音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #01
マーケターは転職を経験した方がいいの? 【新連載 音部で「壁打ち」】
クー・マーケティング・カンパニー 代表の音部大輔さんによる新連載がスタート。マーケティングの現場で悩んでいる人からの質問に、音部さんが答えます。質問の内容は、戦略立案やキャリアについての困りごとなど、マーケティングに関することであれば、何でもかまいません(質問は、こちらでお待ちしています)。第一回は、「マーケターは転職した方が、いいのでしょうか」という質問に答えてもらいました。
転職は、いいマーケターの条件?
【質問】
活躍している諸先輩を見ていると、何社か転職をして様々な業界に触れることが「優秀なマーケター」になるために必要だと思うようになりました。やはり、マーケターは、転職するべきなのでしょうか。進路に悩むことは、誰でもよく起こることです。敬愛する開高健のエッセイに「生まれるのは偶然、生きるのは苦痛、死ぬのは厄介」というセリフがちょくちょく出てきます。キャリアになぞらえれば、「就職は偶然、続けるのは苦痛、辞めるのは厄介」と言い換えられるのかもしれません。人生もキャリアも、悩ましいことです。
諸先輩や友人たちを見ていると、多様な業界に触れたから活躍しているように見えることがあります。でも実態はむしろ逆で、相応の能力を培ったから多様な業界で活躍されているのではないかとも思われます。「金持ちはいい車に乗っている。だから俺たちもいい車を買って金持ちになろう」という笑い話があります。解説するまでもなく、いい車に乗ってるから金持ちなのではなく、金持ちだからいい車に乗っているわけなので、車を真似ても金持ちになれるものではありません。同じように、転職したり業界を変えることがいいマーケターになるための条件ではないように思います。
優秀であるというのは、単位時間あたりの経験値獲得量で示されると思います。逆に言えば、優秀になるためには単位時間あたりの獲得経験値を高めればいいのです。会社、業界、製品やサービス、社内外のパートナー、そして消費者。それら多くの変数の中にプロフェッショナルとしての自分自身があります。周囲の変数が変わることによって新しい視点を獲得し、成長につながることもありそうです。同時に、周囲の変数をある程度の閾値内で抑えることで、自身のラーニング効率を高めやすいこともあります。
転職ありきではなく、ラーニング効率を意識してみよう
転職すると、新しい組織や業界、仕事内容や人間関係に慣れるために相応の時間や労力を要します。新しいルールやプロセスを覚えるなど、新しく習得する必要があるからです。この期間は、少なくとも一時的には、ラーニング効率を下げてしまうかもしれません。この観点で見れば、ある程度の基礎を確立するまでは環境変化は少ない方が、1年間で得られるラーニングは大きそうです。もし目指すべき自身の未来像に対して、年間あたりのラーニングの減少を感じつつ自助努力では解決しにくいと結論付けた場合、新しい環境に挑戦するのも選択肢となるでしょう。プロセスやルールを覚えるといった初期投資が必要になりますが、その後は高い経験値を効率よく獲得できるかもしれません。一概に転職がいいとも、悪いとも言い難いのがむずかしいところです。徹底的にピアノを習得した音楽家と、いろんな楽器を習った音楽家。ずっと野球をやり続けたアスリートと、いろいろな競技をプレイしてきたアスリート。自身がプロフェッショナルとして目指す姿はどちらでしょう。何かをマスターすることで、別のことをマスターしやすくなる、という側面もあります。同時に、ある程度の労力を投入しないと、得られないスキルもあります。向き不向きもあるかもしれません。向いていることの方が、腕を上げやすいようにも思います。
この悩ましい問題に対処するためには、自身のラーニング効率という視点で眺めるとヒントがありそうです。同時に、自分はキャリアでどこを目指すのか明確にしつつ、適宜、自身の成長速度を把握しておく仕組みを持っておくと客観的に判断できそうです。
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