ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #23

週次のKPIレポートを自らSQLを叩き作成。高級宿予約Webサイト「一休」再成長を支えた社長業

データサイエンスチームを50人規模まで拡大させる

田岡 人材戦略については、どのように考えていますか。

データサイエンスのチームは、現在の5人から50人程度まで増やしたいと考えています。アプリケーションに強い人、インフラに強い人、サイエンスも分かるけれどビジネスにも強い人など、特徴の違う人がチームでサイエンスに向かわなければ結果は出ないというのが最近の結論です。そのうえ、データサイエンスは第一線で活躍している人を揃えなければ、大きな結果にはつながらない。もしかしたら、そうした人材を揃えるのが、社長としての一番大きな仕事かもしれませんね。

田岡 そうなると、現在採用競争が激しいそういった人材に一休を選んでもらわなければなりませんよね。選ばれるための強みは、何だと思いますか。

大きな会社のデータサイエンス部門の役割は、PLに責任を持っている部門に対するアドバイスだと思います。しかし当社であれば、データサイエンスの重要性を全員が理解しているため、事業責任者が「データが語るファクト」に対して反対することはないし、やりたいと思ったことが必ず実現できます。データサイエンティストが主役となって事業の方向性を決めていくぐらいに影響力があります。

 また、データが大きすぎると何百人のデータサイエンティストと共同で作業することになりますが、当社はデータ量が小さいため、実力さえあればデザインからアプリケーション構築、結果を出すところまで全てを一人で手掛けることができます。

田岡 今後の事業展開は、どのように考えておられますか。

引き続き、高級なサービスにフォーカスを当てて、宿泊事業やレストラン事業を展開していきたいと考えています。レストランは、それだけでビジネスが成り立つほど市場が大きいため、しっかり向き合いたいですね。宿泊はオンライン予約が既に主流ですが、レストラン予約はまだまだですのでチャンスがあります。
 
一休.comスパ
 それから、高級スパにも着手し始めています。女性からすると、高級スパは本当に至福の時間らしいんです。会社のミッションが「こころに贅沢させよう」ですので、それが実現できるサービスにも、事業領域を広げていきたいと考えています。


田岡氏 対談を終えて
 打ち手の順番論が重要だと思うのは、「1.ある打ち手の実施から得られる学習を次の打ち手に活かせるようにデザインできると、連続した打ち手の効果が最大化する」「2.外様のリーダーとして組織に入って行く際には、まずは効果を早く確実に出せる施策から取り組みメンバーの信頼を得て、インパクトは大きいけれど困難な課題にチーム一丸となって挑む必要がある」からです。

 様々な打ち手の前にまずは顧客理解を深められていますが、広告掲載を止める、宿泊施設側ではなくユーザーファーストで運営する、引き続き高級宿泊施設に特化する、といった部下の意見と違う意思決定も、深い顧客理解によりご自身の中に確固たる顧客像があるからこそ出来たのでしょう。

 榊さんの、金融のトレーディング業務をしていたことや米大学院でコンピュータサイエンスを学んでいたことも、KPI週次レポートを作成するために毎週日曜出勤し、コードも今だに書くというユニークなスタイルの社長業につながっていると思いました。オーナー社長はユニークなスタイルの方が多いですが、そうではないのにご自身の特長を活かしたスタイルを貫いているのは、出来そうでなかなか出来ないのものなので、素晴らしいなと思います。

 顧客の購買を分析して高級宿泊施設ヘビーユーザーにフォーカスされたとのことですが、ユーザーの利用頻度に偏りがある商品やサービスでは必ず最初にやるべき分析だと思います。例えば、引っ越しは年に何回もする人はいませんので、年間引っ越し回数は0か1しかありません。コンビニも利用頻度に大きな偏りがありますね。

 ビジネス宿泊予約者はレコメンドのモデリングから外したという話がありましたが、需要を喚起できる商品やサービスなのかそうでないのかによって大きくアプローチが変わります。引越しの例でいうと、引越し業者は「マイホームを買って引越ししませんか?」という需要喚起は当たり前ですがしません。それは住宅メーカーなどの役割です。宿泊でも、「そうだ京都、行こう。」が典型ですが、旅行は需要喚起できますが、「出張に行きませんか?」という需要喚起を宿泊施設が行うのは甚だ非効率です。出張時需要喚起を街をあげてビジネス化しているのがラスベガス。多くのカンファレンスが行われていますが、「ラスベガスに行きたい」から「そのカンファレンスに行く」という出張の需要喚起をしています。

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