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国連難民高等弁務官事務所の広報日記 #06

山田洋次監督「国民的映画」にも難民支援?出演する後藤久美子さんが国連職員に 【UNHCR 守屋由紀】

後藤久美子さんがUNHCR職員を演じる

 話を「寅さん」に戻しましょう。我が家に「トラ」と「サクラ」がいるご縁だとありがたく思うと同時に、お役に立てるのかしらと不安を抱きながら駐日事務所の代表はじめ各部門のスタッフを説得し、映画に協力する流れとなりました。以降、関係者の皆さんと情報共有しながら、記者会見の日を待ちました。

 松竹さんの記者会見で明らかになったのは、「寅さん」を演じた渥美清さんが1996年にお亡くなりになって22年経つのですが、第50回記念作品の主役「寅さん」はあくまでも渥美清さん。「寅さん」の甥っ子、吉岡秀隆さん演ずる満男くんのガールフレンド、及川泉役として第42、43、45、48回目に出演し「国民的美少女」として一世を風靡した「ゴクミ」こと後藤久美子さんが、UNHCRの職員として銀幕に復活するということでした。
 
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 ご存知の方も多いでしょうが、後藤久美子さんは元F1ドライバーのジャン・アレジさんとの事実婚の後に日本を離れ、しばらく芸能界から離れていました。いまのお住まいはなんと、UNHCRの本部があるスイスのジュネーブ、ご縁をますます感じます。

 会見での後藤さんは「ジュネーブの自宅に山田監督から長いお手紙が届き『新作を作りたい。どうしても君が必要だ。どうにか考えてもらえないだろうか』と書かれていました」と。

 熱烈なラブコールがあったことを明かしながら、手紙からは「山田監督の『男はつらいよ』シリーズに対する大きな愛情と、『新作を撮りたい』という情熱をひしひしと感じました」とし、「読み終える頃には、引き受けるか否かを私が考慮する権利すらないのではないかとの思いに至り、ハイとひとつ返事で」と出演を受け入れた心境を説明されていました。

 渥美清さん演じる「寅さん」について後藤さん、「大きな背中と心ですべてを包んでくれる大好きなおじちゃま。もし寅さんに再会できたら『よう。元気にしてたかい?』と声をかけてもらいたいですね」と懐かしそうに語っていました。

 新作では、後藤さん演ずる泉は結婚して「イズミ・ブルーナ」と名前が変わり、2人の子どもとオランダで生活し、UNHCR職員として活躍している。たまたま仕事で来日した際、小説家として成功した満男と再会し、物語が大きく動くという設定なんだそうです。

 会見で山田監督は「昭和、平成と時代が代わり、新しい元号になってからの正月映画。映画を観にいくのではなく、寅さんに会いに行くような作品を目指しています。寅さんというスクリーンを通して、寅さんのキャラクター、寅さんのセリフなどから、色々と世知辛い世の中になったいま、道徳、思想、あらゆるものが押し付けられるのではなく、人間がいかに自由であるかをテーマにいままで作っていたが、そんな思いの集大成になります。若者が見ても楽しい作品になればとの気持ちでは作っていませんが、何かを感じとってくれるでしょう」と、言いました。

 往年のファンだけではなく、これからの世代へ、「君たちはどう生きるか」を問いかける作品に、UNHCRが少し参加させていただける喜びを感じつつ、新年を迎えています。

 世界の難民支援の現場で活躍しているUNHCRの日本人同僚から「寅さん」は「日本人の心」を思いだす作品だという声をよく聞きます。

 最後にここだけの話ですが、山田監督にお会いした際、「いま難民問題がこれだけ複雑化している中、とても心を痛めている」とおっしゃっていました。国民的映画を通じて、1人でも多くの方に難民問題にふれてもらえる機会をいただけたことに感謝しています。
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