TOP PLAYER INTERVIEW #102

青いガーナにビックリマンAI名刺。「クリエって行こうぜ」スローガンに加速するロッテの「付加価値」戦略

 

虫の目、鳥の目、魚の目


―― 顧客に選ばれる価値を生み出し続ける組織であるために、どんなことに取り組まれていますか。

「ここ5年ほどで顧客価値の理解を強化した」とお話ししましたが、同じタイミングで組織改編を含め、さまざまなマーケティング改革が推進されました。一連の改革を貫く問題意識のひとつが「マーケティング近視眼」です。私自身もそうでしたが、ブランドマーケターはどうしても自ブランドを主語に語りがちで、市場や生活者、時代の変化が見えなくなるジレンマを抱えています。また、ブランド担当者が何事も一人で抱え込んでしまい、アイデアが独りよがりになる傾向もありました。

そこで「虫の目」「鳥の目」「魚の目」という3つの視点を養い、周囲から率直な意見や助言を得やすいフィードバックカルチャーを築くことに、意識的に取り組んできました。

まず「虫の目」は、生活者に提供できる価値をより根源的に理解する視点です。そのために現在の顧客や市場を探るだけでなく、退職したOB・OGを招いて話を聞くことがあります。たとえば数十年前に「ガーナ」を担当した人に、当時、なぜその施策を行ったのか深掘りして聞くと、時代が変わっても普遍的な消費者のニーズや、ブランドが本来持っている価値の核が見えてくることがあります。いわば、ブランドのルーツを問い直し、先人からバトンを受け継ぐ有益な機会になっており、得た知見を社内に共有・蓄積する仕組みもつくろうとしています。

次に「鳥の目」は、自社や自分を客観視し、俯瞰する視点です。ここでは先ほど述べた他社との研修やコラボが生かされています。外部人材を招いた研修は元々、展示会など社外交流の機会がなくなったコロナ禍に月一回程度、外部講師を招くようになったのが始まりで、今では他の消費財メーカーさんなどとの事例発表会や合同研修を頻繁に行っています。市場における自ブランドの立ち位置や、マーケターとしての自分の実力を知ることに役立ちます。

最後に「魚の目」は川の流れ、つまり時代や市場の大きな潮流を読む力です。年に2回ほど、主に韓国のグループ会社と協力して韓国やアジア諸国、欧米などを視察したり、専門家やリサーチャーの話を聞いたりしています。もちろん事前にデスクリサーチを十分に行った上で、現地を歩き、自分の目で商品や売り場、人々の行動を見ることで感じ取れるトレンドや、フィールドワークだからこそ得られる気づきを大切にしています。

―― 先ほど「ロッテの伝統」とおっしゃいましたが、外部の知見を取り入れることをかなり重視しているのですね。

そうですね。学びの機会を会社側が与えすぎて、能動的に学ぶ姿勢を削いでしまうリスクには留意する必要がありますが、組織は長く続くほど効率化や「守り」が優先され、リスクやチャレンジを避けがちです。だからこそ常に外部からの刺激を得て、挑戦を絶やさない努力が必要だと考えています。
 

「クリエって行こうぜ」


―― マーケティング本部には「クリエって行こうぜ」というスローガンがあるそうですね。その意味と、スローガンを体現した施策を教えてください。

「クリエって行こうぜ」は、2024年にマーケティング本部長に就任した榊原浩二が呼びかけたもので、今では私たちマーケターの創造性を高めるための指針のように捉えられています。「何でもいいから、創造してみたいこと」をマーケティング本部内で募集したところ、150ほどのアイデアが出ました。それらのアイデアを統合し、各部門と調整して具体に落とし込んだ施策が、どんどん実行に移されています。

