ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #20

ネットリサーチの生みの親 杉本哲哉氏は、どのように激戦市場を勝ち抜いてきたのか

リーマンショックをどう切り抜けたのか

田岡 復帰後、どのようなことに注力されていったのですか。

杉本 まず考えたのは、日本のインターネットリサーチ市場がもはや成熟しているということ。自動車業界などは廉売競争が始まるまでに50年かかりましたが、インターネットサービスは10年で廉売競争に陥りました。安売りが始まれば、単純に利幅が少なくなるため、待遇で劣り優秀な人材はとれなくなります。たかが10年で優秀な人材がとれなくなれば、業界に未来はありません。そこで、ライバル会社のトップたちに会いにいって、過当競争を止めるために業界を再編しようと思いました。

 まず相談したのが、ヤフーです。当時のヤフー社長 井上(雅博)さんと話をして、結果的に株式交換で合併しました。その後には、電通リサーチとも合併会社をつくり、ネットリサーチだけでなく総合的な調査にも対応して、廉売競争を一定程度止めることに成功しました。

田岡 競合を減らしながら幅の広いワンストップサービスも提供できるようになり、収益も安定されていったのですね。

杉本 国内では、そうですね。ただし、国内市場が成熟しているためグローバルにシフトしていく必要性も感じていました。アジアでマーケティングをしている会社は欧米の会社が多いです。ならば、そのルーツを押さえるために欧米に進出していかなければならないと、ソウルや上海へ徐々に拡げた後に、欧米にもトライしました。

 欧州では、まずオランダの会社を買収しました。実は、欧州は不思議なくらいにネットリサーチがないんです。そこでクライアント基盤がしっかりいる会社を買収し、日本でうまくいったモデルとして紹介してもらうことで、欧州にネットリサーチを広げていきました。また、アメリカでの会社も買収し、現在のマクロミルは世界13カ国、営業拠点も30以上に増えました。
 

グライダーアソシエイツを起業した理由

田岡 2012年に、グライダーアソシエイツを創業されました。それは、どのような経緯だったのでしょうか。

杉本 antenna* もネットリサーチのビジネスモデルを考える中で生まれました。当時、最もシンプルな調査方法は、メールでアンケートをお知らせして回答してもらい企業にフィードバックする形態ですが、2010年頃からメールがあまり使われていないことに気づきました。

 キャリアメールがGmailやYahoo!メールに移り、それすらもSNSなどのメッセンジャーやコミュニケーションアプリに移行したことで、徐々にアンケート回収が遅くなっていきました。これは会社の存亡に関わると、スマートフォンやアプリが社業にどのような影響を及ぼすのかを考え始めたのです。
antenna*
田岡 自分たちでアプリやメディアをつくって知ろうと考えたわけですね。
杉本 簡単に言えば、そうです。ただし、アプリであれば何でもいいわけではなく、マーケティングに関係する必要があります。当時、P&Gやコカ・コーラなどが消費者と直接コミュニケーションを取れるようなコミュニティをつくっていました。また、グローバルカンファレンスでソーシャルマーケティングという言葉を聞くようになり、人員を割いてSNSにクライアントが何を求めているのかを調べました。

 そして明らかになったのは、これまでの知見だけでは到底対応できないことを企業が求めているし、一部の企業はすでに実行し始めているということ。スマートフォンにはカメラやGPSだけでなく、NFCも搭載されて決済までできます。例えば、企業はそうした機能を使って、各家庭の冷蔵庫を写真に撮って送ってもらったり、GPSをオンにして1週間動いてもらって、そのログを解析したりしていました。

田岡 調査会社を使わずに、自分たちでリサーチをするようになってきていたのですね。

杉本 そうなんです。ただ、それには弱みもあります。例えば、メーカーが自分たちでコミュニティをつくって調査をしても、自社のユーザーしか調査できません。しかし、本当に知りたいのは、競合他社のユーザーです。だから現状では、自社だけで調査が完結することはありません。とはいえ、簡単な調査であれば、自社だけでできる可能性もあるので、マクロミルにとっては好ましくない状況でした。

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