている人たちであった。

 公式声明を出す前から、第一報は始まっているのだ。
他の連載記事:
広報・PR の記事一覧
  • 前のページ
  • 1
  • 2

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録