「迷ったら、削る」グローバル戦略の描き方 #08
サラヤの30年に学ぶ「現地の課題起点」のグローバル戦略 「なぜその市場へ?」という問いへの向き合い方
2026/09/29
ウガンダでの実践——社会課題を起点にした事業設計
サラヤの姿勢が最も鮮明に現れるのが、アフリカでの取り組みです。きっかけは2009年、ユニセフからハンドウォッシング・キャンペーンへの協賛を求められたことでした。
単なる単発イベントの協賛で終わらせたくないと考えたサラヤは、2010年アフリカのウガンダで「100万人の手洗いプロジェクト」を開始し、売上の1%を現地の衛生改善に還元する仕組みを設計。この活動をきっかけに、現地法人の設立、そしてウガンダの廃糖蜜からエタノールを製造してアルコール消毒剤を現地生産する体制の構築へとつながっています。
一過性の支援ではない地道な関係性の構築。その価値は、コロナ禍のエピソードからも見て取れます。コロナ前年のエボラ出血熱対応で政府とともに国境の防疫体制を構築していたことが、コロナ禍での後の迅速な対応を支え、ウガンダ保健省から「サラヤのおかげで感染症に向き合う準備ができていた」という言葉が届いたそうです。
ビジネス的にはまだチャレンジが続く一方、社会的インパクトという意味では確実な成果が積まれています。
【実務ポイント】
- 一過性の「寄付」ではなく継続的な「仕組み」にすることで、社会貢献を持続可能な形に変換できる
- 感染症対策への教育・体制構築への投資が、10年単位で別の危機への備えとして機能することがある
持続可能な事業として根付かせるための設計
時間も手間もかかるアプローチを選ぶ理由について、北條氏は「大手企業が手を出しにくい領域をあえて選び、自分たちが価値を感じることを、時間をかけて丁寧にやりきる。その積み重ねが信頼につながり、価格だけで簡単に崩れることのない価値が生まれる」と語ります。
途上国では、このアプローチはさらに独自の形をとります。というのも、多くの途上国では「食品衛生」そのものが付加価値として認識されにくいからです。そこでサラヤは、食品衛生の改善を直接訴えるのではなく、「収入の安定」という別の価値と結びつけることで、結果として食品衛生の向上につながる方法を探りました。
独自に開発した急速冷凍機は、その一例です。多くの途上国では農業や漁業の収穫が同時期に集中するため、「ピーク時には買い叩かれ、オフシーズンには収入が途絶える」という構造が生まれがちです。ここに冷凍技術を取り入れることで、流通ロスを減らしながら保存期間を延ばし、年間収入の平準化と衛生管理の導入を同時に実現しています。
「社会課題があるところには、すべて出ていきたい」という北條氏の言葉に象徴される同社のブレない姿勢を土台に、現在、サラヤの事業領域は着実に広がっています。
2050年には世界の4人に1人がアフリカ人になるといわれる中、アメリカからは数千社、中国からは1万社以上がすでに進出しています。サラヤはウガンダとケニアに拠点を持ち、日本企業の現地参入の受け皿になることも「自分たちの仕事のひとつ」と位置づけています。
【実務ポイント】
- 「大手が手を出しにくい領域」を意図的に選ぶことが、価格競争に巻き込まれない差別化と、長期的な信頼構築を両立する
- 相手側にとっての価値と接続することで、提案が受け入れられやすくなる
- サラヤのように海外拠点を持つ企業の受け皿機能を活用することは、新興市場への参入コストを下げる手段になりうる
海外進出に、経済合理性とは別の合理性を
サラヤの事例から浮かび上がるのは、「なぜその市場に出るのか」という問いへのひとつの向き合い方です。
あえて時間と手間をかける方法、つまり必ずしも経済合理性の追求から出発するのではなく、そこに課題があるかを起点に動く。その結果として信頼が生まれ、独自のポジションが形成され、長期的な事業へとつながっていく。この構造は、経済合理性とは別の合理性として機能しています。
そうした姿勢を体現してきたサラヤの30年は、「なぜその市場に出るのか」という問いを別の角度から捉え直す視点を示しています。
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