「迷ったら、削る」グローバル戦略の描き方 #08
サラヤの30年に学ぶ「現地の課題起点」のグローバル戦略 「なぜその市場へ?」という問いへの向き合い方
2026/09/29
ユニクロのAIチャットボット 「UNIQLO IQ」や世界中の着こなし・コーディネート情報を検索できる「StyleHint」のコンセプト・開発・UXデザイン、P&G パンテーンのキャンペーン「#この髪どうしてダメですか」などを手掛けてきた高宮範有氏。
I&COの東京オフィスを2019年の開設時からリードし、2024年4月にI&CO APACの代表に就任した高宮氏が、I&CO創業から10年で培った実績と、アジア各国のスタートアップ約250社と情報交換する中で見えてきた国境を越えるブランディングに大切なことを解き明かしていく本連載。第8回は、I&CO 高宮とサラヤ アフリカ開発室 室長 北條健生氏の対談をもとに再構成した。
海外展開を検討する場面でまず議題となるのは、「そもそもどこに進出するか」「それを決めるための判断軸をどこに置くか」だ。市場規模、成長率、競合の有無——数字を手がかりに参入先を選ぶアプローチは、もちろん重要な判断材料といえる。しかし、経済合理性だけを拠り所に進出先を決めると、価格競争に引き込まれやすく、その市場と長く続く関係を築きにくくなる。
では、経済合理性に加え、別の視点から市場に入ることはできるのか。「解決すべき社会課題があるか」「自社の強みがその課題に効くか」を判断軸に、29の国と地域で事業を展開してきたサラヤの歩みは、そのことへのひとつの答えを示している。
I&COの東京オフィスを2019年の開設時からリードし、2024年4月にI&CO APACの代表に就任した高宮氏が、I&CO創業から10年で培った実績と、アジア各国のスタートアップ約250社と情報交換する中で見えてきた国境を越えるブランディングに大切なことを解き明かしていく本連載。第8回は、I&CO 高宮とサラヤ アフリカ開発室 室長 北條健生氏の対談をもとに再構成した。
海外展開を検討する場面でまず議題となるのは、「そもそもどこに進出するか」「それを決めるための判断軸をどこに置くか」だ。市場規模、成長率、競合の有無——数字を手がかりに参入先を選ぶアプローチは、もちろん重要な判断材料といえる。しかし、経済合理性だけを拠り所に進出先を決めると、価格競争に引き込まれやすく、その市場と長く続く関係を築きにくくなる。
では、経済合理性に加え、別の視点から市場に入ることはできるのか。「解決すべき社会課題があるか」「自社の強みがその課題に効くか」を判断軸に、29の国と地域で事業を展開してきたサラヤの歩みは、そのことへのひとつの答えを示している。
「現地のリアル」から事業の軸をつくる
サラヤにおける海外展開の第一歩は、1995年のアメリカ進出でした。当初は医療衛生分野での展開を想定していましたが、当時のアメリカは食品工場の大規模化やセントラルキッチンの普及により、大規模な食中毒が頻発するという課題を抱えていました。
こうした状況を受け、まず向き合うべき喫緊の課題として「食品衛生の分野にこそ現地ニーズがある」と判断し、サラヤは展開分野を軌道修正します。その後、現地パートナーとの議論を重ね、日本式の食品衛生を紹介する形で合弁会社を設立しました。
実は、食品現場での消毒にアルコールを使用するのは日本独自の文化であり、当時のアメリカには前例がなかったそうです。そのため、食品現場でのアルコール消毒剤の使用許可——FDAの許認可取得は、サラヤが第一号となりました。現地のリアルに向き合った方針転換が、結果として誰も踏み込んでいなかった領域を切り拓くことになったといえます。
その後、サラヤの海外展開は大きく三つのパターンに分かれていきます。①日系企業の海外進出に伴走する形、②医療分野における製品供給パートナーの海外展開に伴う進出、③経営トップの人的ネットワークをきっかけとするケースです。
特徴的なのは①のパターンで、日本企業が海外に進出する際、サラヤが「食品衛生の見守り役」のような役割を果たしている点です。これは単なる製品の納入にとどまらず、衛生ルールの策定から従業員教育、定期監査、改善提案まで含めた、包括的なコンサルティングサービスとして提供されています。
【実務ポイント】
- 現地に出て初めて分かるニーズの違いが、事業の方向性を決定的に変えることがある
- 「市場規模」だけでなく、パートナー企業の動向や人的ネットワークなど、複数のルートが海外展開の入口になりうる
選択肢を提示する —— 文化適応のアプローチ
グローバル展開においては、現地の文化や価値観への対応を避けて通ることはできません。必ずと言っていいほど直面する「どこまで現地に合わせるのか?」という問いに対して、サラヤは「選択肢を用意する」というアプローチを取りました。
その一例が、石鹸の香りをめぐる問題です。たとえばアルコールの使用が難しいイスラム文化圏では、手指衛生において石鹸の役割が相対的に大きくなりますが、この石鹸ひとつをとっても、日本と東南アジアでは前提となる考え方に違いがあります。
日本の食品現場では、匂い移りもコンタミネーション(混入)と見なすため無香料の石鹸が推奨されますが、東南アジアでは「魚やイカの匂いが残らないよう、香りの強い石鹸を使いたい」という要望があるといいます。
こうした違いに対してサラヤが選んだのは、「無理に合わせず、選択肢を提示する」という方法でした。香りの強い製品も用意したうえで、日系企業には無香料のものを提供する。そして、日系企業での使われ方が現地の目に触れることで、「これが食品衛生の標準なのだ」という認識が徐々に広がっていきました。
衛生・安全の基準は守りつつ、文化的な選好には選択肢で応える。そうした姿勢が、現地との関係づくりの土台になっているのでしょう。
【実務ポイント】
- 文化的な違いに対しては、「選択肢の提示」が有効なアプローチになり得る
- 日系企業での実践を現地が目にすることで、言葉よりも自然に基準が広がることがある




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