たとえば昨年12月に試験的に公開した「ビックリマンAI名刺メーカー」は、自分の顔写真をアップロードするとAIによってビックリマン風のイラストに加工され、それがプリントされたオリジナル名刺をつくれるサービスです。紙の名刺はアプリに代替されてきていますが、ビックリマンと組み合わせることで、名刺が本来持つ「人と人との距離を縮める」という価値を改めて引き出せるのではないかと考えました。大きな反響があり、現在はTシャツやキーホルダーを含めた「ビックリマンAIグッズメーカー」として本格的に稼働しています。絵柄の組み合わせや、名刺に〝キラキラ〟が入るかどうかは運次第というところにも、50年近く「人をビックリさせる」ことにこだわってきたブランドのエッセンスが込められています。

―― 渡されたら、本当に“ビックリ”する名刺ですね(笑)

遊び心満載ですが、当初AIと組み合わせることに、慎重な意見もありました。ビックリマン風に加工された画像が、すでに世の中に出回るようになっていたことと、イラストレーターの方々の仕事に影響を与えてしまうのではないかという疑念があったからです。ただテクノロジーの進化は止められない以上、むしろAIとうまく組むことでブランドを進化させられるのではないか。そんな意志を持って新時代のビックリマンの価値を発信しています。
  
画像出典:ビックリマンAIグッズメーカー公式サイト

他のブランドでも、次々と新領域にチャレンジしています。

今年3月には「コアラの街」と題して、表参道を舞台に「コアラのマーチ」の世界観を楽しめるイベントを開催し、オリジナルカフェメニューなどを展開しました。「パイの実」では、「推し活」を意識して緻密なキャラクター設定を行い、アニメを制作して今年6月からロッテ公式YouTubeチャンネルで公開したり、グッズ展開をしたりしています。「雪見だいふく」では、648通りの組み合わせから自分好みの雪見だいふくを食べられる期間限定店舗「my雪見だいふく」を都内にオープンし、予約が取れなくなるほどご好評をいただきました。
 
アニメ「パイの実 おしの森へようこそ!」第1話「パイの実の夢はふくらんで!?」(動画出典:ロッテ公式YouTube)

―― 今夏には「涼スポット」を提供する「クールシェルタープロジェクト」も実施されましたね。温暖化という社会課題への対応をマーケティング本部主導で行うのは意外性がありました。

参考記事:ロッテが「涼スポット」を提供、社会課題対応とアイスシーン創出を両輪でプロジェクト化

外部から見ると意外に感じられるかもしれませんが、かつて私が担当した「キシリトール」も「むし歯のない社会」というブランドパーパスを掲げ、パーパスドリブンなブランド戦略を遂行してきました。「クールシェルタープロジェクト」は経営戦略やサステナビリティを担う部門とも連携して進めたソーシャルアクションで、「爽」と「クーリッシュ」というアイスブランドを持つメーカーとして提供できる価値を考えてのブランディング施策でもあります。

―― 菓子メーカーの枠を超えて新領域に次々と手を広げていくことは、効率性やコストの面で弊害がありませんか。

効率を優先する局面はもちろんありますが、たとえば「パイの実」ならキャラクター設定などアニメ化に必要な要素をゼロから考え抜いたことによって、今後のブランド戦略に生きる数々の知見が得られました。

一見すると従来のマーケティングとは異なる仕事に見えるかもしれません。しかし、どの施策もブランドの本質的な価値を捉え直し、その価値を新たな体験へと拡張するコミュニケーションだという点では、従来の仕事と変わりません。

違いがあるとすれば、これまでのチャレンジが比較的、既存商品の延長上で行われていたのに対して、現在はアニメや名刺といった、商品カテゴリが全く異なる領域にも踏み込んでいることです。それによって、ブランドが持つ可能性をどこまで広げられるかに挑戦しています。

全てが現在はまだ探索段階で、収益化できているわけではありませんし、効率やコストももちろん意識しなければなりません。ただ、幅広く網を張り、まずは自分たちでやってみることで、新たなヒットの芽を見つけ、ひいては「非連続な成長」を生み出すチャンスをつかめると考えています。

―― これからの多彩な展開が楽しみです。本日はありがとうございました。
  
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